横断的研究の例|【統計学・統計解析講義応用】
横断的研究の例
ミンデルとヤコブソン〔Mindell & Jacobson, 2000】は,妊娠中の睡眠パターンと睡眠障害の罹患率を査定した.
横断的デザインをもちい,妊娠期間の次の4時点にある女性たちを比較した.
つまり,8〜12週,18〜22週,25〜28週,35〜38週である.睡眠障害は,とくに妊娠後期によくみられる,という結論を得た,
縦断的デザイン
長期にわたって,複数の時点でデータを収集する研究は,縦断的デザイン(longitudinal design)をもちいる(手術後の患者から2日間にわたりバイタルサインについてのデータを収集する研究は,縦断的とはいわない).
縦断的デザインには,いくつかの種類がある.
傾向研究(trend study)は,母集団から抽出した標本を,ある特定の現象に関して継時的に研究するものである.
異なる標本を,間隔をおいて繰り返し選ぶが,それらの標本は常に同じ母集団から抽出する.
傾向研究は,継時的な変化のパターンと割合を検証し,将来の動向を予測できるようにする.一般に,傾向研究は調査(survey)に基づいている.
傾向研究の例
グリーンフィールド,マイダニク,ロジャーズ〔Greenfield, Midanik, & Rogers, 2000〕は. 1984年. 1990年. 1995年の全国アルコール調査を利用して,米国における10年間のアルコール消費の傾向を研究した,
1984〜1990年のあいだに,重度飲酒の割合は下降したが. 1990〜1995年のあいだには変化はなかった.
コホート研究(cohort study)は,傾向研究の特殊なもので,特定の集団を継時的に検討するものである.
ふつうは,ある年齢に関連している特定の集団から標本を抽出する.
たとえば, 1946年から1950年までの期間に生まれた女性のコホート(出生コホート)を一定の間隔で調査して,そのヘルスケアの利用率を調べることができる.
横断継続的デザイン(cross-sequential design)というデザインでは,2つ以上の年齢コホートを縦断的に調査し,これによって,継時的変化と世代(コホート)差とを明らかにできる.
パネル研究(panel study)は,同じ人々をもちいて,2回以上の時点でデータを収集する.
パネル(panel)という用語は,データを与えてくれる対象の標本を指す.
同じ人々が継時的に調査されるので,変化した対象と変化しなかった対象との識別ができ,2つの集団を区別する特性を検証できる.
一例として,のちに喫煙をやめることのできた人々の先行特性を,継時的に探索するパネル研究をデザインできよう.
パネル研究では,研究者は,第1時点での状態や特性が,第2時点でのそれらにどのように影響したかを検証することもできる.
たとえば,第1時点で異なる健康関連行動をもつ個人において,第2時点での健康上の結果を調べることができるだろう.
パネル研究は,変化を調べる方法として魅力的だが,運営に費用がかかり,窮地に陥ることもある.
もっとも深刻な問題は,参加者が時とともに減っていくことである.
これを自然減(attrition)という.
なぜ自然減が問題かというと,途中で研究から脱落する人々と,最後まで残る人々とが,重要な側面で異なっていることが多く,結果的に偏り,一般化可能性に欠けるおそれがあるからである.
パネル研究の例
ウィルソン,ホワイト,コップ,ガリー,グリーン,ポポヴィッチ〔Wilson, White, Cobb, Curry, Greene, &Popovich, 2000〕は,父親と胎児,および母親と胎児のアタッチメントと,乳児の気質との関係性について探索した.
まず,妊娠第3期の妊婦とそのパートナーからデータを集めた.
これらの親のデータを,それから1年後,生後8〜9か月時の乳児の気質と関連づけた.
追跡研究(follow-up study)は,パネル研究とよく似たデザインである.
通常,特定の状況下に置かれた人や,特定の介入を受けた人の,その後の動向を判断するために行う.
さらに一般的な母集団から標本を抽出するパネル研究とは違う.
たとえば,特定の看護介入や臨床治療を受けた患者について,治療の長期的効果を調べることもあろう.
別の例として,未熟児から標本を抽出して,その後の認知能力や運動能力の発達を追跡することもできよう.
追跡研究の例
マクファーレン,ソーケン,ヴィースト〔McFarlane,Soeken, & Wiist, 2000〕は,親しいパートナーによる妊婦への暴力を減らすためにデザインされた3種の介入を検証した.
身体的虐待を受けた300人以上の妊婦の標本が,出産後2. 6. 12. 18か月後に面接による追跡を受けた.
要するに,縦断的デザインは,ある現象が時間の経過とともにどのように力動的に変化するかを研究するのに適している.
研究者は,研究の性質と利用できるリソースに基づいて,データ収集の回数とそれらの間隔を決定する必要がある.
変化や発達が速い場合は,回数を増やし,間隔を短くして記録する必要があろう.
最初のデータ収集から何年ものちに生じる結果に関心のある研究者は,長期にわたる追跡調査を行う.
しかし,間隔が長いほど自然減のリスクが増し,通常,研究にかかる費用も高くなる.
単独でデザインを決定しようとしてはならない,教授や同僚,研究コンサルタントなどの助言を求めよう.
ひとたびデザインを決定したならば,その選択の根拠を書きとめておくと役立つかもしれない.
その根拠をみせて,相談した人たちに,あなたの推論に不備があるかどうかを見つけてもらったり,さらなる改善のために助言できそうか,みてもらおう.
量的研究デザインは,実験研究と非実験研究に基本的に区別される.
実験(experiment)では,研究者は,受動的な観察者ではなく,能動的な執行者である.
現象について純粋に観察することは価値があるが,自然な状態で生起する事象の複雑さによって,重要な関係を理解するのがしばしばむずかしいことを,自然科学者は昔から知っていた.
この問題は,実験室で現象を孤立させ,それが生じる条件をコントロールすることによって処理されてきた.
自然科学者によって生みだされたこの方法は,19世紀になると生物学者に効果的に利用され,生理学や医学において多くの成果をもたらした.
20世紀には,人間の行動に関心ある研究者も,この実験的方法をもちいるようになった.
関連記事