症例報告書の修正または変更|【医療統計学・統計解析】
症例報告書の修正または変更
先に示した通り,答申GCPでは治験責任医師などに「症例報告書の変更または修正に関する手引き」を提供することが求められている.
本来であれば,変更または修正だけでなく,記入方法も含めた手引きが用意されるべきである.
作成した側か意識していなかったことについて,記入を求められる側か困惑してしまうようなことは結構発生するものであり,できる限り症例報告書の作成者が何を記入してほしいと考えているのかを最初から明確に示すべきである.
一般的に,記入上の注意として黒のペンかボールペンで記入することなどといった事項だけが症例報告書の表紙に印刷されていることが多い.
しかしながら,症例報告書の記入に際して,記入者が何か困惑してしまうような問題はないだろうか.
たとえば,薬剤名の欄には一般名と商品名のいずれが記載されることを期待しているのだろうか.
また,投与量の欄には一日投与量と一回投与量のいずれを記載すべきなのであろうか.
あるいは,併用薬としてシップ剤やうがい薬などは記載するのだろうか.
このような点を明確にするためには,症例報告書に予め注意書きを加えておくか,「記入の手引き」というようなものが必要になるのである.
また,休薬をどのように記載すればよいのだろうか.
たとえば,休薬については記載しないのか,あるいは「0mg」として記載すればよいのだろうか.
記載されない場合には,投与期間の記載間に不連続が起こることになり,単なる記入ミスなのか,休薬であるのか区別ができなくなる可能性がある.
一方,休薬を「0mg」として記載する場合には,一日でも休薬した場合を全て記載してもらうというのは結構,大変なことである.
さらに,投与方法が週3回の間欠投与である場合などもこのような記載方法では不十分であるかもしれない.
併用療法の臨床試験を行う場合にも工夫が必要になる.
そもそも,投与状況については,コンプライアンスのチェック,薬剤管理表との整合性確認などのうち,どれを目的として収集するかということにより必要とされるデータのレベルが変わるはずであり,目的に応じて適切と思われる記載方法を採用する必要がある.
別の事例としては有害事象の記入という問題がある.
これは,同じ有害事象が繰り返して発現した場合にどのように記載してもらうかということのルールを考えておかなければならないということである.
同じ有害事象とはいっても発現間隔が1ヵ月も開いていれば素直に別々に記入されることになると思われるが,発現間隔が1日であった場合にはどうすべきなのだろうか.
たとえば,発熱が投与開始後1日目に発現し3日目には消失したものの,再び5日目から6日目にかけて発現したというような場合である.
2件をまとめてしまい,発熱が投与開始後に1日目に発現し,6日目に消失したというように記載することもあるだろうし,2件の発熱として記載することも考えられる.
発熱のような事例では1日程度の間隔であればまとめて記載する方が妥当であるかもしれないが,もしも4日の間隔であった場合には発熱とはいってもまとめてしまうには躊躇する.
このように,有害事象の内容にもよると思われるが,何らかのルールを定めておかないと記入上の混乱を招くとともに集計・解析に大きな影響を与えることになる.
そこで,これらのような事例を考慮に入れて, GCP上の必須文書とはされていないが,記入の手引きというものを作成するべきである.
組織によっては,このような記入の手引きをAnnotated CRF (注釈付き症例報告書)と呼ぶこともあるが, Annotated CRFとはデータベース上のテーブル名と変数名やその定義情報を症例報告書のレイアウト上に記入したものを指すことが多く,時としてデータチェックマニュアルなどを指す場合もある.
このようなものを作成することにより,症例報告書の品質を高め,医師などに問い合わせを行う回数を減らすことができる.
もし,これらを作成しない場合には,モニタリング方針の中に,考えられるケースへの対応方針を明確化しておかないと,記入の統一性がないという問題が発生することになる.
症例報告書の修正または変更に関する手引きは, GCP上の必須文書として規定されている.
これには,文字通り,症例報告書の修正または変更の際にどのような手順で行うかということが記載される.
たとえば「修正に際しては訂正前の記入内容が判読できるように二重線で行い,訂正年月日を記入し捺印または署名する」というような全体的な内容が記載される.
修正液などを用いて修正や変更が行われてしまうケースは意外と多い.
また,修正や変更を行う際に答申GCPでも「重大な変更又は修正については説明が記されなければならない」という規定があるため,何か「重大な変更又は修正」に該当するかを明確に定義して修正理由を記載しなければならない項目をはっきりさせておくべきである.
さらに,医学的判断を含まない項目については協力者が修正や変更を行い,それを責任医師が最終確認を行えばよいというようなことを可能とするかどうかについても,明確に記載しておくべきである.
たとえば,症例報告書に記載されているデータがコンピュータに入力される際には明らかな誤字の訂正や,セントラルでの読み替えといった処理が行われることを予め説明し,これらのセントラル側での処理については処理後にまとめて報告を行うので確認をお願いしたいことを説明しておくと親切である.
とくに修正履歴用紙を使用する際には,症例報告書が回収される前に症例報告書に対して行う修正または変更手順を詳細に記載するとともに,回収された症例報告書への修正または変更に対して修正履歴用紙をどのように取り扱い,どのように記載するのかという具体的な手順について充分な記載を行っておくことが大切である.
施設においては,多くの臨床試験が実施されており,各々の臨床試験を依頼する側の都合で様々な手順や対応が求められている.
このため,修正または変更に関する手引きの記載内容について充分に説明し,周知徹底しておくとともに,疑問点などの際に問い合わせる窓口をきちんと明示しておくとよい.
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