認証がもたらすもの|【統計学・統計解析講義応用】
認証がもたらすもの
AAHRPPの設立目的は,施設における被験者保護を向上し,規制遵守を推進することである.
この二大目標を達成することによって,研究機関に対する社会および政府の信頼を回復することができると考えられた.
AAHRPP創設に至った理由は様々である.
2001年にジョンズ・ホプキンス大学で健康な被験者が1名死亡して以降,被験者の死亡が明らかになった事例はほとんどなく,大学病院で倫理原則遵守の保証が保留となったヶ−スもない.
米国議会は被験者保護に対する関心を失ってしまったかのようであり, 2003年以降に審議された法律案は,唯一DeGette下院議員が提出したものである.
しかし.認証を受ける施設は,減少していない.
事例を調べてみると,施設が認証を受ける理由にはいくつかあることがわかる.すなわち,
(1)被験者保護プログラムを適切な形に整えること. (2)効率性を向上すること,(3)研究費の審査が通りやすくなることである.
施設からの報告では被験者保護対策が向上したとの報せが寄せられているが,それに加えて,治験薬の臨床試験に携わった研究者に対してFDAが2008年と2009年に実施した調査したところ,両年ともに認証を受けた施設に従事する研究者の方が評価が高かった.
すなわち,「指摘事項なし」(NAI : No Action Indicated)の区分に該当した割合が多く,「改善推奨事項あり」(VAI : Voluntary Action Indicated)の区分に該当した割合は低かった.
AHRPPは,被験者保護局(Office for Human Research Protections, OHRP)が同時期に出した通知書を分析したところ,認証を受けた施設では.通知書が送られた割合が低く,通知はすべて重大な違反とは無関係であった.
また,それぞれの指摘事項は,その後速やかに改善されている.
AAHRPPでは. 2009年以降,被験者保護プログラムの評価指標について,データ収集を開始した.
評価指標データの収集は,認証機関や非認証機関が実施状況を他と比較することを目的としている.
IRBによる審査期間と評価の質とは関連性がないと批判されることが多いが,審査期間の長さと研究者や試験依頼者が抱く満足度との間には相関性がある.
AAHRPPが認証している施設においては,申請からIRBによる初回審査までの所要日数は25日であり,迅速審査の場合は18.5日,適用除外審査の場合は18.1日であった.
このような指標は,被験者保護プログラムの効率や有効性を理解する目的で収集されたデータから得られた初めての有益な情報である.
AAHRPPでは,今後収集する指標を拡大し,経済的利益相反の開示と管理,契約交渉期間や研究者の資質等他の分野も対象とすることを検討している.
AAHRPPによる認証を受けていることは,施設が優れた被験者保護プログラムを実践していることを試験依頼者に示している.
ファイザー社は,製薬会社として初めて,多施設共同治験の審査には認証を受けた施設外IRBしか用いないこと,他の条件が同じであれば,認証を受けていない施設よりも認証を受けている施設を優先することを発表した.企業スポンサーでは,多施設共同治験を審査する施設外IRBに対して認証を受けていることを要求するところが多く.認証を受けた施設を優先するところも多い.
大学研究機関においては,認証を受けていることによって.共同研究が行いやすくなる.
認証を受けた他大学における実施基準を信頼することができるようになる.
また,認証制度によって.各協力施設における方針や手順に一定の水準が確保されるため,協力施設の職貝の能力も同程度となり,「話しが通じる」関係を維持することができる.
認証制度によって共同研究が進展している例として,カリフォルニア大学の事例,ハーバード大学におけるIRB相互承認協定やCTSAがある.
過去10年問にAAHRPP認証制度は,研究機関に根付いた.今後数年のうちに. NIH研究費を受給している大学医療センターの85〜90%は,認証取得を完了していることと思われる.
認証制度が普及することによって,被験者保護対策が標準化され,監督システムの効率性や有効性がますます向上するものと考えられる.
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