症例報告書のチェックと修正【医療統計解析】

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症例報告書のチェックと修正|【医療統計学・統計解析】

症例報告書のチェックと修正【医療統計解析】


目次  症例報告書のチェックと修正【医療統計解析】

 

 

症例報告書のチェックと修正

 

症例報告書のチェックはいくつかのステップに分けて行われることになるが,最初のステップは一般的に,症例報告書を入手しコンピュータに臨床試験データを入力する前に行われた目視による単純チェックである.

 

この後,コンピュータに臨床試験データが入力されるが,臨床試験データの入力確認のためには,ダブルエントリーなどの方法と併せて読み合わせを行うことが多い.

 

読み合わせのためには,単純にデータをプリントアウトしたものを用いることも考えられるが,バリデーションされたコンピュータプログラムにより症例報告書のレイアウトに類似した,理解しやすい出力が用意されている方が効率的である.

 

また,たとえコードで入力したとしても,出力にはコードだけではなくコードに対応した具体的な内容が併記されている方が読み合わせを行いやすい.

 

ただし,読み合わせという作業は単調なため,ミスを起こしやすいという問題がある.

 

少なくとも一人だけで確認するのではなく,二人でペアを組み一人が症例報告書の記載を読み上げてもう一人がプリントアウトを確認するという文字通りの読み合わせを行うべきであるが,ペアによってはエラーが多い場合もあるので注意が必要である.

 

また,テキストファイルを音声出力するというコンピュータソフトを用いて,読み合わせリストの内容をコンピュータに読み上げるという試みがなされたこともあるが,エラーを激減させる絶対的な方法はないので,パートナーを変えるなどの地道な工夫が必要である.

 

次に,予め作成しておいたチェックリストを基に,臨床試験データに関する詳細な確認を行う.

 

この中には,投与開始日が同意取得日よりも前ということはあり得ないというような判断が論理的に下される項目が含まれ,これらについては入力した臨床試験データに対してコンピュータプログラムにより論理チェック(Edit Check)を行って,結果を参照しながらチェックが行われる.

 

また,項目によっては粗集計と呼ばれる単純集計や,クロス集計を行い,症例ごとではなく全体としてのはずれ値や問題となるデータが含まれていないかということを確認するのも有効な手段である.

 

しかしながら,臨床試験の症例数やチェックしたい内容によってはコンピュータプログラムによる論理チェックを準備することが効率的ではない場合もあり得る.

 

臨床検査値などの計量値については,数字を確認するよりも検査項目別に症例ごとの推移図や全体の幹葉図,あるいはBOXプロット(箱ひげ図; Box-and whisker plots)などのグラフィカルな出力を確認する方が効率的であり,エラーの発見に威力を発揮する.

 

このBOXプロットで示されている箱の下端,中央,上端の水平線は,それぞれ第1四分位数,中央値,第3四分位数を示し,はずれ値を除いた最小値と最大値まで箱の両端からひげ(Wisker)と呼ばれる垂直線を引いたものである.

 

「離れ値(Outside Data)」は,第1四分位数と第3四分位数の差である四分位範囲を基に,箱の端から四分位範囲の1.5〜3倍までの範囲に含まれる値である.

 

そして,「とび離れ値(Far out)」は離れ値よりもさらに外側にある値である.

 

この離れ値と,とび離れ値を合わせて「はずれ値(Outlier)]と呼ぶ.

 

なお,必要に応じて平均値を同時にプロットすることもある.

 

 

症例報告書のチェックリスト

 

データレビューの際に用いられるチェックリストについてのフォーマットなどに関する規定はなく、あくまでも組織内で担当者が使用しやすいフォーマットが統一化されていれば問題ない.

 

可能であれば複数回のチェックをしておくことが望ましい.

 

チェックリストにおける実際の課題は,何をどこまでチェックするかということである.

 

先に述べた通り,品質基準は目的に応じて,実施可能性や経済性も考慮して決められるべきであり,オーバースペックなチェックを行う必要はない.

 

往々にしてあまりに重箱の隅をつつくようなチェック項目が設定されているのを見かけることがあるが,品質基準については慎重に検討して決定すべきである.

 

そして,チェックリストは臨床試験データが品質基準に合致していることを確認する大切な作業に用いられるものであると同時に,実際に品質確認であるデータレビューを行ったという大切な証拠となるので,きちんとした管理を行うことが必要である.

 

このため,チェックリストにないことを問い合わせるべきではなく,このような場合にはチェックリストを改訂した上で,問い合わせを考慮すべきである.

 

また,チェック内容として記載している文章については,誰が読んでも一意に理解できることが必要である.

 

たとえば,「心機能異常が認められないこと」をチェック項目にすると,何を心機能異常とするかという定義を明確にしない限り,チェック結果がデータレビュアーにより異なってしまうという危険性がある.

 

オーバースペックの事例として引き合いに出されることが多いのが,白血球分画の合計が100%になっているかどうかの確認である.

 

計算上は難しいことではないので,データレビュアーがこれを確認することはさほど大変なことではない.

 

そして,症例報告書のいくつかの分画には記載がなく,ほかの分画の合計が100%になっている場合に,記載がない項目には0%を追記してもらうことを要求する場面が見受けられる.

 

しかしながら,わざわざ0%を追記してもらわなくても入力ルールでこのような取り扱いを規定しておき,事後に責任医師などに確認をお願いすればよいはずである.

 

また,合計が99%にしかならない場合に,残り1%が何であるのかを確認することは本当に必要なのだろうか.

 

異型リンパなどで1%程度の発現が観測されても,分画としての記載欄がないために記載されていないということも考えられ,測定の誤差も考えられる.

 

このため,98〜102%の範囲であればよしとして割り切るというような方が妥当かもしれない.

 

白血球分画については,異常変動を実測値で判定するのか比率で判定するのかという問題もある.

 

多くの場合,白血球分画の測定結果は比率,つまり“%”で表示されている.

 

このような場合に,比率に変化はないとしても白血球数が減少しているために分画の実測値が減少していることがある.

 

もしも,有害事象をNCI(米国立癌研究所; National Cancer Institute)で定めているCTC(Common Toxicity Criteria)グレードにより判定する場合には,実測値での判定が基準になっているため,比率での判定と不整合が生じてしまう.

 

分画の比率が一定であって,白血球数が減少していることにより分画の実測値が減少している場合には,重複して集計・解析してしまう可能性がある.

 

逆に,ある分画の実測値が減少していることにより白血球数が減少している場合にはほかの分画の実測値が変化していなくても全ての分画の比率が変化してしまうことになるため,集計・解析には注意が必要である.

 

このほかにもチェックそのものが難しい事例もある.

 

たとえば,併用薬の投与量が妥当であるか否かを確認しようという場合である.

 

併用薬については投与量により対象疾患が変わる薬剤があるのに加え,保険上認められていなくても臨床現場では高用量が常識的に用いられているという場合もあり,このような併用薬に対する確認は難しい.

 

先の白血球分画だけでなく,臨床検査値についてのチェックは難しい場合がある.

 

とくに臨床検査値の異常変動を確認する際に考えておかなければならないことの一つに,基準範囲を1時点でも外れたら異常変動とするかどうかということがある.

 

基準範囲を外れたのだから,当然,異常変動とするという考え方もあり得るし,どの程度外れたのかによるという考え方もあり得る.

 

また,基準範囲の中の変動であっても前値に比べて30%も変化しているのに異常変動とは考えないのかという場合もあり,臨床検査値異常変動の判定は悩ましい問題である.

 

これについては,予めルールを定義しておくしかない.

 

ただし,異常変動としないという場合には,何らかの判断根拠を示すことが必要になる.

 

また,何らかの都合で集中測定と施設測定の両方が実施されている場合に,値が大きく異なる場合がある.

 

このような場合にどうするのかという問題がある.

 

あるいは,集中測定が原則だが,何かの都合で施設測定の値は存在するが集中測定の値は欠測である場合に,施設測定の値を代替値として利用してよいかという問題もある.

 

これらの場合には,原則的には集中測定の値だけを採用するべきであり,明確に施設測定の値と集中測定の値が換算できる場合にのみ代替値として利用可能であると考えられる.

 

一方,医学的な判断を必要とする項目がどこまで実際にチェックできるかということも課題である.

 

とくに臨床検査値異常変動と有害事象についての問題が考えられる.

 

たとえば,ある臨床検査項目に異常変動が認められた場合,考えられそうな原因疾患が有害事象として記載されているかを確認するというケースや,Aという臨床検査項目に異常変動が認められた場合には通常Bという臨床検査項目にも異常変動が認められるはずであることからBでも臨床検査値異常変動が判定されているかを確認するようなケースである.

 

このあたりはデータレビュアーの判断に任せてしまうということは酷であり,もしもこのようなチェックをしたいならば,事前に医学専門家などと相談して具体的な項目に落とし込んでおくべきである.

 

あるいは,基本的なチェックを完了した後に,一括して医師によるレビューを受けるということによっても,このあたりのことをカバーすることができる.

 

症例報告書のデータ修正

 

症例報告書のデータ修正には,原則として担当医師への問い合わせ,あるいは担当医師からの依頼が必要であり,これらはモニタリングを通じて実施される.

 

特別なケースとして,症例報告書を修正しないで症例報告書とは異なったデータをコンピュータ上のデータとして入力する場合が考えられる.

 

これは,明らかに誰もが本来のデータを判別できる記入ミスなどについて臨床試験を依頼したセントラル側で判断してコンピュータ上にデータを入力し,医師などに事後に確認を求めるということであり,後で説明する修正履歴用紙などを併用することにより実現できる.

 

従来,日本では少なくとも治験においてはこのようなセントラル側での自主的な判断での修正は許されないというのが一般的な見解であった.

 

欧米では以前よりある程度のセントラル側での判断による修正は認められていたことからICHでの検討を経て,先に示した通り,答申GCPにおいて「治験依頼者が指名した者によって行われた症例報告書の変更又は修正においては,それらが文書に記録され,必要なものであり,かつ治験責任医師が承認したものであることを保証するための手順書を作成しておかなければならない(8-1-11-4)」という記載がなされた.

 

つまり,予め適切な手順書が作成されており,読み替えを記録した上で,それを医師などが確認することができれば問題はないということが明確化されている.

 

このケースでも最終的には医師とのコミュニケーションが必須であるため,症例報告書の修正にはモニタリングが必須条件と考えることができる.

 

症例報告書の修正に際しては,先に述べた症例報告書の変更または修正に関する手引きなどを利用して,修正に関する情報が適切に入手できるように努めなければならない.

 

 

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