赤信号での誤った方向転換|【統計学・統計解析コラム】
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赤信号での誤った方向転換
1970年代,米国の多くの地域で,運転手に対して赤信号で右折することが許可されはじめた。
それに先立つ長い間、道路の設計者と土木技師は,赤信号での右折を許可すると衝突や歩行者の死亡が増えるので,安全上の問題があると主張してきた。
しかし. 1973年の石油危機とその影響により,交通部門は,通勤者が赤信号を待つ際に無駄となる燃料を節約できるように赤信号での右折を許可すべきだと考えるようになった。
そして,ついに米国の連邦議会は,各州に対して赤信号での右折を許可するように求めた。
赤信号での右折を,建物の断熱基準や効率的な照明と同様にエネルギー節約の措置として扱ったのだ。
この変化が安全に対して与える影響を考察する研究がいくつか行われた。
そうした研究の1つに,バージニア州の高速道路・交通部門のコンサルタントが実施した研究がある。
この研究では,赤信号での右折が許可されるようになった交差点20か所について,変化前と変化後の違いが調査された。
変化前は,これらの交差点で事故が308回あった。
変化後は,同等の長さの期間で事故が337回あった。
しかし,コンサルタントは、この差は統計的に有意ではないと報告で述べた。
この報告が知事に送られた際,高速道路・交通部門の長は,赤信号での右折の「実施以降,運転手や歩行者に対する意味のある危険は認められておりません」と記した。
つまり。統計的に有意でないということを現実に意味がないということに転換してしまったのだ。
これに続くいくつかの研究も同じような結果だった。
すなわち,衝突回数は少し増加するが,こうした増加が統計的に有意なものだと結論づけるにはデータが十分でないというものだ。
ある報告は以下のような結論を述べている。
〔赤信号での右折の〕採用以降,右折が関わる歩行者事故が増加したと疑う理由はない。
もちろん,こうした研究は検定力が足りなかったのだ。
しかしながら,さらに多くの市や州が赤信号での右折を許可するようになり,米国全体で広く行われるようになった。
より有用なデータセットを作るために,これら多数の小規模な研究を統合しようとした人は、どうもまったくいなかったようだ。
その間,ますます多くの歩行者が轢かれ,ますます多くの車が衝突にまきこまれた。
数年後に,右折が関わる事故について,衝突が20%増加し,歩行者が轢かれることが60%増加し,自転車に乗っている人がぶつけられることが2倍になったという明確な結果が最終的にもたらされるまでは,このことを確信を持って示すために十分なデータを誰も集めることができなかった。
ああ,交通安全の業界はこの例からほとんど学習していない。
例えば, 2002年のある研究では,舗装路肩が田舎の道路での交通事故率に与える影響を考察している。
当然のことながら,舗装路肩は事故のリスクを減らす。
だが,この減少が統計的に有意だと明言するためのデータは十分になかった。
このため,この研究の著者は,舗装路肩の費用は正当化されないと述べた。
有意でない差について,差がまったくないことを示しているかのように扱ったために,費用便益分析を行わなかった。
集めたデータが舗装路肩によって安全性が向上するということを示唆しているにもかかわらずだ。
証拠は,期待していたp値の閾値に見合うほど強いものでなかったのだ。
より良い分析をしていれば,路肩が便益をまったくもたらさない可能性はあるかもしれないが,データは路肩が実質的な便益をもたらすこととも矛盾しないと認めていただろう。
このことは,信頼区間を見ることを意味する。
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