国民経済計算と環境・経済統合勘定|【社会経済統計学・統計解析】
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国民経済計算と環境・経済統合勘定
国民経済計算と環境・経済統合勘定
国民経済計算体系(SNA)の経緯と概略
各種の経済取引を示すフロー,その結果としての残高(ストック)およびそれらの相互間の関係などは,一般に経済循環といわれる。
経済循環の把握という国民経済計算の基本的な考え方の起源は,ヶネー(Quesnay, F.1694-1774)など17世紀, 18世紀の先人達にまでさかのぼることができる。
しかし,理論的視点を重視し,経済循環を広く体系的に記述しようという試みは,ここ60年ぐらい(第二次大戦直後)のことである。
特に戦後、国連SNA (A System of National Accounts, 国民勘定体系)が果たした役割は大きい。
国連を中心とするSNAの経緯を見てみると,まずリチャード・ストーン(Stone, J. R. N.; 1913-91)を中心に国連で『国民所得の測定と社会勘定の構築』という統計委員会の報告書が, 1947年にまとめられた。
その後の討議を経て成立したのが,旧SNA (53年体系)である。
そこでは,国民所得から国民勘定へと国民経済計算の体系化の方向が示されている。
これは,その後のSNAの性格と拡大を考えるとき,重要な視点である。
また,そこでは合わせてSNAの用途なども示されている。
旧SNAについては, 1959年と64年に小改訂が行われた。
さらに,65-67年には分析的要請および基礎統計などの整備を考慮して,ストーンを中心に旧SNAの拡大と深化が検討された(俗に,ストーン改定案といわれる)。
その結果, 1968年に68SNA (日本でいう新SNA)のガイドラインが成立した。
ここでは、日本における現行の93 SNAの構造,利用などを説明する。
その前に,68年体系以後の経過について以下で簡単に述べておく。
68SNAの改訂問題は,82年の専門家グループの会合以後活発化した。
そこでの目的は,新しい状況(たとえば, 68SNA以後導入された付加価値税への対処など)に適した最新化,明確化と簡素化,関連統計との調和にあった。
83年と85年の国連の統計委員会は,専門家グループの意見を受け入れ,その後,本格的に68SNAの改訂作業を進めた。
特に,作業の中核として,85年の統計委員会で「国民勘定に関する事務局間ワーキング・グループ」が信任された。
このグループはEC統計局, IMF, OECD,国連(統計局,地域委員会),世界銀行がそのメンバーであった。
68SNAが,ストーンと国連統計局によるいわば「上から下へ」の形で成立したのに対して,現行の93SNAは「下から上へ」という形で成立している。
この作業方向の差が,93SNAを評価するときの一つのポイントになる。
93SNAに関しては,当初は小改訂のはずであったにもかかわらず,制度部門による全勘定の把握など,枠組,概念,分類に関して,かなりの変更,拡大,工夫などがなされている。
その一つがサテライト勘定の付加である。
サテライト勘定とは,社会的関心の強い分野で,しかも直接中心的な体系(SNA)に組み入れると, SNAに余計な負担を課しかねない領域に適用されるものであって,各種のタイプがある。
93SNAが重視するサテライト勘定の一つが,環境・経済統合勘定(SEEA)であり,これについて国連はハンドブックを作成している。
日本では2000年に93SNAに移行した。
ところで, SNAの意義(目的,用途といってもよい)はどういうところにあるのであろうか。
68SNAは,体系の用途として,大きく次の2点を指摘している。
第一は,簡単な表から複数なモデルの構築などへの用途であり,実態的用途といわれる。
第二は手段的用途であって,統計の開発,既存の統計間の関係,整合性,範囲などのチェックに対するSNAの利用である。
さらに(第三の用途といえるかもしれないが),コンピュータの効率的利用のための,大量の情報量の正確な位置づけもその用途の一つと考えられる。
実態的用途は, SNAの各腫数値そのものを用いた用途であるから,経済分析や経済政策などに供することを意味する。
したがって,そこでは経済理論的な整合性が要求される。
それはSNAにおける分析視野,概念(概念間)の整合性,体系化の問題へと波及する。
特に各種の仮説が存在するときに,それに見合った情報を提供することはそれほど容易ではない。
というのは,特定の仮説に焦点を当てれば一般性を失うし,逆に一般性に焦点を当てれば,ある仮説に対する有効性を失うことになりかねないからである。
SNAがもつ有効性と一般性の兼ね合いは, SNA設計の基本的論点でもある。
68SNAの勘定設計はストーンの考え方によっており,一般均衡論が賀かれている。
すなわち,それまで関連はするもののやや独立に展開されてきた産業連関表(投入−産出表. 1-0表とも呼ばれる),国民所得勘定,資金循環表,国際収支表,国民貸借対照表の,いわゆる5勘定か全面的に統合されているからである。
統合に当たっては,実物取引と金融取引を配慮した実物・金融の二分法,技術仮説とともに産業連関表の国民勘定への統合,活動部門と制度部門の設定など,各種の工夫がなされている。
また,全面的な統合によって複雑化することを避けるために,分類は二重分類までに限定されるとともに,分析上有効な分類は生かされている。
したがって,細かい点を除けば, 68SNAは理論的にも体系的にも一つの完成されたものとみることができよう。
93SNAは,基本的に68SNAの理論的枠組は維持しようとしている。
むしろ93SNAは,従来から問題とされてきた境界的な取引(たとえば,採掘権, R&D (研究開発)の扱いなど)をはっきりさせたこと,分類の弾力的利用,他統計との調礼68SNA以後の新規取引への対処などにその特徴がある。