平均への回帰の例|【統計学・統計解析講義応用】
平均への回帰の例
ここでは. RTMが試験の結果を混乱させる,もしくは悪影響を与える少しばかりの古典的な例を示す.
例1:閾値を越えた後の変化
進行性のHIV感染症の増悪に対して,複数の薬剤を使用する高活性抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy, ART)の効果を比較した最近の臨床試験は,どれだけ極端なRTMが存在するかという例を示している.
ここで試験Aと呼ぶこの試験では,ベースラインで推算糸球体濾過扁:(estimated glomerular filtration rate. eGFR)が60を下回ることにより腎機能障害と判断された被験者は,その後3ヵ月の観察で劇的なeGFRの増加を示した.
分担研究者は,治療介入を行ったので,この患者は症状が改善したと結論しようと考えた.
幸運なことに,この不完全な結論が下されるのを食い止めた統計学者たちが近くにいた.
分担研究者はRTMのことを知っていたが,ベースラインで腎機能障害と診断された患者に観察された変化の大きさは,統計的なアーチファクトであり患者の真の状態変化ではないと考えるには臨床的にあまりにも有意なものだった.
分担研究者にeGFRの増加は治療介入によるものではなくRTMが大きな役割を果たしていることを納得させるために,試験統計学者たちは時間を後ろにずらす試みをしてみせた.
ベースライン値を使う代わりに,彼らは2ヵ月後の値を被験者が腎機能不全かどうかを分類するのに用い.ベースラインから2ヵ月後の値が60より低い被験者を分類して,これら同じ被験者の1ヵ月後に戻ってその値を検討した.
RTMの影響がなく治療に効果があるのならば,1ヵ月後の平均は,2ヵ月でなくたった1ヵ月間の治療の結果なので,いくらか小さい値であることが期待される.
しかし,真実はその反対であり2ヵ月後の平均値は46.2.1ヵ月後の平均は61.6であった.
これは観察されたeGFRの増加が,平均への回帰によって生じたものであるという明らかな証拠である.
さらには,1ヵ月後でeGFR<60であった人々は必ずしも2ヵ月後でeGFR<60ではなく,そして両方の時点での被験者の数は概ね同じであった.
eGFRの平均値のレベルと比較して大きな分散のために,この例では特に劇的なRTMの効果が見られたものであった.
他の試験では,分担研究者は彼が誤った結論を導き出すことから救われるほど幸運ではなかった.
ある異常な値が治療を変更させる引き金となり,その後に緩和した数値が観察されたことで新しい治療が効果を現わしていると解釈されることは数多くある.
MortanとTorgerson (2005)は, Heckmanら(2002)によって発表された骨粗鬆症の女性の骨減少を予防する再吸収阻害薬の効果を検討する試験で,この例について言及している.
その試験では,12ヵ月間の治療の後でなお骨密度の低下が認められる患者は.ビタミンDの補給を受けており,24ヵ月後の時点で骨密度が増加した女性はその補給が成功であったと診断された.
第1期の治療期間で骨量の増加が観察された群では.第2期での骨密度の測定において値が減少(まるでRTMがそうさせていたかのように)していたことは興味深いことである.
骨密度(bone mineral density.BMD)は実に変化しやすい.
MortonとTorgersonは,同様な試験で,初めの治療期間で骨量が減った被験者の80%を越える人が,治療法の変更もなく,また同じ期間で骨量が増加している被験者が次の期問で平均的な減少をみたにもかかわらず,次の治療期間で骨量を増加していることを示すことができた.
ベースラインからの減少が見られる時に治療法の変更を行うという設定をすることによって,分担研究者はある罠,ビタミンDが何らかの効果を示したかどうかにかかわらず,続く次の追跡観察時にRTMによる増加によって結果を誤った方向に導いてしまうという罠を仕掛けてしまっていた.
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