臨床試験データの集計・解析|【医療統計学・統計解析】
臨床試験データの集計・解析
臨床データマネジメント部門によりデータ固定が行われた臨床試験データを対象として,予め作成された統計解析計画書に則って集計・解析が行われる.
実施された臨床試験が探索的と検証的のいずれの場合であるかによって,集計・解析の方法も変わるが,臨床試験データの集計・解析にはSASやS-PLUSなどの統計ソフトウェアの利用,そのほかの市販解析アプリケーションパッケージの利用, FORTRANなどで作成されたオリジナルソフトウェアの利用などいくつかの方法が考えられる.
いずれにせよ,これらのソフトウェアが特殊な方法を必要とせずに適切な形で,臨床試験データを参照できるようにしておかなければならない
一昔前の解析担当者の泣き所は,なかなか臨床試験データが固定されず,なんとかデータ固定を行って解析報告書を作成した後であっても頻繁に臨床試験データの変更が行われ,何度も解析報告書を作り直す羽目になることであった.
集計・解析に用いるプログラムについても,当然のことながらバリデーションの対象となる.
このためにも,再現できる手順で集計・解析が行われる必要があり,そのように集計・解析プログラムなどが準備されているとは言っても,数百ページ以上にわたる報告書を作成し直すのは容易なことではない.
臨床データマネジメントがきちんと機能し,症例固定とデータ固定がきっちりと行われるようになった最近では,このような心配をする必要がなくなり,品質管理という面からも余分な手順を繰り返す必要がなくなったことは非常に喜ばしいことである.
ただし,実際には集計・解析プログラムを作成する段階で,プログラムをテストするために臨床試験データを参照する必要がある.
このような状況で,臨床試験データを参照させる場合には,臨床試験データが誤って変更されることがないように参照のみ(Read Only)のアクセス権を設定するなどの配慮が必要である.
また,不用意に集計結果が外部に公開されないようにすることにも気を付けなければならない.
とくに非盲検試験の場合には,統計的な調整の問題が生じる可能性があるため,中間解析を行ったかのように集計結果が取り扱われないように注意しなければならない.
このため,全症例ではなく,一部の症例や一部のデータだけに関するアクセスを許可する,あるいは臨床試験データのコピーを作成した上で,一部のデータを変更したものを提供するなどの措置が適切な場合もある.
また,中間解析というものが行われることがある.
中間解析は臨床試験の実施中に一度だけとは限らず,複数回の中間解析が行われる場合もある.
統計学的には,予め計画されていない中間解析は基本的には行うべきではない.
多くの場合には,中間解析では全ての臨床試験データを使用するのではなく,主要評価項目などの一部のデータだけを対象とすることが多く,症例も全体の半分だけを対象とするというようにルールが事前に決められているはずである.
いずれにせよ,この中間解析を行う場合にも,その対象となる臨床試験データについては,きちんとクリーンアップを完了し,症例報告書とコンピュータデータに関して以降のデータ修正を行わないようにしておかなければならない.
さらに,このような場合にも,中間解析の対象とした臨床試験データを別途保管するなどして,中間解析の結果がいつでも再現できるようにしておかなければならない.
さらに探索的な解析を行う場合や,外部からの問い合わせなどに回答するために追加解析を行うということは珍しいことではない.
このため,臨床試験が完了してもある程度の期間は,コンピュータ上で随時,臨床試験データが参照できるようにしておく必要がある.
臨床試験データの集計・解析を行う際に考えておかなければならない課題の一つとして,臨床検査値異常変動と有害事象との関係がある.
これはある有害事象が原因となって臨床検査値異常変動が引き起こされる場合である.
たとえば,肺炎という有害事象が発生した場合に,発熱,呼吸障害,白血球数増加,C反応性蛋白(CRP ; C-reactive protein)の上昇などが認められる.
本質的に考えれば,肺炎という有害事象が記載されていれば,白血球数増加やCRP上昇は付随した事象のはずであり,臨床検査値異常変動として同時に取り上げることは安全性の評価に際して重複した評価を行ってしまう危険性がある.
このことは,臨床検査値異常変動の解釈を行う際に注意が必要である.
とくに医学的に意味のある臨床検査値異常変動については有害事象欄にも改めて記載してもらうというような症例報告書の記載ルールになっている場合には,気をつけておかなければならない.
このため,症例報告書への有害事象の記載に関して,臨床検査値異常変動をどのように扱うのかについては,予めルールを検討して規定しておく必要がある.
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