男性高齢者の声ピッチ上昇は本当か?疑問から始まる374例調査【ChatGPT統計解析】
加齢による男性の声のピッチ上昇を主張するHollienの学説に疑問を抱き、日本語話者を対象とした研究を調査した結果、信頼性に課題のある報告が1件しか見つからなかった。疑問を解消するため、交絡因子である咽頭疾患を除外する目的で全例に耳鼻咽喉科診察と面談を実施し、青年から高齢者まで計374例を対象に研究を実施した。その結果、男性のピッチは70歳代以降で若干上昇する傾向があるものの、その差は6Hz程度であった。この事例は、素朴な疑問からクリニカルクエスチョンを構造化し、精緻な研究計画を立案する重要性を示している。
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目次 男性高齢者の声ピッチ上昇は本当か?疑問から始まる374例調査【ChatGPT統計解析】
統計学におけるクリニカルクエスチョン
加齢に伴い男性の声のピッチは著しく上昇する、というHollienの学説があります。
定期的に訪れていた高齢者施設に入所している男性の多くは一般青年と比較してそれほどピッチが高いとはどうも考えにくいです。
国会討論のテレビ番組でも、70歳以上の元気に発言している議員のピッチが高いとは到底感じられなかった。
しかし、音声に関する専門書を読むと、このHollienの学説に基づいて記載されているものが多かったのです。
確かに男性高齢者ではピッチが高い人はいるかもしれないが、平均的にみて、著しく上昇するとは思えませんでした。
ピッチが高い人は青年男性でもいますし、中年男性でもいます。
そこで文献を検索してみると、文章レベルで音響解析学的に日本の男性話者を対象として加齢に伴うピッチの変化を検討した研究は、
Honjoらの報告1件しかなく、、しかもその研究デザインは、対象数がわずか20例でした。
また、実際には高齢者だけを対象としており、若年群の測定はしていないこと、用いた発話資料が明示されていないこと、などの問題がありました。
さらに、Honjoらの結果では高齢男性の平均ピッチは162Hzと異様に高く、奇妙に感じられました。
Hollienは本領域では国際的権威者であるし、Honjoも国際的に知名度の高い研究者である。
しかし、この疑問を払拭することはできず、結局、詳細な文献検索を行ったり研究デザインを立案することで、素朴なクリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンへと構造化し、研究計画書を作成しました。
PECOを作成するにあたり、研究計画書を作成する段階で、単に対象の音声を測定するだけでよいのか、咽頭に声帯結節などの異常が含まれているとすると精緻なデータとはいえない。
さて、どうしようかと悩ましい問題が立ちはだかった。見逃した咽頭疾患が交絡因子となり、誤差が生じる可能性があると思われました。
これに対し、対象の全例を耳鼻咽喉科医に依頼して硬性咽頭内視鏡で観察してもらい、咽頭疾患が認められた症例は除外することとしました。
さらに、全例に面談を行い、咽頭疾患の既往などについて質問調査を行うことにしました。
交絡因子を制御するための限定的手法です。
こうして研究は開始され、収集データは青年から高齢者まで総計374例となり、原著論文として国際音声言語医学会誌に掲載されました。
その結論は、男性は70歳代以降で若干のピッチ上昇傾向を認めるというもので、その上昇は青年群と6Hzほどの差であるという結論です。
この事例のように、素朴な疑問を解決したいという好奇心がクリニカルクエスチョンになる場合があります。
大事なことは、そのクリニカルクエスチョンからPECOや研究計画書を作成する段階で、精緻で実現可能なものに仕上げておく、ということです。
加齢に伴い男性の声のピッチが著しく上昇するというHollienの学説は音声学の分野で広く知られていますが、私自身が定期的に訪れていた高齢者施設に入所する男性の声を聞く限り、一般的な青年男性と比較してピッチがそれほど高いとは考えにくいものでした。さらに、テレビで国会討論を見る中で、70歳以上の議員たちが元気に発言している様子を観察しても、そのピッチが著しく高いとは感じられませんでした。それにもかかわらず、音声に関する専門書ではHollienの学説が頻繁に引用され、男性の加齢によるピッチの顕著な上昇が一般的な知見として記載されています。このギャップに違和感を覚え、改めて男性高齢者の声について平均的に見た場合、ピッチが著しく上昇するという主張には疑問を感じざるを得ませんでした。確かに高齢男性の中にはピッチが高い人もいますが、それは青年男性や中年男性にも見られる現象であり、加齢に伴う変化として特筆すべきものかどうかは疑問です。この疑念を明確にするため、文献を検索し、日本の男性話者を対象とした加齢によるピッチ変化を音響解析学的に検討した研究を探したところ、Honjoらによる報告が1件見つかりました。しかし、その研究は対象数がわずか20例と少なく、しかも高齢者のみを対象にしており、若年群との比較を行っていませんでした。また、用いた発話資料が明示されておらず、研究の設計にいくつかの課題が見受けられました。さらに、Honjoらの研究では高齢男性の平均ピッチが162Hzと報告されており、この数値は一般的な男性の音声としては非常に高く、異様な結果と感じられました。このような状況にもかかわらず、Hollienは国際的に権威のある研究者であり、Honjoもまたその分野での知名度が高い研究者であることから、学説や結果を盲信する風潮があるようにも思われます。しかし、自身の現場での経験や観察に基づく違和感は拭えず、素朴な疑問を解消するために詳細な文献検索を行うとともに、自ら研究デザインを立案することで、この疑問をクリニカルクエスチョンとして構造化し、リサーチクエスチョンへと発展させることを決意しました。この過程では、PECO(Population, Exposure, Comparison, Outcome)の枠組みを用い、具体的な研究計画書を作成しました。単に対象者の音声を測定するだけで十分なのか、咽頭に声帯結節などの異常が含まれていれば精緻なデータとならないのではないか、という懸念もありました。このような交絡因子を制御するための手法を検討した結果、対象者全例を耳鼻咽喉科医に依頼し、硬性咽頭内視鏡による観察を実施することとしました。咽頭疾患が認められた症例は除外し、さらに全例に面談を行い、咽頭疾患の既往歴についても詳細に質問調査を行うことにしました。こうして可能な限り交絡因子を排除する設計を整え、研究を開始しました。最終的に、青年から高齢者まで計374例のデータを収集することができ、その成果は原著論文として国際音声言語医学会誌に掲載されました。この研究の結果、男性のピッチは70歳代以降で若干の上昇傾向を示すものの、その上昇は青年群と比較してわずか6Hz程度の差であり、Hollienの学説が主張する「著しい上昇」とは大きく異なることが示されました。この事例は、日常の素朴な疑問がクリニカルクエスチョンへと発展し、さらに精緻な研究計画により新たな知見を生む可能性を示しています。重要なことは、クリニカルクエスチョンを精緻で実現可能なリサーチクエスチョンに落とし込み、交絡因子を適切に制御することで信頼性の高い研究結果を得ることです。このようなプロセスを通じて、科学的知見が正確に更新され、既存の学説を批判的に検討する視点が生まれるのです。研究者としての課題は、現場での観察や疑問を軽視せず、それを出発点として科学的に検証可能な形に仕上げることにあると改めて感じました。この取り組みを通じて、私自身もクリニカルクエスチョンの重要性や研究計画の構造化の意義を深く学ぶことができました。
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