後ろ向きコホート研究|【医療統計学・統計解析】
後ろ向きコホート研究
時間軸の流れでみると,コホート研究は「曝露要因→アウトカム」と,症例対照研究とは逆に順行であり前向き研究である.
症例対照研究はすべて起こってしまった過去のことを解析するものであるのに対して,コホート研究はこれから起きる未来のことを迫跡するものである.
前述の後ろ向き研究と前向き研究は,縦断研究に属する.
ただし,コホート研究には,「後ろ向きコホート研究」もある.
後ろ向きコホート研究
前向きコホート研究では,研究者が対象者の曝露要囚を調べるところから研究が始まるのに対して,後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)では,すでに特定の要因に曝露した集団を対象として,研究者がその集団の疾病頻度を前向きに追跡調査することで,曝露要因と疾病の因果関係を調べる.
言い換えると前向きコホート研究ではアウトカムが発生する前に対象者を集めて追跡するのに対して,後ろ向きコホート研究ではアウトカムが発生した後で研究計画を作成し調査を行う.
後ろ向きコホート研究は症例対照研究と混同されやすいが,症例対照研究は後ろ向きであるのに対して,後ろ向きコホート研究は過去から現在に向かってあくまでも前向きに追跡調査を進める.
ここでいう後ろ向きというのは,曝露要因が過去にあり,その過去をいったん振り返るという意味である.
すなわち,後ろ向きコホート研究の起点は過去であり,観察の方向はあくまでも前向きである.
後ろ向きコホート研究は,前向きコホート研究とは異なりまれな疾患の研究に適している.
コホート研究の難点
コホート研究は外的妥当性が高く優れた研究デザインであるものの,莫大な労力と費用時間を要するため,容易に実施することが難しい.
追跡観察する期間が短いとアウトカムが発生するまでにいたらないため,誤って予後を軽く見積もったり,リスクを小さく見積もってしまう可能性が人きくなる.
また,コホート研究は比較的バイアスが少ないといわれるが,ランダム化されていないため,後述のランダム化比較試験と比べて背景因子に交絡とよばれるバイアスの一種が生じやすい.
コホート研究では,死亡や転出などの理由で途中から対象を追跡観察することができなくなる,「脱落」がつきまとう.他方で,追跡率が低下すると,解析時の対象とした集団は母集団を代表する集団とはいえなくなってしまう.
症例対照研究がまれな疾患に適しているのとは逆に,コホート研究はまれな疾患の研究には適さない.
国内外のコホート研究
知名度の高いコホート研究として,米国北部のマサチューセッツ州フラミンガム町で行っている「フラミンガム(Framingham研究)が知られている。
喫煙や肥満,脂質異常症などが狭心症や心筋梗塞の危険因子であることが明らかにされ,リスクファクターという用語もこの研究で初めて用いられた.
国内でも,喫煙や食習慣などの生活習慣とがん死亡などの関連を検討することを目的として,福岡県福岡市に隣接した糟屋郡久山町の住民を対象に1961年から実施されている「久山町研究」や,滋賀県長浜市の「ながはまコホート」などが知られている.
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