臨床試験データの取り扱い|【医療統計学・統計解析】
コンピュータシステムの利用
臨床試験データは、データ量が膨大であり、薬効評価の根幹をなすものです。
そして、臨床試験データの集計・解析を考えた場合には、コンピュータによって行われることが当然のことです。
コンピュータを利用することの利点としては、効率性や正確性という面だけでなく、再現性のある集計・解析を実施することができるという点も挙げられます。
このため、現在では臨床試験データそのものについて、コンピュータシステムを利用して管理することが極めて当然のこととして実施されています。
ここで注意しておきたいのは、どこまでの範囲でコンピュータシステムを利用するかということです。
大きく考えると、コンピュータの利用範囲としては臨床試験データの保管・管理と集計・解析が考えられます。
臨床試験データを管理する観点では、保管・管理だけが達成できればよいと言えますが、実際には集計・解析のことも考えておかなくてはなりません。
臨床試験データがいくら効率よく適切に管理されたとしても、利用する際に大変な苦労が必要であるようでは、臨床試験の本来の目的である薬効評価を効率的に実施できているとは言い難く、本質的に意味があるとは考えられないからです。
しかしながら、この保管・管理と集計・解析を一つのコンピュータシステムで実現することは極めて巨大なシステムを要求することになります。
また、集計・解析においてはルーチンワークとして行われることよりも解析計画に合わせて対応することが一般的であり、探索的な臨床試験では試行錯誤的なアプローチまでもが必要になります。
このため、コンピュータアプリケーションとしては解析システムに対し臨床試験データを柔軟に提供できることを十分に考慮に入れ、物としての「臨床試験データ管理システム」と「臨床試験データ集計解析システム」という独立した2つのコンピュータシステムを準備すべきです。
なお、臨床試験データ集計解析システムについては、特別のシステムという形態ではなくSASだけで対応するということも十分に可能です。
先にソフトウェアであるコンピュータアプリケーションとしての側面を説明しましたが、ハードウェアという側面から考えた場合には、最近のコンピュータ技術の進歩を考えると、パーソナルコンピュータでさえかなりのパフォーマンスを示すことができます。
また、ネットワークを介することによって物理的な所在地を意識せずにコンピュータを利用することも可能になっています。
もちろん、臨床試験データについては取り扱われるデータに関するプライバシーの保護ということも含めて、システムのセキュリティや信頼性といったものを十分に検討しておく必要性があります。
システム設計
答申GCPではデータの取り扱いについて次のような記載がなされています。
8-1-1 データの取り扱い
8-1-11-1 治験依頼者は、データの処理にあたって、電子データ処理システム(遠隔操作電子データシステムを含む)を用いる場合には、次の事項を実施しなければならない
@電子データ処理システムが、完全性、正確性、信頼性および意図された性能についての治験依頼者の要件を満たしていることを保証し、文書化すること(すなわちバリデーションされること)
A当該システムを使用するための標準業務手順書を整備すること
B当該システムが、入力済みのデータを消去することなしに修正が可能で、データ修正の記録をデータ入力者および修正者が識別されるログとして残せる(すなわち監査証跡、データ入力証跡、修正証跡が残る)ようにデザインされていることを保証すること
Cデータのセキュリティ・システムを保持すること
Dデータのバックアップを適切に行うこと
Eデータの修正を行う権限を与えられた者の名簿を作成し、管理すること
F盲検化が行われている場合には、盲検性が保持されるようにすること
8-1-11-2 治験依頼者は、処理中にデータの変換を行う場合には、処理前のデータと処理後のデータを常に対比し得ることを保証しなければならない
このように臨床試験データ管理システムにおいては、バリデーションされていることが求められるとともに、具体的な機能としてセキュリティの完備、監査証跡・データ入力証跡・修正証跡が残されること、および盲検性の保持が可能であることを求められています。
このため、システムの導入においてはこれらの要求を満たしておかなければなりません。
あるいは自らシステムを作成しようという場合には、システムの設計においてこれらの要求を満たすように注意しなければなりません。
システム設計を行う場合の手順は、大まかに言うと次のようになります。
@基本計画:システムの実現可能性を検討する
A外部設計:ユーザーからの要求を基に仕様を設計する
B内部設計:システムを実現するための具体的な仕様を設計する
Cプログラム設計:内部設計に基づきプログラム構造を設計する
Dプログラミング:プログラム設計に基づきプログラムを作成する
Eテスト:仕様通りにプログラムが作成されているか確認する
F運用・保守:実際の業務に使用し、管理・保守を行う
システム設計の本質は単にプログラムを作成するためのソフトウェア構造を設計することではなく、コンピュータをツールとして用いて業務の問題点などを解決するための仕組みを設計することです。
このため、外部設計までの段階で十分にユーザー側との打ち合わせを行い、システム設計の担当者が業務内容を十分に理解して、本質的に何をコンピュータ上で実現する必要があるかを明確にすることが大切です。