Estimand【医療統計解析】

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Estimand|【医療統計学・統計解析】

Estimand【医療統計解析】


目次  Estimand【医療統計解析】

 

 

Estimand

ICH E9(R1) 臨床試験のための統計的原則 補遺 臨床試験におけるEstimand と感度分析によると,Estimandとは試験の目的に応じて示される関心のある科学的疑問に対応する推定の対象と定義されています.

 

要は,臨床試験で「何を推定したいのか」を規定した内容です.

 

治療効果を定量的に評価することは,医薬品開発における重要課題です.

 

通常,治療効果は,治療による結果と,異なる治療条件下(例えば治療を受けなかった場合や,異なる治療を受けた場合)で,同一の被験者に起きる可能性のある結果との比較により評価します.

 

評価項目(関心のある変数)の値と中間事象(治療開始後に発現し,変数を観測できなくする,又は変数の解釈に影響を与える事象)の発現はどちらも受けた治療に依存するため,治療効果を評価項目で記述する際には中間事象を考慮する必要があります.

 

治療効果の定義がEstimandによって規定される場合は,中間事象の発現後の評価項目の値が適切なものか,また中間事象の発現の有無をどのように考慮するか,関心のある科学的疑問に対する答えを得るために何を推定する必要があるのかを検討する必要があります.

 

 

臨床試験におけるEstimandのフレームワーク

 

Estimandは,臨床試験においては,図1のフレームワークに従う.試験の目的,推定の対象(Estimand),推定の方法(推定量,つまり推定値を得る方法)及び感度分析は明確に区別されます.

 

Estimand【医療統計解析】
図1 臨床試験のフレームワーク

 

ここで注意すべきは,Estimand→主とする推定量であり,その逆(主とする推定量→Estimand)であってはなりません.

 

Estimand,つまり答えを得ようとしている科学的疑問を決めるために推定量を選択するのではなく,適切な順に沿って試験計画を進めることが重要です.

 

Estimand は次の4つの要素により記述されます.

 

A. 対象集団,すなわち,科学的疑問の対象となる患者

 

B. 評価項目,すなわち科学的疑問の答えを得るために必要な,各患者について得るべき変数

 

C. 中間事象,すなわち関心のある科学的疑問を反映するために,中間事象をどのように考慮するか

 

D. 要約,すなわち必要に応じて治療条件間の比較のための基礎となる,集団レベルでの変数の要約

 

関心のある治療効果を定義する Estimandは,これらの要素により記述します.

 

Aの対象集団は,治験実施計画書における選択/除外基準に基づいて組み入れられる患者集団です.

 

Bの評価項目は,測定値(例えば,血圧の測定値),測定値の関数(例えば,HbA1cのベースラインから一年後までの変化量),又は臨床結果に関連する量(例えば,死亡までの期間,入院までの期間,再発回数)です.

 

評価項目には中間事象が含まれる場合があり,例えば,治療の中止といった中間事象に対して,変数に治療中止の前までの測定値を用いる(例えば,中止までのHbA1cの曲線下面積や,治療中に血圧値が維持されていた週数を用いる),又は複合的な変数を用いる(例えば,無効又は治療中止を治療失敗として定義する)場合です.

 

Cでは,複数の種類の中間事象が存在すると評価項目の解釈に影響を及ぼすことがあります.

 

例えば,計画された血圧の測定時点よりも前に被験者が死亡した場合には,その被験者の血圧値は観測されないことになります.

 

被験者が,治療に加えてレスキュー薬を使用した場合には,血圧値は観測され得るが,その値は治療とレスキュー薬を併用した効果を反映することになります.

 

被験者が毒性により治療を中止した場合には,血圧値は観測され得るが,その値は治療を受けていない時に治療効果がないことを反映することになります.

 

中間事象に何を検討すべきかについては,特定の治療の設定や試験の目的に依存します.

 

レスキュー薬の使用を例とすると,

 

@治療の効果と中間事象(この場合はレスキュー薬の使用)の複合的な効果

 

A中間事象が発現しないかもしれないという仮想的状況における治療の効果

 

の二つの異なる説明が考えられます.

 

Dは,集団レベルでの変数の要約指標です.

 

例えば,HbA1c のベースラインから一年後までの変化量の平均値や,反応に関する特定の基準を満たす被験者の割合があげられます.

 

治療間の比較の場合,要約指標は,二つの異なる治療条件下における,HbA1cのベースラインから一年後までの変化量の平均値の差,特定の基準を満たす被験者の割合の差又は比といったものになります.

 

中間事象に対応するためのストラテジー

 

Estimand の要素A〜Dは互いに関連しており,独立ではありません.

 

また,Estimand の記述は,関心のある科学的疑問を起こり得る中間事象にどのように反映させるかを示さなければ,完全なものとはなりません.

 

そこで,中間事象に反映させるために少なくとも5つのストラテジーが考えられます.

 

ストラテジーは,複数の異なる中間事象に対応するために,単独で又は組み合わせて用いることができます.

 

ストラテジーの適切性は,治療背景や試験の実験的側面に依存します.

 

ストラテジーには以下のものがありますが,実際にEstimandを構成する際には,選択したストラテジーについて十分な記述をする必要があります.

 

 

治療方針ストラテジー

 

中間事象の発現は問題としない,つまり,中間事象の発現の有無に関わらず関心のある評価項目の値を用います.

 

例えば,レスキュー薬の使用を中間事象としてどのように考慮するかを規定する際に,中間事象の発現は無視し,関心のある評価項目の観測値を用いることとします.

 

通常,このストラテジーは,全ての被験者において中間事象の発現後も評価項目の値が存在しなければ適用することができません.

 

例えば死亡により測定できない評価項目に関しては適用することができません.

 

複合ストラテジー

 

中間事象を他の臨床結果の指標と統合して関心のある評価項目とします.

 

複合ストラテジーでは複数の異なる手法を考えることができます.

 

レスキュー薬の使用を必要とすることは,治療効果について意味のある情報を持つ可能性があるため,意味のある治療効果を説明する適切な要約指標とともに評価項目に組み込まれます.

 

例えば,評価項目を,レスキュー薬を使用しないことと良好な臨床結果を複合したものとして定義することができます.

 

また,計画された観察期間を反映しますが,中間事象の前までの評価項目の値に基づく,曲線下面積を用いることもあります.

 

中間事象自体が,関心のある治療効果を定量化するために最も意味のある評価項目である場合もあります.

 

例えば死亡が起きる場合はこれに相当します.

 

被験者が死亡したという事実は死亡前の観測値よりもはるかに意味がある可能性があり,また死亡後の観測値は存在しないからです.

 

例えば,心筋梗塞に注目した試験において,死亡した被験者に心筋梗塞が起きていたか,又は起きたであろうかを調べることは必ずしも可能ではないが,評価項目を死亡又は心筋梗塞を複合したものと定義すれば評価が可能です.

 

仮想ストラテジー

 

中間事象が発現しなかった状況を想定します.

 

関心のある科学的疑問を反映する値は,仮想的な状況において得られると想定される評価項目の値とします.

 

例えば,倫理的な配慮からレスキュー薬の投与を許容しなければならないが,関心のある治療効果としてはレスキュー薬を使用していない状況下での結果が重要であるかもしれません.

 

同様に,治療が失敗したためその治療を中止し,他の実薬治療を行う場合(対照群に割付けられた被験者が試験治療に切り替える場合も含む)も,関心のある治療効果としてはその実薬治療を行わなかった場合の結果が重要であるかもしれません.

 

これらの例において,レスキュー薬を使用していない状況と他の実薬治療がない状況は,異なる仮想的な条件を反映しています.

 

これらの場合,Estimand を正確に記述するために,中間事象としてレスキュー薬の使用と治療遵守の両方に,仮想的な条件がうまく対応することが必要です.

 

主要層ストラテジー

 

対象集団を,中間事象が起こらない主要層とします.

 

例えば,関心のある対象集団は,治療計画の不遵守が起こらないであろう患者層であるとされます.

 

言い換えれば,主要層はより広い集団のうち中間事象の発現がない部分集団となります.

 

一般に,中間事象の発現の有無は予測できないため,試験に先立ってこの被験者を特定することは不可能です.

 

したがって,主要層に該当する被験者かどうかは,不完全となる場合が多いものの,共変量によって推論しなければなりません.

 

一方で,割付けられた治療を受けている状況での中間事象の発現に基づいて主要層に該当する被験者を特定すると,その集団に基づく解析による治療効果の推定には,交絡が生じる恐れがあります.

 

なぜなら,異なる被験者は,異なる治療で異なる中間事象を経験するからです.

 

治療下ストラテジー

 

中間事象の発現前までの治療に対する反応を関心の対象とします.

 

例えば,純粋な対症療法について,末期の疾患のある被験者で死亡により対症療法が中止となっても,その治療の成功については死亡前の症状に対する効果に基づいて評価することができます.

 

あるいは,被験者は治療を中止するかもしれませんが,状況によっては治療計画を遵守している期間の薬剤の副作用のリスクを評価することが関心の対象となることがあります

 

以上,5つの異なるストラテジーについて紹介しましたが,中間事象を取り扱うのに,より適切なストラテジーを記述する際には,正確であることが重要です.

 

治療計画の遵守について考えると,

 

@「全ての被験者が治療計画を遵守したとしたら」という仮想的な状況

 

A「試験薬が投与される場合に治療計画を遵守できるであろう」患者層

 

B治療計画を遵守している間の効果

 

に基づく治療効果を区別することが最も重要です.

 

 

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