量的研究における研究設問|【統計学・統計解析講義応用】
量的研究における研究設問
量的研究では,研究設問は主要な変数(とくに独立変数と従属変数),変数問の関係,研究対象となる母集団を明記する.
変数はすべて測定可能な概念であり,研究設問は定量化を示すものである.
たとえば,記述的研究の設問には,変数の頻度(frequency)または罹患率(prevalence),またはその平均値を問うものがある(「何パーセントの女性が母乳育児をするか」,「静脈内注射による組織浸潤を冷湿布で手当てした場合の,60分後の同質液量の平均値はいくらか」など).
しかし,ほとんどの量的研究は,変数間の関係を問う.研究者は関係についてさまざまな問いを立てる.
これを流産に対する女性の情緒的反応の例で示そう.
1.関係の存在:流産と抑うつには関係があるか.
つまり,流産した女性とそうでない妊婦に抑うつレベルの差があるか.
2.関係の方向性:流産した女性は,流産していない妊婦に比べて抑うつレベルは高い(または低い)か.
3.関係の強さ:流産した女性における抑うつの危険度はどれくらいか.
4.関係の性質:流産が抑うつの原因か.抑うつが流産の原因か.または,他の因子が抑うつと流産の両方の原因か.
5.調節関係:出産で子どもを授かった経験があり,流産をした女性においては,抑うつレベルは調節されるか(つまり,初産婦と経産婦では,流産と抑うつの関係に差があるか).
6.仲介関係:流産は,抑うつに直接に影響するのか,または,流産が夫婦関係にネガティブな影響を与えるために抑うつが生じるのか.
最後の2つの研究設問は,仲介変数と調節変数を含んでいる.
これらは,研究者が関心をもつ変数(つまり外生変数ではない)であり,独立変数と従属変数との関係に影響する.
調節変数(moderator variable)とは,独立変数と従属変数の関連の強さや方向性に影響する変数である.
独立変数は,調節変数と相互に作用するといえる.
つまり,独立変数と従属変数との関係は,調節変数の値が変化すると,強くもなり弱くもなる〔Bennett,2000〕.
先の例では,流産後の抑うつの危険性は,子どもがいる女性のあいだでは低く(つまり,調節変数である出産回数は0よりも大きい),子どもがいない女性の場合は高い(つまり,出産回数は0である)かもしれない.
出産回数を考慮に入れずに,すべての女性をひとまとめに考える場合,流産の経験(独立変数)と抑うつレベル(従属変数)との関係は中程度である.
したがって,主要な調節変数として出産回数を明確にすることが,流産と抑うつの関係がどんなときに生じるかを理解するには重要である.
この理解については,臨床的関連がある.
仲介変数を含む研究設問は,因果関係の特定と関連している.
仲介変数(mediator variable)は独立変数と従属変数とのあいだに介在し,両者のあいだに関係が存在する理由を説明する助けとなる.
先の例では,流産が夫婦関係にネガティブに働くことが,流産を経験した女性の抑うつレベルに影響するかを尋ねている.
仲介変数を含む研究設問では,研究者は独立変数よりむしろ仲介変数に関心がある.
なぜなら,仲介変数が主要な説明手段だからである.
要約すれば,純粋に記述的性質の設問を除けば,量的研究における研究設問は,変数間の関係の解明に焦点をおいている.
量的研究における研究設問の例
ワットーワトソン,ガーフィンケル,ギャロップ,スティーヴンス,ストレイナー〔Watt-Watson, Garfinkel,Gallop, Stevens, & Streiner, 2000〕は.救急処置をするナースの患者への感情移入とその効果に関する研究を行った.
主な研究設問は,関係の有無と方向性であった.
「患者への感情移入が強いナースは,そうでないナースよりも,患者の苦痛をより和らげ,患者が十分な鎮痛効果を得られるようにするのか」.
質的研究における研究設問
質的研究の伝統は多様で,研究者が概念化し,重要だと考える設問の種類も多様である.
クラウンデッド・セオリーの研究者はプロセスの設問を,現象学者は意味の設問を,民族誌学者は,一般に,文化についての記述的設問を立てる.
さまざまな伝統に関連する用語は,先に目的の陳述との関連でふれたが,研究設問に組み込むことが多い.
現象学的研究における研究設問の例
「家庭でアルツハイマー疾患の家族をケアするということの,生きられた経験(lived experience)とはどのようなものか」〔Butcher, Hoikup, & Buckwalter, 2001〕.
質的研究がすべて,特定の研究の伝統に根ざしているわけではないことに注意しなくてはならない.
文化や意味,社会的プロセスに焦点をあてずに,現象を記述し探索する自然主義的な方法をとる研究者は多い.
質的研究における研究設問の例
ウィルソンとウィリアムズ〔Wilson & Williams, 2000〕は,以下のような質的研究を行った.
地域看護において,視覚主義(視覚的にとらえられることを支持する先入観)が,電話相談に意味があるという認識に与える潜在的な影響についてである.
以下に,地域ナースとの徹底的な面接を導いた研究設問を示す.
「電話相談は,実質のある仕事だと思うか.それは本当のコミュニケーションだと思うか.電話相談は,地域社会と看護サービスとの距離を近づけるか」.
質的研究では,研究設問が研究の進行によって発展することがある.
研究者は,まず,おおまかな探究の境界を定めて,そこに重点をおく.
しかし,その境界は固定しておらず,「変更可能であり,概して自然主義的な探究ではそのようになる」〔Lincoln & Guba, 1985, p.228〕.
自然主義者は,おおまかな出発点を示す研究設問をもって始めるが,新たな発見を禁じてはいない.
つまり,質的研究者はきわめて柔軟であることが多く,新たな情報に応じて設問を変更する.
研究仮説
仮説とは,複数の変数間の関係を予測するものである.
いいかえれば仮説とは,量的研究の設問を,期待される成果を正確に予測したものに置きかえたものである.
質的研究では,研究者は最初の仮説をもたない.
その理由の1つは,通常は十分な根拠のある仮説を立てられるほど,トピックについてほとんど知られていないことであり,他の理由としては,質的研究者が,研究者自身の視点ではなく研究参加者の視点によって導かれて探究したいと考えるからである.
したがって,ここでは,量的研究を導くための仮説に焦点をあてて検討しよう(その仮説のいくつかは,質的研究において生みだされる).
量的研究における仮説の機能
これまでみてきたように,研究設問は,通常,変数間の関係についての問いである.
仮説は,このような問いに対する暫定的な解決または答えである.
たとえば,次のような研究設問があるとする.
子どものころの性的虐待の体験は,女性の過敏性腸症候群の発症に影響するだろうか.研究者は,次のように予測するかもしれない.つまり,子どものころに性的虐待を受けた女性は,そうでない女性よりも過敏性腸症候群の罹患率が高い.
仮説は,理論的枠組みから直接に導き出されることがある.
科学者は,理論から仮説へと推論を進め,現実の世界でこれらの仮説を検証する.
理論の妥当性を直接に検証することはできない.
しかし,仮説の検証をとおして,理論の価値を評価できる.
強化理論を例に考えてみよう.
この理論は,正の強化を受けた(報酬を与えられた)行動は,学習されやすく,繰り返されやすい傾向があるというものである.
理論そのものが抽象的すぎる場合は経験的な検証ができないが,この理論が妥当なものならば,ある種の行動について予測が立てられるはずである.
たとえば,強化理論からは次のような仮説が導き出されている.
・ナースから,自分で食事することをほめられた(強化された)老年患者は,そうでない患者よりも食事介助を必要としない.
・看護処置のあいだ,それに協力することに対して報酬(風船やテレビを見る許可など)を与えられた子どもは,報酬を与えられなかった子どもよりも,それらの処置のあいだは従順である.
これらの命題は,どちらも現実の世界で検証できる.仮説が確認された場合,理論が支持されたことになる.
すべての仮説が理論から導き出されるわけではない.理論を備えていない場合も,よく考えられた仮説は,方向性を示し,説明を可能にする.
次の例が,この点を明らかにするだろう.
「学士号をもつナースは,専門学校卒のナースよりも,初めての仕事でストレスを体験しやすい」という仮説を立てたとしよう.
われわれは,理論(例:役割葛藤理論,認知不協和理論)や先行研究,個人的観察,またはこれらの組み合わせに基づいて,この推理を正当化できよう.
予測の展開そのものが必要なために,研究者は論理的に考え,批判的に判断し,先行研究の結果をつなぎ合わせることを余儀なくされる.
さて,上記の仮説が,収集した事実からは確認できなかったとしよう.
つまり,最初の仕事におけるストレスは,学士号をもつナースと専門学校卒のナースとのあいだで差がなかったとする.
予測がデータによって支持されなかったため,研究者は,その理論や先行研究を批判的に分析したり,その研究方法の限界を慎重に検討したり,その結果に対する別の説明を探ることを余儀なくされる。
量的研究で仮説をもちいることで,批判的思考がもたらされ,データの理解と解釈が促されやすい.
仮説のさらなる効用を説明するために,「ナースの基礎教育と最初の仕事で体験するストレスとのあいだに関係があるか」という研究設問だけで研究を始めたとしよう.
仮説を立てていない研究者は,一見すると,どんな結果でも受け入れてしまう.
問題は,どんな結果であれ,あとから表面的になんらかの説明を加えることがたいてい可能になるということだ.
仮説は,表面的になることを防ぎ,誤った結果を誤解する可能性を最小限にする.
検証可能な仮説の特徴
検証可能な研究仮説は,母集団における独立変数(推定される原因,先行因子)と従属変数(推定される影響,結果)とのあいだに予測される関係を陳述する.
研究仮説の例
元患者の支援で,「間接経験(vicarious experience)」の介入を受けた心臓病患者は,介入を受けなかった患者よりも,
@不安が少ない.
A自己効力感が高い,
B自己報告式による活動得点が高い〔Parent & Fortin, 2000〕.
この例での独立変数は,介入を受けることと受けないことである.
従属変数は,不安,自己効力感,活動である.仮説は,介入を受けた患者に,よりよい結果が生じることを予測している.
残念なことに,関連性の陳述がない仮説を提示する研究者もいる.以下の予測は,受け入れられる研究仮説ではない.
妊娠中に産褥期の体験について教育を受けた妊婦は,産後うつ病を体験することが少ない.
この陳述は,予測される関係をまったく表現していない.
関係を示すには少なくとも2つの変数が必要であるが,この陳述では変数は1つ(産後うつ病)しかない.
予測される関係をあらわしていない場合は,検証できない.
この例では,どうやって仮説が支持できるか,わかるだろうか.
この仮説を採択するか棄却するかを決めるには,どのような絶対基準を使えるだろうか.
この問題をより具体的に例示しよう.
産褥期の体験について教育を受けた母親に,産後1か月の時点で,「出産後,全般的にみて,あなたはどの程度の抑うつ状態にありましたか.次のうち,該当するものを選んでください」と尋ねたとしよう.
@極度に抑うつ状態だった,
A中程度に抑うつ状態になった,
Bいくらか抑うつ状態だった,
Cまったく抑うつ状態になかった.
この質問への回答に基づいて,予測された結果と実際の結果とをどのように比較できるだろうか.
女性全員が「まったく抑うつ状態になかった」と答えるべきだろうか. 51%の女性が,「まったく抑うつ状態になかった」,または「いくらか抑うつ状態だった」と答えた場合は,予測が支持されたことになるのだろうか.予測の正確さを検証する適切な方法はない.
しかし,「妊娠中に教育を受けた妊婦は,そうでない妊婦よりも,産後うつ病を体験することが少ない」と予測をいいかえると,検証は簡単になる.
ここでは,従属変数は女性の抑うつであり,独立変数は,妊娠中の教育を受けたか受けないかである.
予測される関係について,「〜よりも少ない」と表現する.
仮説のなかに,「〜よりも多い」,「〜より少ない」,「〜より大きい」,「〜と異なる」,「〜に関係する」,「〜に関連する」に類した表現がなければ,量的研究では検証に耐えることができない.
この変更した仮説を検証するために,妊娠中の教育の体験が異なる2つのグループの女性に,抑うつに関する質問をすることができる.
それぞれのグループにおける抑うつの程度の絶対値は,すでに問題ではない.
仮説は,理想的にはしっかりした,正当化できる理論的根拠に基づくものでなければならない.
もっとも正当な仮説は,既存の研究結果から導き出されたもの,または理論から演繹されたものである.
比較的新しい領域の研究を行う場合,研究者は,予測を正当化するために,論理的推理または個人的経験に依拠しなければならないだろう.
しかし,既存の研究のエビデンスをまったく欠いた研究問題はほとんどない.
仮説の導出
多くの学生が,「仮説を立てるにはどうしたらいいのだろう」と疑問をもつ.
そのための思考法には,帰納法と演繹法という2つの基本的な過程がある.
帰納的仮説(inductive hypothesis)は,観察された関係に基づいて一般化したものである.
研究者は,現象間にみられるパターン・傾向・結びつきを観察し,それらの観察をもとに予測する.
関連文献を調べ,トピックについて既知の事実を確認することは必要だが,帰納的仮説の重要な源泉は,直観や批判的分析とあいまった研究者自身の経験である.
たとえば,手術前に痛みについて多くの質問をする患者や,痛みに関する多くの不安を表出する患者は,手術後の適切な過ごし方について学ぶのがより困難な傾向にあるとあるナースが気づいたとしよう.
ナースは,より厳密な科学的手順によって検証しうる,
以下のような仮説を立てることができよう.
たとえば,「痛みの恐怖がストレスになっている患者は,ストレスをもたない患者よりも,術後の深呼吸や咳嗽がうまくできない」という仮説である.
質的研究は,帰納的仮説のためのインスピレーションの源として重要である.
帰納的仮説の導出の例
産後のパニック障害に関するベック〔Beck, 1998〕の質的研究で,結果の1つは,自尊心についてのテーマであった.
「何度もパニック発作が起きた結果,女性のライフスタイルに否定的な変化が起きる一自尊心が低くなり,自分だけでなく,家族も失望させたという心理的負担を負うことになる」
この質的研究の結果から導き出された仮説は以下のとおりである.
「産後のパニック障害を経験した女性は,そうでない女性よりも自尊心が低い」,
仮説を導き出すためのもう1つの方法は,演繹である.
現象がどのように働き,どのように相互に作用しあっているかについての理論を,直接に検証することはできない.
しかし,演繹的推理をもちいることで,研究者は,一般的な理論的原理に基づいて仮説を立てることができる.
帰納的仮説が個別の観察に始まって一般化へと向かうのに対し,演繹的仮説(deductive hypothesis)では,はじめに理論があり,それを個別の状況に適用する.
次の三段論法で,この推理過程を説明しよう.
・すべての人間は,赤血球と白血球をもつ.
・ジョン・ドウは人間である.
・したがって,ジョン・ドウは赤血球と白血球をもつ.
この簡単な例では,仮説は,「ジョン・ドウが実際に赤血球と白血球をもっている」というもので,この演繹は検証できる.
その理論は仮説を立てるうえで有効な出発点となりうる.
研究者は次のように問いかけねばならない.
「この理論が妥当なものならば,関心ある現象について何か推測されるか」.
いいかえれば,研究者は,「その一般的理論が真実ならば,特定の結果または結論を予測できる」と演繹する.
一般的原理から導き出された特定の予測は,経験的なデータを収集することによって検証されなくてはならない.
これらのデータが,仮説化された結果と一致すれば,その理論は強化される.
看護知識の進歩は,帰納的仮説と演繹的仮説の双方に依存している.
理想的には,循環的プロセスが進行する.
その循環のなかでは,観察を行い(たとえば質的研究において),帰納的仮説が生まれ,仮説を検証するために系統的かつコントロールされた観察を行い,結果に基づいて理論体系を構築し,演繹的仮説を理論から形成し,新しいデータを収集し,理論を変更し…と続くのである.
研究者は,概念の組織者であり(帰納的に考え),論理学者である(演繹的に考える)とともに,研究結果を系統立てるうえでは,証拠を常に要求し,批判的で疑い深くなければならない.
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