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クラウンデッド・セオリーの研究例

セイヤー〔Sayrc, 2000〕は，クラウンデッド・セオリーをもちいて，成人患者が精神疾忠患者であるということをどう認識するか，を研究した．

彼女は，都市の公立施設の精神科に入院中の統合失調症患者35人に，入院から退院までのあいだに，隔週で面接を行った．

探究の中心となる問いは，「人は，精神科施設への入院をどう表現するか」であり，下位の問いは，「どのような文脈の介入の経験が，その説明に影響したか」，「どんな方略が結果として生じたか」，「そうした方略の結果，何が生じたか」であった．

セイヤーは，患者の認識と方略を徹底的かつ包括的に理解するために,複数の情報源のデータを戦略的に組み合わせた．

患者との徹底的な面接，観察,医療記録のレビュー，スタッフとのインフォーマルな会話によって，データを収集した．

得られた面接データは, 200時間に及んだ．

データ分析の継続的比較法によって，「自尊心を保つこと」が,精神疾患患者であることの不名誉感に対処するため，入院患者がもちいる過程であるとわかった．

精神科への入院に対する個人の反応に影響した因子には，薬物乱用，社会的資本の欠如（とくに安定した住まいの欠如），ノンコンプライアンス（服薬不履行）があった．

分析から，精神科治療モデルの受容から拒否にいたる一連続体上に，６つの帰属スタイルが浮かび上がった．

つまり，問題，疾患，危機，罰，聖職授与（俗世から離れる），侵害である．

これらの帰属スタイルは，精神科への入院を不名誉に感じる過程において，患者が自尊心を保つのに役立った．

・質的研究には，創発的デザイン，つまり，フィールドにおいて，研究の展開に応じて生じるデザインがある.

・質的研究者は，器用人といわれるように，創造性と直観をもちいて，多くの情報源から得た一連のデータを統合し，現象を全体論的に理解しようとする.

・質的デザインは，柔軟で融通性があるが，質的研究者は，フィールドにおいて，研究デザインについて判断を迫られるさまざまな偶発的事態に備えて，計画を行う．

・自然的探究は，大きく３つの相で進む．�@方向づけと概観の相は，研究しようとする現象の特徴か何かを決める．�A探索の焦点化の相は，現象の重要な側面を詳しく検証する．�B確証と終了の相は，結果を確証する.

・質的研究の伝統は,人類学(例:エスノグラフィー，エスノサイエンス），哲学（現象学，解釈学），心理学（行動学，生態学的心理学），社会学（グラウンデッド・セオリー，エスノメソドロジー，象徴的相互作用論），社会言語学（会話分析），そして歴史学（歴史的研究）に起源をもつ.

・エスノグラフィーは，人々の集団の文化に焦点をあて，広範なフィールドワークに基づいている．エスノグラファーは,文化についてエティックな（外部者の）視点よりも，イーミックな（当事者の）視点を得ようとする.

・道具としての研究者という概念は，しばしばエスノグラファーが，文化を分析し解釈する際に担う研究者の重要な役割を称してもちいる.

・現象学は，現象の本質（核心）と意味を，その現象を経験した人々によって経験されるがままに見いだそうとする．記述的現象学では，研究者は，あらゆる先入観を括弧に入れ,現象を経験した人々によって付与される意味に対して常に開かれていることによって，その現象の本質を直観することに努める．括弧入れは，解釈的（解釈学的）現象学の特性ではない.

・クラウンデッド・セオリーは，社会心理学的プロセスと社会的構造を研究する方法であり，その目的は，データに基づいて理論的な規則性を発見することである．この方法では,継続的比較をもちいて，データから導き出されたカテゴリーを，先に得られたデータと絶えず比較し，共通するテーマと多様性を判断できる.

・クラウンデッド・セオリーには２つのタイプがある．特定の具体的な領域におけるデータに基づく領域密着理論（具体的理論）と，より抽象度の高いフォーマル理論（公式理論）（領域密着理論の研究データをもちいることが多い）である.

・クラウンデッド・セオリーには論議をよぶ大きな問題があり，研究者は，グレイザーとストラウスのオリジナルの手順に従うか，ストラウスとコービンが改変した手順に従うかを考える．グレイザーは，後者の方法は，「クラウンデッド・セオリー」ではなく「概念的記述」をもたらす，と主張している．

・歴史的研究は，過去のできごとについて，事実と関係性を確立しようとする系統的な試みである．歴史的データについて，ふつう，情報源の信憑性にかかわる外部批評と，証拠の価値を評価する内部批評を行う.

・事例研究（ケース・スタディ）は，単一の存在または少数の存在についての徹底的な研究である．存在とは，個人，集団，組織，家族またはコミュニティである．このような研究では，通常，データ収集が長期に及ぶ.

・ナラティブ分析は，研究におけるストーリーに焦点をあてる．その目的は，個人がその生活におけるできごとをどのように理解するかを究明することである.

・質的アウトカム分析(QOA ;質的成果分析）は，質的研究によって示された臨床上の方略の適用可能性を確定し，臨床的なアウトカムを評価する系統的手段である.

・質的データの２次分析によって，特別な機会が生まれるが,２次分析に関心をもつ研究者は，いくつかの難点に直面する.

・質的メタ統合は，質的研究の結果の統合から産出された，解釈的いいかえである.

・多くの記述的質的研究には，正式な名称をもたないものもあれば，どんな専門分野の伝統にもあてはまらないものもある．こうした研究を，単に，質的研究とか自然的研究，または質的内容分析という．

・イデオロギーの観点から研究することもある．そうした研究は，質的研究に基づく傾向がある.

・批判理論は，既存の社会構造の批判にかかわる．批判的研究者は，研究参加者と協同し，自己認識を啓発し，変容をもたらすような探究を行おうとする．批判的エスノグラフィーは，文化の研究に批判理論の原則をもちいる.

・フェミニスト研究は，批判的研究のように，変化を起こすようにデザインするが，ジェンダー支配や差別が，どのように女性の生活や意識を形成してきたかに焦点をあてる.

・参加型アクションリサーチ（ＰＡＲ）は，優勢な文化による支配や抑圧に対して，弱い立場の集団やコミュニティと密接に協同して，知識を生む.ＰＡＲ研究では，人々を動機づけ，コミュニティの連帯感を生みだすことができるような創発的な過程が，研究方法よりも優先する．

セイヤー（2000）は、クラウンデッド・セオリーを用いて、成人患者が精神疾患を持つ患者をどのように認識するかについて、詳細な質的研究を行った。この研究は、都市の公立精神科施設に入院中の統合失調症患者35人を対象に、入院から退院までの期間に隔週で面接を実施する方法を採用したものであり、特に「人は精神科施設への入院をどう表現するか」という中心的な問いを探究した。また、セイヤーの研究では「どのような文脈の介入の経験がその説明に影響したか」「どのような方略が結果として生じたか」「そうした方略の結果として何が生じたか」といった下位の問いも設定され、患者の経験や認識の変化を細かく調査した。セイヤーは患者の認識と方略を徹底的かつ包括的に理解するために、複数の情報源のデータを戦略的に組み合わせ、徹底的な面接や観察、医療記録のレビュー、さらにはスタッフとのインフォーマルな会話を通じてデータを収集した。収集された面接データは200時間に及び、継続的比較法を用いることで、患者が「自尊心を保つこと」が精神疾患患者としての不名誉感に対処するための重要な過程であることが明らかになった。この過程において、患者が精神科への入院にどのように対処し、自己イメージや自尊心を維持するためにどのような方略を取っているのかが詳しく探られた。また、精神科への入院に対する個人の反応に影響を与える因子として、薬物乱用や社会的資本の欠如（特に安定した住まいの欠如）、ノンコンプライアンス（服薬不履行）などがあることも浮き彫りになった。分析の結果、精神科治療モデルに対する受容から拒否に至る一連の帰属スタイルが存在し、そのスタイルは問題、疾患、危機、罰、聖職授与（俗世から離れること）、侵害の6つに分類された。これらの帰属スタイルは、精神科への入院を不名誉に感じる過程において、患者が自尊心を保つのに役立っていた。また、セイヤーの研究では、質的研究の意義として創発的デザインが強調されており、これはフィールドにおいて研究が展開するに従い、状況に応じて柔軟に研究デザインが形成されることを指している。質的研究者はしばしば「器用人」と称されるように、創造性や直感を駆使し、さまざまな情報源から得られるデータを統合し、現象を全体的に理解しようとする姿勢が求められる。このように質的研究のデザインは柔軟性が高く、研究者はフィールドで遭遇する予測不可能な事態に備えつつ、計画的に研究を進める必要がある。質的研究の進行には、大きく分けて3つの段階があり、最初の「方向づけと概観」の段階では、研究しようとする現象が何かを定義する。次の「探索の焦点化」の段階では、その現象の重要な側面をより深く検証し、最終段階の「確証と終了」の段階では、得られた結果を確認して研究を終える。質的研究の手法は、人類学、哲学、心理学、社会学、社会言語学、歴史学といった多様な学問分野にルーツを持ち、それぞれの分野で独自のアプローチや方法論が発展してきた。エスノグラフィーはその一つであり、人々の集団の文化に焦点を当てて、広範なフィールドワークに基づく研究を行い、外部者ではなく当事者の視点から文化を理解しようとする手法である。この手法において、研究者は単なる観察者以上の存在であり、文化を分析・解釈する上での重要な役割を果たす「道具としての研究者」という概念も存在する。さらに、現象学的アプローチも質的研究において広く用いられており、これは現象の本質や意味を、その現象を経験した人々がどのように感じ取っているかを探るものである。記述的現象学においては、研究者はあらゆる先入観を排除し、現象の本質を直感的に捉えようとするが、一方で解釈的現象学では解釈そのものが重視される。また、クラウンデッド・セオリーは、社会心理学的プロセスや社会的構造を研究する手法であり、データに基づいて理論を構築することを目指す。この手法では、継続的比較法により新しいデータを以前のデータと比較し、共通するテーマや多様性を明らかにしていく。クラウンデッド・セオリーには具体的なデータに基づく「領域密着理論」と、より抽象的な「フォーマル理論」があり、両者は異なる研究領域で用いられているが、グレイザーとストラウスのオリジナル手順を踏襲するか、改変した手順を採用するかで議論が分かれている。その他、質的研究には歴史的研究もあり、過去の出来事に関する事実や関係性を明らかにするため、情報源の信頼性を検証する外部批評や証拠価値を評価する内部批評を通じて行われる。ケース・スタディは、特定の個人や集団、組織などの存在について詳細に研究する方法で、長期間にわたるデータ収集が特徴である。ナラティブ分析は個人の体験や出来事に対する理解を探る手法であり、質的アウトカム分析（QOA）は質的研究から示された臨床上の方略の適用可能性やアウトカム評価を行う。質的データの二次分析は、既存のデータを異なる観点から再解析する手段であり、質的メタ統合では複数の質的研究の結果を統合することで解釈的な新しい見解が得られる。