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キャリーオーバー（carry over）とは、質問紙調査やアンケート調査において、先行する質問の内容や形式が後続の質問に対する回答に影響を及ぼす現象を指します。この現象は、回答者が前の質問で考えた基準や思考の流れを引き継いでしまうことにより生じ、結果として後続の質問における回答の内容や選択に偏りや一貫性が見られることが特徴です。たとえば、質問紙の冒頭に感情的な内容の質問が配置されている場合、その質問が回答者の感情を揺さぶり、次に続く質問における回答にその感情が持ち越される可能性があります。また、前の質問において提示された選択肢やフレームが、後続の質問を回答者がどのように解釈するか、あるいはどの選択肢を選ぶかにまで影響を与える場合もあります。このようなキャリーオーバーの影響は、質問の順序や形式に起因するものであるため、特に心理的要因が強く関与する調査では注意が必要です。たとえば、自己評価に関する質問が前に配置され、その直後に他者評価に関する質問が続く場合、回答者は無意識のうちに自分自身の回答に一貫性を持たせようとする傾向があります。これは「一貫性バイアス」と呼ばれ、キャリーオーバーの一種とみなされる現象です。この一貫性バイアスは、回答者が不自然な矛盾を避けようとする心理から生じるものであり、結果として調査データに歪みを生む可能性があります。さらに、キャリーオーバーの影響は、特定の回答を誘導するような先行質問のデザインによって増幅されることもあります。たとえば、調査者が意図せずに誘導的な表現を用いた場合、回答者はその誘導に応じて次の質問にも類似した回答をする傾向が高まります。これにより、調査の信頼性や妥当性が損なわれるリスクが生じます。さらに、キャリーオーバーは回答者の認知負荷にも関連しています。回答者が複数の質問に答える際、それぞれの質問に対する集中力が低下することで、前の質問の影響を受けやすくなるのです。特に長時間にわたる質問紙調査では、回答者の疲労や注意力の低下により、キャリーオーバーの影響が顕著になることがあります。このような状況では、調査結果の質が低下しやすく、データの信頼性が低下するリスクが増大します。このため、キャリーオーバーを抑制するためには、調査設計の段階から慎重に対応策を講じることが求められます。たとえば、質問の順序をランダム化する方法や、質問の間に緩衝質問（バッファクエスチョン）を挿入する方法が有効です。緩衝質問を用いることで、回答者が前の質問から受けた影響を軽減し、次の質問における回答の独立性を確保することが可能となります。また、質問の内容をなるべく具体的かつ明確にすることで、回答者が個別の質問に集中できる環境を整えることも重要です。さらに、キャリーオーバーの影響を評価するために、事前調査を実施することも有効な手段です。事前調査により、特定の質問順序がどのように回答に影響を与えるかを検証し、必要に応じて質問の順序や形式を修正することができます。このような対策を講じることで、キャリーオーバーによる影響を最小限に抑え、調査結果の信頼性と妥当性を高めることが可能となります。また、調査結果の解釈においても、キャリーオーバーのリスクを考慮することが重要です。たとえば、回答の傾向に一貫性や偏りが見られる場合、その原因がキャリーオーバーに起因する可能性を慎重に検討する必要があります。キャリーオーバーを完全に排除することは難しいものの、その影響を最小化するための適切な設計と解析手法を採用することで、より正確で信頼性の高い調査結果を得ることができるでしょう。このように、キャリーオーバーは質問紙調査において避けて通れない課題ではありますが、その影響を理解し適切に対処することで、調査全体の質を向上させることが可能となります。