臨床試験の実施と臨床データマネジメント|【医療統計学・統計解析】
臨床試験の実施と臨床データマネジメント
臨床試験を実施する側を考えた場合,昔は臨床試験終了後に臨床データマネジメントの業務のほとんどが集中していた.
これは臨床試験終了直前から症例報告書が回収され始めたためである.
しかしながら,品質管理を行うためには臨床試験開始前から関与して品質を確保するために必要なルール整備が必須であること,品質を管理するためには速やかな対応が必須であること,および新たな形態の症例報告書の利用などに伴い,臨床試験開始前から分散して様々な業務を行う方向に変化している.
このことは,臨床データマネジメント部門にとって,集中的なオーバーワークの発生を防ぎ業務量の安定化という側面からも好ましいことである.
そこで,各臨床データマネジメント業務の詳細については,臨床試験の実施のために行われるべき業務と臨床データマネジメント業務の関わり合いについて,臨床試験データの流れを中心に示す.
主な臨床試験の流れに関する概略は次の通りである.
@臨床試験の企画・立案
実施する臨床試験でどのような仮説を確認したいのかという点や,それに適した臨床試験デザイン・必要症例数などについて倫理性,科学性,実施可能性を含めた議論を行い,臨床試験の計画骨子を決める.
Aプロトコルの作成・症例報告書の作成
作成した臨床試験の計画骨子に基づき,具体的な臨床試験の実施手順を記載したプロトコル,臨床試験データを記入するための症例報告書などを作成する.
これらは,必要に応じて倫理委員会などでの校閲を受ける.また,この段階で並行して実際に臨床試験を実施する施設や医師などの調査・選定・依頼を行う.
B施設との契約,薬剤配布
GCPなどの関連諸法規に基づき,施設と臨床試験の実施に関する契約を締結する.その後,施設に薬剤を配布し,臨床試験開始のために必要な説明会や準備を行う.
Cモニタリング
患者のスクリーニングを行った上で,適格でかつ臨床試験への参加を希望する患者から文書での同意を取得し,投薬が開始される.
臨床試験を依頼した側は,施設での臨床試験の実施状況を把握し,規定の観察項目や手順に間違いがないか,患者への的確な配慮がなされているかなどを確認して,適切に臨床試験が実施されるように努める.
また,安全性などに関する新たな知見を施設・医師などに適切に伝えなければならない.
D症例報告書の回収・確認
臨床試験の進行に合わせて,臨床試験データが記入された症例報告書を回収し,記入漏れなどの容易に判別できる内容を確認する.
可能であれば,症例報告書の回収前に,直接閲覧により原資料との整合性を確認する.また,回収された症例報告書は適切に管理されなければならない.
Eデータ入力前チェック
症例報告書に記載されている臨床試験データをコンピュータに入力する前に,入力時に問題となる点がないかを確認するとともに,必要に応じて入力のためのデータコーディングを行う.
Fデータ入力,データチェック
症例報告書に記載されている臨床試験データをコンピュータに入力する.
必要に応じて,コンピュータデータの修正が行われるが,コンピュータデータの修正時には,作業者・日時・修正理由なども記録しておかなければならない.
また,コンピュータのプログラムにより作成する論理データチェックと合わせて,事前に作成しておいたデータチェックリストに基づき,問題となる臨床試験データが含まれていないか確認し,必要があれば責任医師などへの問い合わせを行い,目的とする品質基準を満たす臨床試験データとなるように努めなければならない.
Gデータ固定
予め収集しようと考えていた全ての臨床試験データが間違いなく収集されており,正しくコンピュータに入力されたことを確認した上で,これ以降は,コンピュータデータの変更が行われないことを宣言する.
また,集計・解析における採否といった症例の取り扱いについても,この段階で最終的な判断がなされ,コンピュータに入力される.
二重盲検比較試験などにおいては,このデータ固定後に薬剤のキーコードを開鍵(キー・ブレーク)して,コンピュータに入力することになる.
Hデータ集計・解析
収集された臨床試験データの集計や解析を行い,目的とした仮説の検証ができているかどうかを検討する.
I総括報告書作成
データ集計・解析結果に基づき,臨床試験成績をまとめ,科学的な評価を記載した総括報告書あるいは論文などを作成する.
その際に試験の目的と結論がきちんと対応しているかということに注意しなければならない.
これらの業務のうち,実際にどの業務を臨床データマネジメント部門が担当するかということは,その組織ごとに異なるものであり,多くの関連する部門との関わりの中で決められる.
繰り返しになるが,臨床データマネジメント部門は,非常に広範囲な業務にわたって品質管理を行う必要があるため,他部門との充分なコミュニケーションが必須であることを忘れてはならない.
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