臨床試験の質|【医療統計学・統計解析】
臨床試験の質
ランダム化研究であっても
解析対象集団では、風邪薬を飲むグループとプラセボを飲むグループで1週間以内に風邪が治る割合を比較するランダム化研究を例に挙げて考えました。
少し細かいことを言いすぎているように思うかもしれませんが、何をもって「風邪が治った」と言うのでしょうか。
もしも医師が治ったかどうかの判定をしたのであれば、判定する医師によって結果が異なってしまう可能性があります。
だとしたら、客観的に薬の効果を評価することができなくなってしまいます。
そもそも、何をもって、風邪をひいたと言うのでしょうか。
発熱していればそれで風邪をひいたと言うのでしょうか。だとすれば、熱が何度以上あれば発熱と呼ぶのでしょうか。
発熱以外の症状は気にしないのでしょうか。
このようなことがはっきりしていないと、この風邪薬を飲むことによって、どのような症状の風邪がどのように改善するかわからないですよね。
それに、「風邪をひいた」「風邪が治った」の定義を研究が終了した後で決めたとしたら、・・・いくつかの定義を作ってみて、それぞれの定義の下で解析してみて、都合の良い(いちばんp値が小さくなる)結果のみを示したのではないか、と疑われるかもしれません。
質の低いインチキしている可能性のある臨床研究だと思われても仕方がなくなってしまうのです。
こうなってしまうと、たとえランダム化研究であっても、因果関係に関する証拠能力が高いとは言えなくなってしまいます。
プロトコールの重要性
では、質の低い研究にならないためにはどうすればよいのでしょうか。
風邪をひいたとか、風邪が治ったとかの定義を後で決めたことが問題となったのだから、先に決めてしまえばよいのです。つまり、
臨床研究を実施する前には、きちんと計画を立てる
ことが重要となるのです。
研究の計画は、プロトコールと呼ばれる、いわゆる研究計画書にまとめます。
どのような症状をもつ人を研究の対象にするのか、何をもって風邪が治ったと言うのか、などをあらかじめ明確にしておくのです。
それだけではありません。
ランダム化は単純ランダム化で行うのか、人数が多くないときの対処法を用いるのか。
誰が割り付けを行うのかも重要です。
研究者自身が割り付けを行うと、状態の良くない対象者が薬を飲むグループに入らないようにするなど、インチキができてしまいます。
どのような統計解析手法を用いるのか。
後で統計解析手法を決めると、いくつかの統計解析手法を試して、都合の良い(一番p値が小さくなる)もので結果を提示するというインチキができます。
目的とする仮説の検証にどれだけの症例数が必要か。
サンプルサイズ設計もしなければなりません。
他にもあらかじめ明確にしておかなければならないことは沢山あります。
プロトコールが出来たら、それを第三者に審査してもらいます。
そこでOKが出たところで、はじめて臨床研究を開始するのです。
研究の質を評価する
臨床研究が終了したら、その結果をまとめて論文で報告することになります。
質の低くない研究であることを示すためにも、プロトコールに記載した内容を含めることになります。
研究報告をみる側の人にとっては、その研究の質が高いか低いかを客観的に判断することが重要となってきます。
証拠能力の低い研究結果はあまり役に立ちません。
どのようにして研究の質を見極めればよいか、ですが、一番重要なことは、
臨床研究の質を評価するポイント:報告が明瞭になされているか?
をみることです。
もし報告が明瞭になされていなければ、不明瞭にせざるを得ない理由がきっとあるはずです。
インチキをしていたり、いい加減なことをしたりしている可能性が高いと考えられますよね。
では、具体的にどういう点が明瞭であるか否かをチェックすればよいかですが、これについては、CONSORT声明というものが非常に参考になります。
CONSORTというのは、consolidated standards of reporting trialsの略で、「臨床試験報告に関する統合基準」と訳されています。
CONSORT声明には25項目からなるチェックリストがあります。
そのチェックリストに基づいてチェックすればよいわけです。
プロトコール作成時に明確にすべきことと同じですが、
ランダム化はどのように行ったのか
どのような統計解析手法を用いたのか
目的とする仮説の検証にどれだけの症例数が必要か
などが含まれます。
そもそもの話として、研究の目的が明確であることが重要です。
目的が明確でない研究なんて話になりません。
適当にデータを集めて、適当に統計解析をして、p値が小さくなったところを報告する、では質の低い研究だと言わざるをえません。
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