ITTとPPSの違いで見る治療評価の核心【ChatGPT統計解析】
ITT(Intention-to-Treat)は割り付けられた全ての対象者を解析に含め、ランダム化の効果を活かして治療方針の効果を評価します。一方、PPS(Per Protocol Set)は治療を遵守した対象者のみを解析対象とし、治療自体の効果を推定します。しかし、PPSではランダム化が崩れ、比較群間に偏りが生じる可能性があります。ランダム化臨床試験では治療を受けられない、または途中でやめてしまうことも治療の一部と捉え、主要評価はITTで行います。治療不遵守が少なければITTとPPSの結果は一致しますが、不遵守が多い場合は治療方針と治療自体の効果に乖離が生じる可能性があります。適切な治療計画の立案により、不遵守を最小限に抑えることが重要です。
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ITTとPPS
治療不遵守の問題
まずは次の文章を読んでみてください。
次のデータは、虚血性心疾患患者を対象として、高脂血症治療薬「クロフィブラート」の効果を調べるために、プラセボをコントロールとして行った二重盲検ランダム化臨床試験の結果です。
クロフィブラート投与群:対象者数1065人中死亡数194人
プラセボ投与群:対象者数2695人中死亡数523人
合計:対象者数3760人中死亡数717人
リスク差を計算すると、
194/1065−523/2695=−0.012
(95%信頼区間=−0.040−0.016、両側p値=43.4%)
残念ながら、クロフィブラートに効果があるとは言えない結果となりました。
しかし、データをよく見てみると、医師が処方した通りに薬を飲まなかった人がいることが発覚しました。
そこで、クロフィブラート投与グループで、80%以上服薬した人と80%未満しか服薬しなかった人に分けて集計してみました。
すると、次のようになりました。
クロフィブラート投与グループ
服薬状況80%以上:対象者数708人中死亡数106人
服薬状況80%未満:対象者数357人中死亡数88人
合計:対象者数1065人中死亡数194人
リスク差を計算すると、106/708−88/357=−0.097
(95%信頼区間=−0.149から−0.045、両側p値<0.1%)
やっぱりクロフィブラートは効くんだ!と研究者が興奮したかどうかは知りませんが、同じような集計をプラセボ投与グループでもしてみると、
プラセボ投与グループ
服薬状況80%以上:対象者数1813人中死亡数274人
服薬状況80%未満:対象者数882人中死亡数249人
合計:対象者数2695人中死亡数523人
リスク差を計算すると、274/1813−249/882=−0.131
(95%信頼区間=−0.165から−0.097、両側p値<0.1%)
あれ、プラセボの方が効く?ということになってしまいました。
このように、実際の臨床試験においては、医師が処方した通りに薬を服用しない(できない)人がいることがあります。
そんなとき、どのような解析をすればよいのでしょうか。
また、その解析結果をどのように解釈すればよいのでしょうか。
治療不遵守とは
治療の(平均的な)因果関係を調べる上では、ランダム化研究が最も証拠能力の高い研究の方法となります。
しかし、ヒトを対象とした研究では、その研究で予定していた治療を受けなかったり完遂できなかったりする人がいることがあります。
ただ単に薬を飲み忘れただけの人がいるかもしれません。
あるいは、副作用によって治療を継続することが困難になってしまった人もいるかもしれません。
理由は様々あるでしょうが、このように、予定していた治療を遵守しない(できない)ことを治療不遵守と言います。
治療を遵守しなかった(できなかった)人をどうするのか、統計解析に含めるのか除外するのか、が、治療不遵守の問題を考える上で重要なポイントとなってきます。
解析対象集団
統計解析に含める対象者のことを解析対象集団と言います。
解析対象集団について話をするために、ここでは、ランダム化研究によって、風邪薬を飲むグループとプラセボを飲むグループで、1週間以内に風邪が治る割合を比較することを考えてみましょう。
風邪薬を飲むグループに割り付けられた人の中には、きちんと風邪薬を飲んだ人もいればそうでない人もいます。
同じように、プラセボを飲むグループに割り付けられた人の中には、きちんとプラセボを飲んだ人もいればそうでない人もいます。
Per Protocol Set
さて、解析対象集団をどうすればよいでしょうか。
きちんと治療を受けなかった人を解析対象から除外する、というのがもっともらしく思えます。
風邪薬をきちんと飲んでもいないので、風邪薬を飲んだグループに入れて解析するのは不自然です。
風邪薬の効果を知りたいのに、きちんと風邪薬を飲んでいない人を解析に入れてしまったら、風邪薬の効果を調べられるはずがありません。
プラセボグループについても、プラセボ効果があるかもしれないので同様です。
例えば、風邪薬を飲むグループとプラセボを飲むグループにちょうど100人ずつか割り付けられたとしましょう。
風邪薬を飲むグループに割り付けられた100人のうち、きちんと風邪薬を飲んだ人が70人、プラセボを飲むグループに割り付けられた100人のうち、きちんとプラセボを飲んだ人が90人いました。
このとき、きちんと風邪薬を飲んだ70人ときちんとプラセボを飲んだ90人だけを解析に含めて、風邪薬を飲まなかった30人とプラセボを飲まなかった10人を解析に含めないことにします。
このような解析対象集団をper protocol setと言います。しばしばPPSと略されます。
PPS:予定された通りの治療を受けた人からなる集団
これでいいのではないか、と思う前に、よく考えてみましょう。
この試験では、ランダム割り付けした結果、風邪薬を飲むグループに100人、プラセボを飲むグループにも100人の人が割り付けられました。ちょうど同じ人数です。
しかしPPSだと、きちんと風邪薬を飲んだ人70人ときちんとプラセボを飲んだ人90人で比較することになります。
風邪薬を飲むグループの人数の方が少なくなってしまいました。
もしかしたら、風邪薬を飲んだために副作用が発生して、それで風邪薬を飲むのをやめてしまった人がいるかもしれません。
そうだとすると、風邪薬を飲むグループには副作用が起こらないような丈夫な人ばかりが残ることになります。
そんな人はきっと風邪も治りやすいでしょう。
結果、丈夫な人ばかりの風邪薬を飲むグループと、丈夫でない人も含むプラセボを飲むグループを比較することになってしまいます。
ランダム割り付けをすると、調べたい要因以外の条件が比較するグループ間で揃っていきます。
したがって、ランダム化することで治療の(平均的な)因果関係が調べられたのです。
しかし、ランダム割り付けしても、予定された通りの治療を受けた人だけをピックアップすると、調べたい要因以外の条件が比較するグループ間で偏ってしまう可能性があるのです。
そうなると、治療の(平均的な)因果関係が調べられなくなってしまいます。
Intention-to-Treat
であれば、実際には薬を飲んでも飲まなくても、とにかく風邪薬を飲むグループに割り付けられた風邪薬を飲むグループ、プラセボを飲むグループに割り付けられたプラセボを飲むグループ、として解析してみることにしましょう。
このような解析対象集団をintention-to-treatと言います。しばしばITTと略されます。
ITT:割り付けられた人からなる集団
こうすれば、ランダム割り付けされた通りにグループ間の比較ができます。
調べたい要因以外の条件が比較するグループ間で(平均的に)揃うことになります。
でも、これだと風邪薬を飲むグループに風邪薬を飲まなかった人が含まれることになります。
プラセボを飲むグループにプラセボを飲まなかった人が含まれることにもなります。
これでは、治療の(平均的な)因果関係が調べられません。
では、ITTではいったい何を調べているのでしょうか?
治療方針の効果
ここで、自分が風邪をひいて風邪薬を飲むことを想像してみましょう。
この薬がものすごくまずかったら、他のもう少し飲みやすそうな薬に変えるかもしれません。
この薬を飲むことでやたらと眠くなったとしたら、・・・なかなか休めない日本のサラリーマンだったら、薬を飲むのをやめてしまうかもしれません。
このように、実際には、当初飲むことを予定していた風邪薬を飲まないことがあります。
でも、これもその薬の力です。
もし、この薬よりもまずくなくて同じくらい効果がある別の薬があれば、値段にもよるかもしれませんが、別の薬を飲みますよね。
だとすると、薬を飲んでもらえない、というのもその薬の力だと考えることができます。
「良薬口に苦し」とはよく言ったものですが、いくら本当に病気に効くとしても、「とてもじゃないけど飲めない」と多くの人に思わせるような薬はいい薬とは言えないでしょう。
このことをふまえた上で、もう一度ランダム化臨床試験でのITTを考えてみましょう。
ITTは割り付けられた人からなる集団です。
風邪薬を飲むグループに割り付けられた人の中には、その薬を飲まなかった(飲めなかった)人もいます。
「その薬に力がなかったために薬を飲んでもらえなかった」と考えれば、薬を飲まなかった(飲めなかった)人を解析に含めることにも納得してもらえるのではないでしょうか。
でも、やっぱり、ITTでは治療の(平均的な)因果関係を調べていることにはなりません。治療を完遂しなかった(できなかった)人も含まれているのですから。
では何を調べていることになるのか、それは、
ITTでは、治療の「方針」の効果を調べているのです。
風邪薬を飲むことに対して直接介入しているわけではなくて、風邪薬を飲むという「方針」に対して介入しているのです。
ITTとPPS
ここまでの解析対象集団(ITTとPPS)について整理すると、次のようにまとめられます。
ITT
割り付けられた人からなる集団:治療方針の効果を推定する。
ランダム化に基づいているので、解析結果は正しい。
PPS
予定された通りの治療を受けた人からなる集団:治療自体の効果を推定する。
ランダム化に基づいていないので、解析結果が正しくない可能性あり。
ランダム化臨床試験では、その治療を受けてもらえない、あるいは、受けられない、というのもその治療の力だと考えて、主要な評価は、治療方針の効果を調べることで行います。
したがって、
予定された治療を途中でやめてしまったとしても、イベントが起きたかどうか、といった結果は必ず調査しなければならないのです。
これができれば、ランダム割り付けされたグループをそのまま比較することになるので、解析結果は正しくなります。
ランダム化臨床試験では、ITTが主要な解析対象集団となるのです。
これまで治療不遵守の問題について考えてきましたが、そもそも治療不遵守が起きなければ話は簡単です。
全員が治療に遵守したことになるので、2つの解析対象集団(ITTとPPS)が完全に一致します。
そうなれば、治療方針の効果と治療自体の効果が一致することになります。
では、治療を遵守しない(できない)人が多かったらどうでしょう。
もちろん、治療方針の効果と治療自体の効果が大きくかけ離れてしまう可能性が高くなります。
が、それ以前の問題として、そもそも治療を遵守しない(できない)人が多いような治療ってどうなの?そんな治療に意味があるの?ということになります。
したがって、ITTが主要な解析対象集団となるからといって、PPSはどうでもいい、ということにはならないのです。
治療を遵守しない(できない)人があまり多くならないように、無理のない治療計画を立てることが重要なのです。
ITT(Intention-to-Treat)は、割り付けられた全ての対象者を解析に含め、ランダム化の効果を最大限活用して治療方針の効果を評価する解析手法です。この手法は、実際に治療を受けたかどうかに関わらず、治療グループに割り付けられた全ての対象者をそのまま解析に含めるため、対象者が予定された治療を完遂しなかった場合でも、その結果を解析に反映できます。ランダム化の目的は、調べたい要因以外の条件をグループ間で均等にし、治療効果に対するバイアスを最小限に抑えることです。そのため、ITTはランダム化臨床試験の主要な解析方法とされ、試験結果の信頼性を高める役割を果たします。しかし、ITTでは、治療を受けなかった人や途中で治療を中断した人も解析対象に含まれるため、治療の直接的な効果ではなく、治療方針の効果を評価するものとなります。一方で、PPS(Per Protocol Set)は、予定された治療を遵守した対象者のみを解析に含め、治療そのものの効果を評価する手法です。この手法では、対象者が治療を完遂しなかった理由や背景を考慮せず、遵守率が高いグループ間で比較を行います。その結果、治療を完遂できた比較的健康な対象者が解析対象に含まれる可能性が高くなり、ランダム化による条件の均等性が損なわれるリスクがあります。例えば、副作用などの理由で治療を中断した人が多く含まれる場合、その人々を解析から除外することで、治療効果の評価に偏りが生じることがあります。これにより、PPSの解析結果は治療の実際の効果を反映しない可能性があるため、ランダム化臨床試験における主要な解析手法とはされていません。それでもPPSが無視できないのは、治療の効果を詳細に理解するために、遵守した場合の治療の潜在的な効果を把握する必要があるからです。このように、ITTとPPSのどちらを選ぶかは、試験の目的や対象とする治療の特性によります。例えば、ITTは実臨床に近い状況を反映し、治療方針全体の効果を評価するのに適しています。一方で、PPSは治療を適切に行った場合の効果を知りたい場合に有用です。しかし、ITTとPPSの解析結果が大きく異なる場合、それは治療不遵守が結果に与える影響が大きいことを示しており、治療の実施可能性に関する重要な情報を提供します。特に、治療不遵守が多い場合、ITTによる結果は治療の方針の効果を示す一方で、PPSは治療そのものの効果を示し、両者の違いを理解することで、治療計画の改善や治療方針の適切性を検討する材料となります。また、治療不遵守の問題を軽減するためには、治療計画の立案時に、対象者が治療を遵守しやすい環境を整えることが重要です。例えば、治療の副作用を最小限に抑える工夫や、対象者の生活スタイルに合った治療スケジュールの設定、さらには治療の重要性を患者に十分に説明することで、遵守率を向上させることが可能です。治療不遵守が多い場合、それはその治療法が現実的ではない可能性を示唆するものであり、治療方針自体の見直しが必要となる場合もあります。このような背景から、ITTが主要な解析方法として位置づけられているものの、PPSも補助的に用いられることが多く、両者を組み合わせることで治療効果に関するより深い理解が得られるのです。さらに、ITTとPPSの結果が一致する場合、これは治療不遵守がほとんどないことを意味し、治療方針と治療そのものの効果が一致することを示しています。このような状況では、治療の実施可能性が高いと考えられ、試験結果を実臨床に適用しやすくなります。一方で、治療不遵守が多く、ITTとPPSの結果が大きく異なる場合、治療方針と治療そのものの効果の乖離が問題となり、その治療法の実際的な価値が問われることになります。このような場合、治療方針の見直しや、患者が治療を遵守しやすい環境の整備が求められるでしょう。例えば、薬剤の味や形状を改善することで服薬しやすくする、治療に関する患者教育を強化する、あるいは治療の選択肢を増やすことで、患者が自分に合った治療を選べるようにするなどの対策が考えられます。また、ITTが治療方針全体の効果を評価するのに対して、PPSが治療そのものの効果を評価するという視点を持つことで、研究者や医療従事者は治療効果の全体像をより明確に理解することができます。これにより、試験結果を解釈する際の精度が向上し、患者に最適な治療法を提供するための重要な手がかりとなります。このように、ITTとPPSはそれぞれ異なる目的と役割を持ちながら、互いに補完し合う形でランダム化臨床試験における解析方法として活用されています。最終的に、ランダム化臨床試験の目的は、治療効果の信頼性を高めることにありますが、そのためには、ITTとPPSの結果を総合的に評価し、治療方針と治療そのものの効果の両面を考慮することが求められます。また、治療不遵守が治療法の評価に与える影響を十分に理解し、実際の臨床現場における治療方針の策定に反映させることで、患者にとってより良い医療を提供することが可能となります。このようにして、ランダム化臨床試験におけるITTとPPSの解析結果を正しく解釈し、それを臨床に活かすことが、医学研究の発展と患者の健康向上につながるのです。
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