世の中は多変量|【多変量解析・統計学・統計解析】
手の内をみせる
ある医薬品の開発で医師の集まりに出席しました。
調査および分析結果を説明した後の質疑で、
「多変量解析をわかりやすく説明してほしい」
と言われました。そこで、相手が医師だから人体を例にしたほうがよいだろうと短絡的に考えてこんな話をしました。
「ここに手があります(片手を示して)。これが手であるということは目で見て、手が持っている立体的な像を知覚して判断します(手をひらひらさせる)。
つまり手からの情報を視覚的に3次元画像として受け取るのです。もし、これを2次元情報で間に合わせよといわれたらどうでしょう。
手の影をどこかにうつせばこれは2次元の映像です(会議室の壁にうつしてみせる)。問題は、影を眺めて手であると判断できるかどうかです。
これは簡単、5本の指がよくうつるようにすればよいのです(手をパッとひらいてうつしてみせる)。
もし向きが悪くてこうなったらどうでしょう(指が重なるようい横向きに影をうつしてみせる)。手であることがちょっとわからないでしょう。
つまり3次元情報を2次元情報に縮小して、なおかつもとの情報を失わないようにするには、手の向きをうまく加減すればよいのです。
手のたとえはこれでやめます(手を引っ込める)。」
この方法が「多変量解析」であると考えられたら如何でしょう。
ここでは、より多くの次元の情報を多変量データというわけですが、それを解析することによって、少数の次元に減少させ縮約するのがまさに多変量解析です。
われわれの住んでいる世界
トリやサカナは3次元世界を移動します。前後、左右、自由自在に思うがままに移動できるのです。
人間はどうでしょう。しばらく前までは地面にへばりついて生きてきました。
今は高層ビルにのぼったり、ジェット機に乗ったり、あるいは人工衛星からの写真で3次元を体験または意識できます。
ヘリコプター、ハングライダー、アクララングのたぐいを自分で使いこなせば、トリ、サカナになりきることだって可能です。
しかし、大部分の人たちは、せいぜいビルの中や地下鉄の迷路くらい、2次元と3次元の中間くらいのところ、つまりセミ3次元空間内に住んでいるものとみてよいでしょう。
変数X,Yは2次元のグラフに点で表すことができます。
それが変数X,Y,Zの3つに増えれば、3次元空間に点で表せます。せいぜいそこまでです。変数が4つや5つになったらお手上げです。
変数がたくさんになったら、それをできれば3つまで、欲を言えば2つまで減らしたいのです。
2つになったら即座に手元の紙にグラフが描けます。いまは3次元でもバーチャルという方法もあります。
変数の数を減らすこと、つまり「次元をいかに減少させるか」ということが、多変量解析のテーマです。
ここで変量とは、変数と同じ意味です。
多変量で表されるもの
ところで、多変量でなければ表せないものが、そんなにたくさんあるのでしょうか。
世の中の物事は1つの変数で説明がつくものは少ないのです。
たとえば人の体形も、身長、バスト、ウエスト、ヒップと4つの変数を必要とします。
ミルクコーヒーの味というと、香り、甘み、苦み、ミルクの味、コーヒーの味、液の濃さなどがあります。それらが一緒になって、ミルクコーヒーの味が成り立っています。
あるブランドに対するイメージを考えると、「親しみーとっつきにくい」「信頼できるー不安」「ユニークー月並み」「高級なー庶民的な」「CMが楽しいーくだらない」などいろいろな形容詞であらわされます。
会議はある問題をいろいろな角度から検討することが目的のひとつで、多くの人の意見でそれが可能となります。
生徒の学習能力をとっても理解力、記憶力、推理力など多彩な見方があります。それを偏差値のような1つの変数で代表させようとするから、いろいろと問題になります。
人間の性格となるとそれこそ複雑きわまりなく、一口で「あいつはそういう男だ」と言い切るのは難しいでしょう。人は一面で決めつけてはいけません。
ところで人間の能力というのは大したもので、私たちはまわりの友人の性格をわきまえて、大過なく付き合っています。
つまり相手の性格を多変量的に認知し理解し、それなりに対応しているのです。性格が似ている友人、性格が反対の友人、さらに新しい出会い、それらの人々が、私自身の意識空間のなかでそれぞれの位置を占めているのでしょう。
その意識空間というのはいったい何次元なんでしょう。おそらく1次元2次元ではないでしょう。
建築の設計図は3次元情報です。建築技師が見れば建物が目の前に、その細部とともに浮かび上がっているでしょう。
素人にはわからないから、設計図をもとにして「完成予定図」を描いて見せるのです。
近代的でスマートでかつ豪華なマンション、その回りには点々と緑の樹木やおしゃれな人々があしらわれています。
チラシに載っていたり、建築中の囲いのボードに掲げてある、あの絵です。そして「完成時には多少異なることがあります」と注意書きがあります。
多変量解析は、このような表現方法を工夫したり苦労したりすることは、変数の数そのものを減少させることを目的としています。
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