自己注意(Self-Attention)|次世代トランスフォーマー技術【東京情報大学・嵜山陽二郎博士のAIデータサイエンス講座】

自己注意(Self-Attention)は、入力された各単語が文中のどの単語にどれだけ依存しているかを重みづけして計算する仕組みであり、トランスフォーマーの核心となる技術である。各単語ベクトルはクエリ・キー・バリュー(Q/K/V)に変換され、クエリとキーの類似度から重要度を求め、その重みに基づいてバリューを加重平均することで文脈情報を統合する。これにより単語同士が離れていても相互参照が可能となり、従来のRNNのような逐次処理なしに長距離依存関係を効率的に捉えられる。さらに並列計算が可能なため大規模モデルでの高速処理を実現し、翻訳、要約、対話など多様な自然言語処理(NLP)タスクの精度向上に大きく寄与している。
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自己注意の概要と役割
トランスフォーマーの中核技術としての位置づけ
自己注意(Self-Attention)は、トランスフォーマーにおける最も重要な中核技術として位置付けられており、自然言語処理(NLP)だけでなく画像、音声、マルチモーダルAIなど幅広い分野で応用されている。自己注意の基本的な考え方は、文中のある単語を理解するために、その単語と他の単語がどの程度関係しているかを計算し、重要度に応じて情報を統合するという点にある。
従来手法との比較
RNNとの処理方式の違いと長距離依存の獲得
従来のRNNやLSTMのように左から右へと順番に処理していく逐次型モデルでは、遠く離れた単語同士の依存関係を扱うのが困難だったが、自己注意ではすべての単語同士の関係を一度に計算できるため、長距離依存を効率よく捉えられる。
Q/K/Vの構造
クエリ・キー・バリューの役割
この仕組みを実現するために、各単語の埋め込みベクトルからクエリ(Query)、キー(Key)、バリュー(Value)と呼ばれる3種類のベクトルを生成する。クエリは「どの情報を必要とするか」、キーは「どの情報を提供できるか」、バリューは「実際に統合される情報そのもの」を表す。
注意重みの計算
内積・類似度とSoftmaxによる正規化
自己注意では、クエリとキーの内積を計算し、その類似度に基づいて重み(attention weight)を求める。類似度が高いほど、その単語は注目すべき重要な情報として扱われる。そして、得られた重みをバリューにかけ合わせて加重平均を取ることで、各単語が文全体から必要な情報を自動的にまとめ上げた新しい表現が得られる。特にSoftmax関数を用いて重みを確率的に正規化することで、文中でどの部分が強く参照されているかが明確になる。
スケールド・ドットプロダクト注意
スケーリングによる学習安定化
スケールド・ドットプロダクト注意(Scaled Dot-Product Attention)では、内積値が大きくなりすぎて学習が不安定になるのを防ぐため、キーの次元数の平方根でスケーリングする工夫が施されている。
マルチヘッド注意
複数視点からの文脈把握
自己注意を複数並列に計算するマルチヘッド注意(Multi-Head Attention)により、文の異なる側面を同時に捉えられる。例えば、一つのヘッドは主語と述語の関係に注目し、別のヘッドは目的語との関係を捉えるなど、多面的な文脈の理解が可能になる。これによってモデルは多様な視点から文を解析し、高度な表現能力を獲得する。
計算効率と並列性
並列計算による高速処理
自己注意には並列処理が容易であるという利点があり、GPUやTPUなどの計算資源を最大限に活用できる。RNNのような逐次処理では前の状態が計算されるまで次の処理ができず計算効率が低かったが、自己注意は全単語の関係を一度に計算できるため、大規模学習での高速化を実現している。
応用領域の拡大
自然言語処理から画像・音声・動画へ
自己注意は自然言語処理(NLP)に留まらず、Vision Transformer(ViT)では画像をパッチに分割してトークン化することで画像内の遠距離関係を捉えられ、さらに音声、動画、マルチモーダルAI、強化学習へと応用領域が広がっている。これはCNNの局所性を超えた柔軟な表現学習を可能にする点で極めて重要である。
総合的な意義
AI発展を支える基盤技術
総じて、自己注意は「文中のどこに注目すべきか」をモデル自身が学習し、柔軟かつ効率的に情報を統合する革新的な仕組みである。トランスフォーマーの性能を支える基盤となり、AIの急速な発展を牽引してきた中心的技術といえる。







