質的研究の例|【統計学・統計解析講義応用】
質的研究の例
看護研究者はすべての質的研究の伝統をもちいて研究を行っており,これまでいくつかの例を説明した.
以下に,3つの質的看護研究をとりあげ,詳細に述べたいと思う.
批判的エスノグラフィー/フェミニスト
エスノグラフィーの研究例
ブラウンとフィスクは,フェミニスト・アプローチによって,批判的エスノグラフィー研究を行い,主流文化によるヘルスケアサービスを受けた北米先住民族の女性の経験を探索した.
研究では,2つの主要課題に取り組んだ.
1つは,先住民女性は,地方の主流文化のヘルスケアサービスとの出会いをどう描写するか.もう1つは,こうした出会いは,社会的,政治的,経済的要因によってどう形成されるか,であった.
研究は,カナダ北西部の地方にある,人口600人の先住民保護地域とのパートナーシップによって行った.
コミュニティ側は,成員の健康やヘルスケアを改善する計画をつくる際に,女性たちとサービスとの出会いについての徹底的な記述が役立つであろうと考えた.
コミュニティの女性たち(研究者の1人を含む)は,先住民の健康に関する指導者として地域では有名だったが,先住民の人々が近隣の主流文化による健康団体や意思決定団体に招かれることはまれだった.
コミュニティの指導者や長老による助言を受けて,研究者は,2回の面接に参加する10人の女性を選んだ.
女性たちは,個別に1〜2時間の面接を受けた.
2回目の面接は,1回目の面接から得た情報を明確化し検証するためにもちいた.
参加者は,ヘルスケア組織との肯定的な出会い(モデルケース)と否定的な出会い(反対のケース)の双方について説明するよう求められた.
これらの面接の逐語記録から,解釈的主題分析を行った.最初の分析について,参加者と批評的に質疑し,熟考し,討議した.
「先住民の女性を過小評価し,不利な立場に置き続けた人種差別主義,差別,構造的不平等が,女性の出会いを形成している」ことが,物語にあらわれていた.
参加者が描写した状況では,彼女たちの健康についての気がかりや女性が伝えた症状が,真剣に受け止められなかったり,取るに足らないことであるとみなされていた.
ヘルスケア従事者の差別的な態度や行動を示す出会いのあり方が,蔓延していることがわかった.
現象学的研究の例
マキニスとホワイト〔Mclnnis & White, 2001〕は,現象学的研究を行って,コミュニティに住む高齢者20人における孤独の意味を探索した.
データ収集の前に,研究者は,自分の前提を括弧入れしようとあらゆる努力をした.
たとえば,研究者の1人は,高齢者精神科ナースとしての幅広い経験を括弧入れした.
各高齢者に,徹底的な面接を行った.
主な質問は,「あなたの孤独について話してください」と「その経験をとりまく状況を説明してください」の2つであった.
面接を録音し,逐語記録とし,次いで,ジオルジ(Giorgi)の現象学的方法を使って分析した.
この方法では,以下のことを行った.
@データについて熟考するために,逐語記録を何度も読む,
Aそれぞれの逐語記録から意味の単位を特定する,
Bそれぞれの意味単位に含まれる心理的洞察を表現する,
Cすべての定式化された意味を,経験の本質に統合する.
これらの高齢者における孤独経験の本質は,5つのテーマから成り立っていた.
その1つは,孤独は不安または恐れの状態であり,依存状態や依存状態を恐れる気持ち,機能の衰えが影響していた.
以下の抜粋が,このテーマを例示している.
たった1人で,誰もいない,恐ろしいほどで,夜が来なければいい…わかるでしよ,昼間は店なんかに行ける…だけど夜は座っているだけ,女は夜に出歩いたりしないから.
マキニスとホワイトは,研究の厳密性を高めて記録することに多大な注意をはらった.
たとえば,括弧入れに役立つように,研究の実施中,フィールド日誌を書いた.
研究手順を読者に具体的に例示するために,研究者らは,記録の一部も提示した.
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