クロスオーバーデザインの例|【統計学・統計解析講義応用】
クロスオーバーデザインの例
ウィンクルマン〔Winkelman, 2000〕は,無作為化クロスオーバー・デザインを使って,座位の違い(仰臥位または水平位と,30度半座位との対比)が,成人の脳損傷患者の頭蓋内圧および脳濯流圧に与える影響について検証した.
半座位は,有意かつ臨床的に重要な改善をもたらした.
実験の条件とコントロールの条件
実験研究のデザインでは,研究者は,実験の条件およびコントロールの条件として何か必要かについて,多くの決定をする.
そして,これらの決定が研究者の結論に影響する.
実験の条件
実験的介入を公平に検証するために,研究者は,介入が問題状況に適切であり,その効果が当然期待できるくらいの十分な強さと期間を備えているように,介入を慎重にデザインする必要がある.
介入のすべての性質を正式のプロトコルに明瞭に描き,処理がどのようなものであるかを,正確に詳細に説明せねばならない.
研究者が取り組むべき課題には,以下のようなものがある.
・どのような介入か.それは,通常のケアの方法とどのように違うのか.
・2種の介入がある場合,正確にはどのように違うのか.
・介入を受ける人々にもちいるべき特定の手順はどのようなものか.
・介入の量や強さはどのくらいか.
・介入はどのくらいの期間か,どのくらいの頻度で行うか.いつ実験処理を始めるのか(例:手術後2時間).
・誰が介入を行うのか.どのような資格か,どのような特別な訓練を受けているか.
・どのような条件下で介入を中止し,または変更するのか,
大部分の実験研究の目標は,実験処理群の全対象に同じ介入を行うことである.
この目標に達するには,慎重な進行計画と明瞭に書かれたプロトコルが必要である.
質的研究は,研究者が実験研究で検証すべき介入を開発するのを助けるような,価値ある情報を提供する.
ガムル,グリプドンク,ヘングヴルド,デイヴィス〔Gamel, Grypdonck, Hengeveld, & Davis, 2001〕は,婦人科系のがん患者のための看護介入を開発するために,複数の質的研究の結果を検証した.
それらの介入は,性的な適応に焦点をあてていた.質的データは,この処理に患者の視点を取り入れるのに役立った.
コントロールの条件
研究で比較の基準として使うコントロール群を,反事実条件(counterfactual Jカウンターファクチュアル)という.
研究者は,反事実条件として何を使うかを選ぶ.
その決定は,理論的根拠や実質的根拠に基づく場合もあるが,実践上の関心や倫理上の関心から導出されることもあろう.
コントロール群の対象がまったく処理を受けず,従属変数の変化という見地から観察するだけの研究もある.
看護研究プロジェクトでは,こうした状況がいつでも実行できるとはかぎらない.
つまり,入院患者への看護介入の効果を評価したい場合,コントロール群の患者が看護ケアをまったく受けない,というような実験はできない.
反事実条件には,以下のようなものが考えられる.
1.代替的介入:たとえば,先述の乳児への刺激の例では,対象者は代わりの療法を受ける.
2.治療上の価値がないと推測されるプラシーボ(placebo)や見せかけの介入:先に述べたシュルツら〔Schultz et al., 2000〕によるペクチンとプラシーボを比較する研究のように,たとえば,薬の効果の研究では,ある患者には実験のための薬を与え,ほかの患者には無害の物質を与える.プラシーボは,対象者に注意がはらわれるというような〔対象が期待をもつことから,プラシーボ効果(placebo effect),つまり,プラシーボ条件に起因する従属変数の変化もあるだろうが〕,非医薬的な効果をコントロールするために使う.
3.ケアの標準的方法,つまり,患者を治療するために使う通常の手順:たとえば,ペアレントとフォーティン〔Parent & Fort in, 2000〕は,心臓手術患者への介入を研究した.コントロール群の対象は,こうした患者のための通常の病院手順に従って治療された.
4.すべての対象者がなんらかの介入を受けるが,処理の量や強さは異なる.しかし,実験群は,より豊かで,より強く,またはより長期にわたる介入を受ける:たとえば,ミルヌは,地域社会に暮らす高齢者のための,尿失禁に関する教育的介入を研究し,書式による指示を受けた群と,書式による指示に加えて個人的な支援を得た群をもちいた.
5.遅延処理:コントロール群も,最終的には完全な実験処理を受けるが,処理を遅らせる.
遅延処理の例
ガルシア・デリレチオ,グラシア・ロペス,マリン・ロペス,マス・ヘッセ,カマーナ・ヴァス〔Garcia de Lucio, Gracia Lopez, Marin Lopez, Mas Hesse, & Camana Vaz, 2000〕は,重篤な患者の近親者と話をするときの,ナースのコミュニケーション技術を改善するためにデザインされた介入について,その効果を検証した.
実験群は,すぐに訓練を受け,コントロール群は6か月遅れて訓練を受けた.
実験群が訓練後で,かつコントロール群が訓練前のときに,2群のコミュニケーション技術を比較した,
実験群は強い処理を受け,コントロール群はまったく処理を受けない場合のように,方法論としては,できるだけ異なる2つの条件のあいだで検証することが最良であろう.
しかし,倫理的にもっとも望ましい反事実条件は,現実的には実行がむずかしいだろうが,おそらく「遅延処理(delay of treatment)」による方法(5番)だろう.
2つの代替介入(1番)の検証も倫理的に望ましいが,効果の差を認めにくい場合,とくに,どちらの介入も少なくとも中程度に効果的である場合には,研究結果が決定的とはいえない,というリスクがある.
コントロール群の方略に関する決定がいかなるものであろうと,介入を説明する場合と同じく,反事実条件を詳細に説明する場合も,研究者は慎重になるべきである.
研究報告において,コントロールの条件が何か,また,検証される介入とどう違うのかを説明せずに,研究者が,コントロール群は「通常のケア方法」を受けたと言うことがある.
実践のためのエビデンスの基盤に頼る際に,異なる条件下で研究参加者に何が起きたのかを,ナースは正確に理解する必要がある.
複数の比較の方略を組み合わせることを選ぶ研究者もいる.
たとえば,通常のケアの方法(3番)に対して2つの代替処理(1番)を検証することもあろう,
こうした方法は望ましいが,当然,研究には費用がかかり複雑さも増す.
実験の長所と限界
コントロールされた実験は,科学の理想であると考えられていることが多い.
実験の長所
真の実験は,変数間の因果関係についての仮説を検証するうえで,利用できる最強の方法である.
実験デザインをもちいる研究は,特定の介入や看護行動の効果に関する良質のエビデンスを生む,と一般に考えられている.
実験は,そのコントロールという特性のために,他のどんな研究方法よりも,次のような大きな確証をもたらす.
すなわち,もし独立変数(例:食事,薬の服用,教授方法)が特定の方法で操作されれば,その場合従属変数(例:体重減少,健康の回復,学習)において,ある結果が起ることが期待できるだろう.
この「もし〜ならば,その場合に〜である(if…then)」というタイプの関係は,予測とコントロールという意味から重要である.
したがって,実験の大きな長所は,因果関係を推論できるという信頼性にある.
ラザースフェルドは,ジョン・スチュアート・ミルの思想を反映して,因果律のための3つの評価基準を示した.
第1の基準は,時間的先行性であり,原因は時間的に結果に先行しなければならない.
サッカリンが膀胱がんの原因であるという仮説を検証しようとするならば,サッカリンの曝露以前に対象にがんが発生していないという証明が必要だろう.
実験では,研究者は独立変数を操作し,次に,生じる結果を測定する.
それゆえに,この一連の流れはコントロール下におかれている.
2番目の要件は,仮定される原因と結果とのあいだに,経験的な関係が存在することである.
サッカリンとがんの例でいえば,サッカリンの摂取とがんの存在との関連性を証明しなければならないだろう.
すなわち,サッカリン使用者において,非使用者よりも高い割合でがんが発生していることを示さねばならないだろう.
実験では,この独立変数と従属変数との経験的関係が直接検証される.
因果関係を確証するための最後の基準は,その関係は,第3の変数の影響によるものとしては説明されえないということである.
たとえば,サッカリンの使用を選択した人は,サッカリンを使用しない人よりもコーヒーを多く飲む傾向があると仮定しよう.
その場合,サッカリンの摂取と膀胱がんとのあいだのいかなる関係も,コーヒー中のある物質と膀胱がんとのあいだにある因果関係の単なる反映にすぎないという可能性が出てくる.
実験的方法がとても強力なのは,とくにこの3番目の基準による.
操作,比較,無作為化を課せられたコントロールを通じて,因果関係についての他の解釈を排除したり否定できることも多い.
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