プラセボ効果|【医療統計学・統計解析】
プラセボ効果
子どものころ車酔いしやすかった人の中には、こんな経験をしたことのある人もいるのではないでしょうか。
車で出かける前に、お母さんに酔い止め薬をもらいました。
「これを飲んでおけば車酔いしないから」と言われて。
実際に飲んで出かけると、その日は車酔いしませんでした。
家に帰って、喜んで「これから車に乗るときあの薬飲む!」と言うと、お母さんはニコニコしながら答えました。
「あれ、ただの砂糖水よ」
これがプラセボ効果というものです。
本当はただの砂糖水であっても、「これはよく効く酔い止め薬だな」と信用している人から渡されて飲むと、すっかり車酔いしなくなってしまうこと、そのような現象のことです。
臨床研究でも同じようなことが起こり得ます。
「薬を飲んだんだからきっと治るんだ」という心理が働き、本当に治ってしまうことがあるのです。
薬を飲むグループと薬を飲まないグループにランダムに割り付けても、これでは本当に薬の成分が効いているのかどうか調べられないですよね。
薬の成分が本当に効いているのかどうかを知りたければ、プラセボ効果を除去しなければなりません。
盲検化
「薬を飲んだんだからきっと治るんだ」という心理が働かないようにすれば、プラセボ効果を除去できるわけです。
じゃあこのような心理が働かないようにするにはどうすればよいでしょうか。
「薬を飲んだんだから・・・・」と思わなければいいので、薬を飲んだか飲まなかったかがわからないようにすればよいのです。
でも、そんなことができるはずがありません。
薬を飲むグループと薬を飲まないグループに割り付けるのですから、薬を飲むか飲まないかなんて、こっそり食事にでも混ぜられない限りわかるに決まっています。
だったら、「薬を飲まないグループ」の代わりに、「偽物の薬を飲むグループ」を作ればよいのです。
「酔い止め薬を飲むグループ」に対する「砂糖水を飲むグループ」といった具合です。
でも、これでもまだダメです。
酔い止め薬か砂糖水かなんて、味で簡単に判別できてしまいます。
「本物の薬」と「偽物の薬」が判別できないようにしなければなりません。
偽物の薬を、薬の成分が全くないまま、大きさや形だけではなくて味や匂いといったすべてを本物の薬と同じように作らなければならないのです。
ここまでしてはじめて、薬を飲んだか飲まなかったかがわからないようになります。
プラセボ効果を除去するには、
@薬を飲まないグループの代わりに、偽物の薬を飲むグループを作る。
A本物の薬を飲んでいるのか、偽物の薬を飲んでいるのかわからないようにする。
必要があります。
この「偽物の薬」のことを「偽薬」とか「プラセボ」と言ったりします。
また、「本物の薬」か「偽薬」かがわからないようにすることを、盲検化とかマスク化と言ったりします。
これで万事解決めでたし、というわけには残念ながらいきません。
もし薬を処方する医師が「本物の薬」か「偽薬」かを知っていたら、たとえ口には出さなくても、「これは本物の薬だから・・・」という目をしているかもしれません。
そうなると、患者は「本物の薬」か「偽物の薬」かどちらか知らされていなかったとしても、医師の雰囲気からなんとなくどっちかわかってしまうことがあります。
これではせっかく盲検化しても意味がありません。
だったら、薬を処方する医師も「本物の薬」か「偽薬」かが分からないようにすればよいのです。
このように、研究に参加する人だけではなく、薬を処方する医師にも「本物の薬」か「偽薬」かがわからないようにすることを、二重盲検化と言います。
ここで、単純に奇数番目の人は本物の薬を飲むグループ、偶数番目の人は偽薬を飲むグループ、と割り付けてみましょう。
二重盲検化していれば、奇数番目の人が本物の薬を飲むグループなのか偽薬を飲むグループなのかわからないのだから、このような単純な割り付け方法でいいんじゃないの?と思うかもしれません。
しかし、これでも問題があるのです。
最初の数人についてはいいかもしれませんが、途中から、「どうも奇数番目の人の方が風邪の治りがいいような気がする」と思うかもしれません。
あるいは、「奇数番目の人に限って副作用が起こる」ということがあるかもしれません。
そんなことがあると、「どうやら奇数番目が本物の薬を飲むグループのようだ」と研究者が勘づいてしまうのです。
二重盲検化が崩れてしまいますね。
この意味においても、ランダム化は重要なのです。
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