金融とディーブラーニング|【ChatGPT・Python・エクセル統計解析】
金融とディーブラーニング
金融という業界がディーブラーニングを含む人工知能技術とどのような繋がりがあるのか、もしかすると少しイメージしづらいかもしれません。
しかし金融は実は昔から機械学習などの人工知能技術全般と非常に相性が良い業界だったと言えるでしょう。
金融業界とデータ分析
金融という業界とデータ分析のつながりについてお話ししたいと思います。
金融機関では様々な目的のためにデータの収集、蓄積、解析などのデータ関連業務が行なわれています。
代表的なものと言えば。資産評価と運用を目的とした業務でしょうか。
資産評価については債券、株式、デリバティブといった金融商品ごとにそれぞれ異なる評価モデルが開発されますが、どのようなモデルを使うにせよ、「キャリブレーション」という作業を行なっておくことが必要です。
これはモデルの中に組込まれたパラメータを調整して計算結果が現実のマーケットデータと整合するようにする作業です。
この作業のため、金融機関はマーケット・データをデータベンダなどから日に一度、もしくはリアルタイム、といった様々な頻度にて購人、蓄積を行なった上で、評価モデルを用いて資産評価を行ないます。
また、金融機関では資産の評価を行うだけでなく資産運用なども行ないます。
自己資金の運用を行う場合もありますし、保険、年金、投資信託などのように金融サービスを提供する都合上、運用を行う場合もあります。
運用の専門家が自らの判断に基づいてトレードを行うジャッジメンタル運用では、為替、金利、GDP、消賞者物価指数などといったマクロデータや、企業ごとの財務諦表などのデータを予め分析をしながら方針を決めていきます。
このように判断のベースとなるべきデータ分析は非常に重要なものですが、最終的な方針は専門家の主観的判断にゆだねられることになります。
一方、専門家による主観的な判断を極力排除するクオンツ運用という運用スタイルも存在します。
これはデータによる定量的な分析のみに基づき運用方針を決定するスタイルで、年金基金など多くの機関投資家がこのスタイルを採用しています。
実際の運用プロセスにおいてはデータの定量的分析結果を利用しつつ、最終的には人間の判断が加味される、といったスタイルもクオンツ運用と呼ばれることも多いのですが、人間の判断は必要最小限に留められ、定量的分析の手法自体が運用成績に大きな影響を与えるのがこの運用スタイルの特徴となります。
いずれにしても、ジャッジメンタル運用、クオンツ運用のどちらの運用スタイルにおいても、資産運用はデータ分析作業と深いつながりがあることが分かります。
また、金融機関では顧客の資産を預かるだけでなく自身でも金融商品を保有、売買しています。
そのためそれらの金融商品がある日突然価値を失い金融機関がつぶれてしまうようなことが発生する可能性もゼロではありません。
金融機関がつぶれてしまうことは世界経済に多大な悪影響を及ぼすため実際にはバーゼル規制というグローバルな規制がありますが、この規制を守るためにはバリューアットリスクなどの計算を行う必要があります。
これは将来の最大損失額を数値化したものですが、これを推計するためには各金融商品の過去データを分析し、将来の金融資産価格の変動率の推計を行う必要があります。
このような用途でも金融機関はデータ分析を実行しなくてはなりません。
さらに言えば金融機関が売買を行う金融商品の市場は、昨今、電子化されているだけでなく、注文の受付やキャンセルがミリ秒、マイクロ秒といった短時間にて完了する市場が一般的になってきました。
そのような市場に金融商品の売買を行う超高速のコンピューターシステムが接続され、高頻度取引と呼ばれる大量かつ瞬時の取引が発生するようになっています。
このような市場では、もはや目視と人手による売買注文の入力などでは対応しきれず、あらかじめ決められたロジックに基づき売買を行うようなアルゴリズムをコンピューターシステムに搭載し、人手を介することなく自動的に取引を行うことが一般的になってきています。
このようなアルゴリズムの開発には高頻度取引のデータ分析が不可欠となります。
また、銀行というビジネスモデルは、そもそも預かったお金に金利を付けて預金者の元に返しますが、一方でそれを預金者向けの金利より高利にて企業等に貸し出し、その金利差で収益を産みだすものです。
その際、企業に貸し出した資金が倒産等により回収不能になってしまえばそのまま損失となってしまいます。
そこで銀行はあらかじめ貸し出し先がデフォルトしないか、データ分析により調べるのです。
具体的には多数の企業の財務諸表などのデータを集め、財務諸表中のある特定の数値がどのように変化すると、債権がデフォルトになる確率にどのような影響を与えるか、といったことを調べています。
その知見を元に貸し出し先の会社がどの程度の確率で返済不能となるか確認を行うのです。
このように金融という業界が昔からデータ分析と密接な関連を持っていたことが理解できると思います。
分析ターゲットとしては日本の株式市場での終値などがあります。
クオンツ運用の基礎としては線形回帰を用いた分析を行ない、後にそれをニューラルネットワークを用いた手法へと拡張していきます。
クオンツ運用
クオンツ運用とはどのような事をするものなのか簡単に解説します。
まずは数式を抜きにして運用モデルが実際にどのように業務に用いられているのかご理解いただければと思います。
データ分析を駆使した資産運用の業界では人手を介さずデータ分析のみに頼って運用を行うことをクオンツ運用と呼びます。
クオンツ運用は通常大量のデータ処理を伴なうことから、コンピューターシステムとの組合せが相性が良く、データ入力からポートフォリオ算出、さらに場合によってはポートフォリオに要する売買に至るまで全てをシステム化し、人手をほとんど使わないシステム運用といったスタイルを取ることもあります。
システム運用を用いれば例えば株式運用の場合、数十銘柄から数百銘柄に及ぶ巨大なポートフォリオを少ない人手で取り扱えます。
代わりにあらかじめコンピューターシステム構築に投資を行う必要はありますが、このような運用は主に機関投資家向けの運用手法と言えるでしょう。
さて、クオンツ運用はジャッジメンタル運用と異なり、人間の判断を極力使用しないと説明しました。
それを可能にするのは、運用モデルと呼ばれるデータ分析に基づいたポートフォリオ算出手法の存在です。
運用モデルには主に二つの役割があり、一つ目は各金融資産の将来のリターンを算出することです。
たいていのモデルでは将来リターンをそのまま数値で算出しますが、必ずしも全てがそうでもありません。
各金融資産のリターンの順序のみを予測するような種類のモデルも実際に使われています。
いずれにしても後段の運用モデルの人力となるべき将来リターンの分布をなんらかの形で算出することが一つ目の役割となります。
運用モデルの二つ目の役割は、算出された将来リターンを利用して最適な資産の組合わせや売買案を提示することとなります。
資産を組み合わせることによりポートフォリオ全体のリスク水準を制限以内に抑えることができますが、莫大なポートフォリオを運用する機関投資家のケースでは任意の資産を自由に組み合わせることは現実的ではなく、資産の組み入れ比率などに制限がある場合が一般的ですし、各資産の流動性等もあらかじめ考慮して売買案を考える必要があります。
いずれにしても、これらの制約条件を満たしたポートフォリオを提示するモデルが構築できれば、基本的には人間の判断を介さずにポートフォリオの運用が行なえる、ということになります。
クオンツ運用のメリットは運用モデルさえ決めてしまえば運用プロセスが明確に表現されることにあります。
ジャッジメンタル運用のように人間のその時々での判断が入りませんので、過去データを用いてシミュレーションを正確に行うことができますし、運用の事後的なパフォーマンス分析を行うこともできます。
一方で指摘される弱点として、モデル構築時に過去データを用いるために市場環境の変化に弱い、運用ルールが硬直的、真似されやすい、といった点があります。
クオンツ運用は、しばしばその時々の人間の相場観に影響されない点をポジティブな所として受け取られている事があります。
確かに人間の相場観はその時々のマーケットのムードに影響を受けて判断が歪んでしまうことが多いため、一面の真実とは言えるかもしれません。
しかしクオンツ運用の肝である運用モデルというものはそもそも「こういう市場環境ではこのようにすれば儲かる」ということを算出手順として明確化したものにすぎませんから、クオンツ運用も相場観から完全に自由という訳ではありません。
むしろ運用モデル構築の際に固定的相場観を注入されているのだという言い方もでき、そこが市場環境の変化に弱いという否定的な評価と関連していると言えます。
ただ、運用を続けながら継続的に運用モデルのアップデートを繰り返していく、といった運用スタイルがとられるケースも多く、定期的なモデル更改により市場環境の変化にもある程度は追随していくことが可能です。
また、クオンツ運用は真似されやすい、という点についてですが2007年にクオンツ運用を標榜していたファンドの多くでパフォーマンスが急激に悪化した、いわゆるクオンツ・ショックと呼ばれた状態が生じました。
これは多くのクオンツファンドが似た運用モデルを用いてポートフォリオを構築してしまっていたところ、一つのヘッジファンドがそのポジションを大量に解消したことがきっかけで始まったショックだったと言われています。
ここから、クオンツ運用を行う際、他社と類似したポジションを取ってしまうことへの危険性が強く意識されるようになりました。
そのため、近年では各ファンド独自の「ブラックボックス」を運用モデルの中に作りこむことが常識になってきています。
以上述べてきたようにいくつかの弱点を指摘されることもあるクオンツ運用ですが、運用の工夫によりある程度弱点を避けることができること、またポジションを大量にとる機関投資家にとって必須の運用手法であることがご理解いただけたと思います。
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