強制的開示|【統計学・統計解析講義応用】
強制的開示
規制を行う側と学術誌は,公刊の偏りを食い止めようとしている。
米国の食品医薬品局は,ある種の臨床試験に関して,試験開始前に食品医薬品局が運営しているウェブサイトClinicalTrials.govを通じて登録することを求めている。
さらに,試験が終わってから1年以内に結果の概要をClinicalTrials.govで公開することも求めている。
また,登録を確実に行わせるために,医学誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)は、2005年に,事前に登録されていない研究については公刊しないことを表明している。
規定はしっかりと守られていない。
2008年6月から2009年6月にかけて登録されたすべての臨床試験からランダムに抽出された標本からは, 40%以上のプロトコルが最初の被験者を受け入れた後に登録されたことが明らかになっている。
そして,これらの義務を怠つた研究の登録の遅れの中央値は10か月だった。
事前登録を要求するという目的は、明らかに打ち砕かれている。
そして,研究で測定する主要評価項目,そしてそれを測定する期間と手法について,明確に特定されているプロトコルは40%に満たなかった。
主要評価項目が研究の目的になつていることを考えれば,これは残念なことだ。
同様に,登録された臨床試験に対する再調査から,ClinicalTrials.govを通じて結果を公開することを求める法令に従っていた試験は,25%程度しかなかつたことが分かつている。
登録された臨床試験の他の4分の1は,結果をどこにも―学術誌にもClinicalTrials.govのリボジトリにも―公開していなかつた。
法による強制があるにもかかわらず,ほとんどの研究者は,ClinicalTrials.govの結果データベースを無視して学術誌で公刊するか,まつたく何もしないようなのだ。
食品医薬品局は法令を守らなかつた製薬会社に対して罰金を課すことをしていない。
また,学術誌は,試験登録の要件を一貫して強制しているわけではない。
学術誌の査読者のほとんどは,査読対象となつている原稿と試験登録の食い違いをを確かめない。
査読者は.食い違いを確かめるのは編集者の仕事だと思っている。
ただ,編集者は編集者で,それは査読者の仕事だと思っているのだ。
ClinicalTrials.govや欧州連合臨床試験登録(EU Clinical Trials Register: http://www.clinicaltrialsregister.eu)のような公的データベースにプロトコルを登録しよう。
世界保健機構は,国際臨床試験登録プラットフォームのウェブサイト(International Clinical Trials Registry Platform; http://www.who.int/ictrp/en/)にー覧を載せている。
SPIRITチェックリスト(http://www.spirit-statement.org/)はプロトコルに含むべきものを一覧している。
可能であるときは必ず,結果の要約を投稿しよう。
試験でプロトコルからのずれがあれば,どんなことでも記録しよう。
そしてそのずれについて公刊する論文の中で議論しよう。
可能であれば,ジェンバンクやタンパク質構造データバンク(PDB)といった専門のデータベース,あるいはドライアドやフィグシェアといった一般的なデータリポジトリから,すべてのデータを入手できるようにしておこう。
データを分析するために使用したソフトウェアのソースコード. Excelのワークブック,分析スクリプトなどを公開しよう。
多くの学術誌では,こうしたものを論文の補充資料として提出させている。
あるいは,ドライアドやフィグシェアで公開することもできる。
自分自身の研究分野の報告ガイドラインに従おう。
例えば,臨床試験においてはCONSORT、疫学での観察研究においてはSTROBE、動物実験においてはARRIVE、遺伝子関連研究においてはSTREGAといったガイドラインがある。
否定的な結果が得られたとしたら,それを公刊しよう。
否定的な結果をつまらないものであるとして却下する学術誌があるので,「プロス・ワン」や『トライアルズ』のように査読はあるものの,つまらないからと言って研究を却下することがないオープンアクセスの電子版のみの学術誌に投稿することを考えるようにしよう。
否定的なデータは,フィグシェアに掲載することもできる。
関連記事