自然減と選択の偏りの検証例|【統計学・統計解析講義応用】
自然減と選択の偏りの検証例
モーザーとドゥラカップ〔Moser & Dracup, 2000〕は,急性冠症状から回復している冠疾患患者の配偶者219人を対象に,コントロール条件に対して,2種の心肺蘇生(CPR)訓練介入の効果を研究した.
1か月後の追跡では. 196人の対象がアウトカムデータを提供し,回答率は89.5%だった.
研究を終了した対象とそうでない対象とのあいだにも,また3つの処理群の対象間にも,人種や教育など.対象の背景にある特性に有意差はなかった.
測定用具の影響は,同じ測定方法をもちいた場合にも起こりうる.
たとえば,測定用具が,最初よりも2回目のほうがさらに正確だった場合(データ収集者が熟練してきたなど),または,不正確になった場合(対象が飽きた,疲れたなど)には,これらの差が結果を偏らせる.
死亡(死亡率)死亡(mortality ; 死亡率)は,比較する集団間の自然減(attrition)の差にともなう脅威である.
興味,動機づけ,健康状態などがもともと違うため,研究経過中の対象の喪失はグループによって異なるだろう.
たとえば,不等価コントロール群デザインをもちいて,2つの異なる病院(そのうちの1つはプライマリー・ナーシングを導入しはじめた)のナースの士気について査定するとしよう.
この場合の従属変数であるナースの士気を,両方の病院で介入の前後に測定した.
研究に特別のかかわりをもたない比較群は,動機がないため,事後テストの質問紙を完成させることを辞退するかもしれない.
全部に回答する者は,たとえば,労働環境にとくに批判的な者かもしれず,グループ全体を代表しているとはいえないかもしれない.
たとえば,比較群のナースの士気が,時間とともに低下したようにみえた場合,その低下は,単に,偏った自然減による不自然な結果かもしれない.
自然減のリスクは,データ収集の間隔が長期間にわたる場合に,とくに大きくなる.
たとえば,対象を12か月追跡する場合は,1か月の追跡よりも自然減率が高い.
臨床研究では,患者の死や障害によって,自然減の問題がとくに急に生じるかもしれない.
自然減が無作為であれば(つまり,研究から脱落する人々は,無関係な特性に関する研究に残る人々と似ている),偏ることはないだろう.
しかし,自然減がすべてにおいて無作為であることはまれである.
一般に,自然減率が高いほど,偏りは大きくなる傾向にある.
自然減率を許容できる絶対基準はないが,通常, 20%を超えたときには偏りを考慮する.
偏りを分析する機会をつくることは重要である.
これは,測定すべきであろう変数を慎重に検討することを意味する.
たとえば,選択の問題を特定するのに役立つような,特性に関する情報を集めたほうがよい.
縦断的研究では.自然減に関連するかもしれない変数を測定したほうがよい。
クロスオーバー・デザインでは,処理の順序の違う対象に,外的事象が異なつて影響することと,順序の違いそのものが一種の異なるヒストリーである,という2つの理由で,ヒストリーが潜在的な脅威となる.
実質的なデータ分析では,処理Aと処理Bによる従属変数を比較する.
対照的に,偏りの証拠の分析では研究をデザインする際に,否定的な結果を予測し,デザインの調整がその結果に影響するかどうかを考えよう.
たとえば,「照明や騒音のような環境因子が,入院した高齢者にみられる急性の混乱状態の発生に影響する」という仮説をたてたとしよう.
予備的なデザインを思い描いて,その仮説を支持しないような結果を想像してみよう.
それから,これらの否定的な結果の可能性を減じるために何ができるか,自問してみよう.
環境の条件における差をもっとはっきりと際立たせることによって,検出力をあげられるか.他の外生変数をコントロールすることによって,精度をあげられるか.
研究スタッフをもっとよく訓練することで.偏りを除去できるかで異なり,そのため当初の集団の均等性が失われるかもしれない.
要約すると,どんなデザインを使うときも,研究をデザインする際は,内的妥当性を脅かすすべての可能性から守り,それを検知する最適な方法を研究者は考えたほうがよい.
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