心臓病患者のQOLを解く鍵:医療モデルの優位性【ChatGPT統計解析】
Romneyらは心臓病患者のQOLを解析するため、手術後6か月のデータを基にパス解析を実施した。469名の患者から得た58項目を因子分析し、(a)意欲の低下、(b)病気の症状、(c)神経学的機能障害、(d)対人関係の少なさ、(e)社会経済的地位の低下の5因子を抽出した。医療モデルでは病気や神経障害が心理社会的因子に影響を与えると仮定し、心理社会的モデルでは逆に社会的因子が症状を悪化させるとした。両モデルに重回帰分析を適用し、医療モデルは観測データとの適合性が心理社会的モデルより良好であり、残差平均絶対値が0.02と0.05であった。これにより医療モデルの方がデータに適合していることが示唆された。
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パス解析の医療モデルと心理社会学的モデル
心臓病患者に対する2 つのQOLモデル
Romney, Jenkins, Bynner (1992)は心臓病患者のQOLを研究するためにパス解析を用いた。
彼らは心臓血管病の手術6か月後の患者から集めたQOLデータ(Jenkins, Stanton,1984)を再分析した。
このデータは患者に対するインタビューや,質問紙,病院のカルテから集められたものだった。
それらは469名の患者から,58の項目と尺度について回答を得たものである。
これらのデータはJenkins, Jono,Stanton, Stroup (1990)によって因子分析がすでにされており, 58の項目からいくつの因子がつくれるのか,その因子が何なのかについて報告されている。
それに基づく以下の5 つの因子を使って,Romneyらは彼らの分析を行った。
5 つの因子とは,(a)意欲の低下,(b)病気の症状,(c)神経学的機能障害,(d)対人関係の少なさ,(e)社会経済的な地位の低下,である。
Romneyらは,因子が互いにどのように影響し合うかについて,異なる2 つの因果モデルを仮定した。
その後彼らは,2 つのモデルがどれだけ観察データに適合するのかを判定した。
モデルの一つは伝統的な医療モデルである。
すなわち,病気の症状と神経学的機能障害が,心理社会的・経済的因子に負の影響を与えるというものである。
もう一つは心理社会的モデルである。
すなわち,神経学的機能障害や社会経済的な地位の低下が意欲を下げ,それが症状をさらに悪化させ,対人関係の少なさを導くというものだ。
パラメータは,重回帰分析によって得られた。
相関行列を入力データとして,重回帰分析が3 回医療モデルに適用された。
同様に,心理社会的モデルにも重回帰分析が3 回適用された。
病気の症状と神経学的機能障害の間の相関は,入力した相関行列から得られた。
残差分散は1 からそれぞれの寄与率を引いて得られた。
各モデルにおける直接・間接的な因果的影響の効果はパス係数を使って手計算で算出した。
さらに,間接的な影響を報告する最も一般的な方法として,間接効果は実質的に意味のある間接効果だけにして示した? 擬似効果や分析されない効果は含めなかった。
たとえば,医療モデルでは,病気の症状から対人関係の少なさへの間接的な影響である。
相関係数を介して与えられる影響は含まれていない。
全体として,これらのモデルの係数は理にかなったもののように思える。
しかし,医療モデルでは,神経学的機能障害が対人関係の少なさに負の影響を与えており,少し驚かされる。
また,特筆すべきことは,誤差分散の大きさだ。
つまり内生変数に影響する含まれていない変数があるということだ。
モデルの適合を見るため,各モデルの変数におけるすべてのペアのインプライド相関を計算することができる。
インプライド相関係数はそれだけではさほど情報があるように思えない。
しかし,観測された相関係数と比較すると,それぞれのモデルがもとの相関行列をどれほど再現しているのかを見ることができる。
観測された相関行列とインプライド相関行列の間の差の絶対値を計算し、観測された相関行列とインプライド相関行列の差の絶対値の平均,つまり,平均的な残差の絶対値は,医療モデルでは0.02である。
心理社会的モデルでは0.05である。
つまり,医療モデルのほうが元の相関行列を復元できており,その範囲は−0.07から0.53の間である。
これは,心理社会的モデルがデータにうまく適合していないのに比べて,いくぶんよいことを示す。
残差の絶対値の平均の違いは,劇的なものではないけれども,医療モデルのほうがあてはまりがよいことを示している。
心臓病患者のQOL(生活の質)は医療分野における重要なテーマの一つであり、その改善を目指した研究が数多く行われています。Romneyらによる本研究では、心臓病患者のQOLに影響を与える要因を詳細に解析するため、手術後6か月間にわたるデータを基にパス解析を実施しました。この研究には469名の患者が参加し、彼らから得られた58項目のデータを因子分析することで、(a)意欲の低下、(b)病気の症状、(c)神経学的機能障害、(d)対人関係の少なさ、(e)社会経済的地位の低下、という5つの主要な因子を抽出しました。この研究のユニークな点は、医療モデルと心理社会的モデルという2つの仮説モデルを用いて、これらの因子がどのように心臓病患者のQOLに影響を及ぼしているのかを比較した点にあります。医療モデルでは、病気や神経学的な障害が心理社会的因子、例えば意欲の低下や対人関係の少なさに影響を与えると仮定しています。一方、心理社会的モデルでは、逆に社会的因子が症状の悪化を引き起こす可能性があると仮定しています。このような異なる視点を持つ2つのモデルを比較することで、どちらがより適切に観測データを説明できるのかを評価しました。
具体的には、両モデルに重回帰分析を適用し、観測データとの適合性を検証しました。その結果、医療モデルの方が心理社会的モデルよりも観測データに対して適合性が高いことが示されました。具体的には、残差平均絶対値が医療モデルでは0.02であったのに対し、心理社会的モデルでは0.05であり、この数値の差が両モデルの適合性の違いを如実に表しています。この結果は、病気や神経障害といった医学的要因が心理社会的因子に大きな影響を与えている可能性を強く示唆しています。この研究が示すところは、心臓病患者のQOLを改善するためには、心理社会的要因へのアプローチだけでは不十分であり、病気そのものや神経障害といった基礎的な医療的課題に対する対策が重要であるという点です。
さらに、本研究で採用されたパス解析は、QOLに関連する複数の要因間の因果関係を明らかにする上で非常に有効な手法です。一般的に、QOLは単一の要因によって決定されるのではなく、複数の要因が複雑に絡み合って形成されます。そのため、因果関係を精密に解析できる手法が求められており、Romneyらが用いたパス解析はまさにその要件を満たすものです。本研究で抽出された5つの因子は、患者の生活の質に大きな影響を及ぼす可能性があり、それぞれの因子に対する具体的な介入方法を検討することが、今後の課題となるでしょう。例えば、意欲の低下に対する心理的サポートの提供、病気の症状を軽減するための薬物療法の最適化、神経学的機能障害に対するリハビリテーションプログラムの導入などが考えられます。また、対人関係の改善や社会経済的地位の向上を目指した支援策も、患者の生活の質を向上させるためには欠かせない要素となるでしょう。
本研究のもう一つの重要な示唆は、医療モデルと心理社会的モデルという異なる視点を持つ仮説を同時に検証することの意義です。医療分野では、しばしば単一の仮説に基づいて研究が進められることがありますが、本研究のように異なる仮説を比較検討するアプローチは、より包括的で信頼性の高い結論を導き出すために非常に重要です。このようなアプローチは、医療の現場において実践的な価値を持つと考えられます。例えば、患者に対する治療計画を立てる際に、どの要因が最も大きな影響を与えているのかを明確にすることで、より効果的な介入が可能となります。
さらに、研究の結果から得られた医療モデルの優位性は、医療従事者にとっても重要な指針となるでしょう。医療現場では、患者の症状や障害に対する直接的な介入が主に行われていますが、本研究の結果はその妥当性を改めて裏付けるものであり、医療従事者が患者のQOL向上に向けた取り組みを行う際の理論的な基盤となることが期待されます。また、この研究はQOLに関連する他の疾患にも応用可能な示唆を与える可能性があります。例えば、糖尿病やがん患者においても、心理社会的因子と医療的因子がどのように相互作用しているのかを検討することで、より包括的なケアプランを構築できるでしょう。
総じて、Romneyらの研究は、心臓病患者のQOL向上に向けた医療モデルの有効性を示すだけでなく、医療分野における因果関係解析の重要性を強調しています。今後の研究では、さらに多様な患者層を対象にした解析や、長期的なデータを用いた検証が求められるでしょう。また、医療モデルと心理社会的モデルの双方を統合した新たなハイブリッドモデルの構築も、今後の課題として考えられます。このような努力を通じて、より多くの患者が質の高い生活を送ることができるようになることを期待しています。
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