誤解されやすい有効率:分子分母の正しい理解|有病率・感度・特異度・陽性的中率【統計学・統計解析講義基礎】
有効率は誤解されやすいが、分子分母の正しい理解が大切。有病率・感度・特異度・陽性的中率も分子分母を正しく理解する
目次 誤解されやすい有効率:分子分母の正しい理解|有病率・感度・特異度・陽性的中率【統計学・統計解析講義基礎】
インフルエンザワクチンの有効率
インフルエンザワクチンの「有効率60%」という意味は、インフルエンザワクチン接種者100人のうち60人がインフルエンザに感染しないという意味ではありません。
インフルエンザワクチン接種を受けずにインフルエンザにかかった人の100人のうち60%・60人は接種を受けていればインフルエンザを予防できたという意味です。
たとえば80人の生徒がいる学校で1組(40人)は全員非接種、2組(40人)は全員接種とします。
未接種の1組で10人が発症し、接種の2組で4人が発症したとすると、10人中6人が発症しなくて済んだということで、有効率60%となります。
つまり、この場合の有効率すなわち条件付き確率では、「インフルエンザワクチン接種を受けずにインフルエンザにかかった人」を分母にとるのが正解です。
しかし、「インフルエンザワクチン接種者」を分母にとる方が直感的には理解しやすいため、このような誤りをきたすわけです。
これは統計学というより分母に対する知識があるかないかの問題です。
有効率の理解は、条件付き確率と同様、分子分母が何であるかの正しい理解が必要です。
腫瘍マーカーは当てになるの?
健康診断で、オプションで腫瘍マーカーを診てもらおうかどうしようか、と話題になることがよくあります。
特に関心時となるのは、検査結果が陽性の場合どれくらいの確率で本当に癌があるかということです。
この指標として陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV)があり腫瘍マーカーの診断効率の評価を行うときに重要です。
例えば以下の例でPPVがいくらになるか考えてみましょう。
有病率というのは大腸癌の症状のない人間ドック受診者を分母としたときの大腸鏡検査で明らかに大腸癌と診断された人(大腸癌陽性)の割合です。
有病率1%ということは、1000人が人間ドックを受診したとき大腸癌陽性が10人という意味です。
一方、大腸癌のCEA検査の感度(CEA陽性を大腸癌陽性と正しく判定する確率)は80%、CEA検査の特異度(CEA陰性を大腸癌陰性と正しく判定する確率)も80%とすると、表のような結果になり、PPVは3.8%となります。
PPVがわずか約 4%、すなわち 96%に誤警告をすることになり、検査を行ったことがムダであっただけでなく,受診者に著しい経済的・精神的負担を負わせることになります。
しかしこれはあくまで有病率の低い一般診療所の場合であって、有病率の高いがん専門病院では陽性的中率はより高くなり腫瘍マーカー検査が妥当であるとされております。
有病率・感度・特異度・陽性的中率
有病率、感度、特異度、陽性的中率、これらはいずれも医療統計学ではよく登場してくる用語です。
それぞれ分子分母が何であるかを正しく理解しましょう。