統計学におけるクリニカルクエスチョン|【医療統計学・統計解析】
目次 統計学におけるクリニカルクエスチョン【医療統計解析】
統計学におけるクリニカルクエスチョン
加齢に伴い男性の声のピッチは著しく上昇する、というHollienの学説があります。
定期的に訪れていた高齢者施設に入所している男性の多くは一般青年と比較してそれほどピッチが高いとはどうも考えにくいです。
国会討論のテレビ番組でも、70歳以上の元気に発言している議員のピッチが高いとは到底感じられなかった。
しかし、音声に関する専門書を読むと、このHollienの学説に基づいて記載されているものが多かったのです。
確かに男性高齢者ではピッチが高い人はいるかもしれないが、平均的にみて、著しく上昇するとは思えませんでした。
ピッチが高い人は青年男性でもいますし、中年男性でもいます。
そこで文献を検索してみると、文章レベルで音響解析学的に日本の男性話者を対象として加齢に伴うピッチの変化を検討した研究は、
Honjoらの報告1件しかなく、、しかもその研究デザインは、対象数がわずか20例でした。
また、実際には高齢者だけを対象としており、若年群の測定はしていないこと、用いた発話資料が明示されていないこと、などの問題がありました。
さらに、Honjoらの結果では高齢男性の平均ピッチは162Hzと異様に高く、奇妙に感じられました。
Hollienは本領域では国際的権威者であるし、Honjoも国際的に知名度の高い研究者である。
しかし、この疑問を払拭することはできず、結局、詳細な文献検索を行ったり研究デザインを立案することで、素朴なクリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンへと構造化し、研究計画書を作成しました。
PECOを作成するにあたり、研究計画書を作成する段階で、単に対象の音声を測定するだけでよいのか、咽頭に声帯結節などの異常が含まれているとすると精緻なデータとはいえない。
さて、どうしようかと悩ましい問題が立ちはだかった。見逃した咽頭疾患が交絡因子となり、誤差が生じる可能性があると思われました。
これに対し、対象の全例を耳鼻咽喉科医に依頼して硬性咽頭内視鏡で観察してもらい、咽頭疾患が認められた症例は除外することとしました。
さらに、全例に面談を行い、咽頭疾患の既往などについて質問調査を行うことにしました。
交絡因子を制御するための限定的手法です。
こうして研究は開始され、収集データは青年から高齢者まで総計374例となり、原著論文として国際音声言語医学会誌に掲載されました。
その結論は、男性は70歳代以降で若干のピッチ上昇傾向を認めるというもので、その上昇は青年群と6Hzほどの差であるという結論です。
この事例のように、素朴な疑問を解決したいという好奇心がクリニカルクエスチョンになる場合があります。
大事なことは、そのクリニカルクエスチョンからPECOや研究計画書を作成する段階で、精緻で実現可能なものに仕上げておく、ということです。
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