リモートデータエントリー|【統計学・統計解析講義応用】
リモートデータエントリーとは
リモートデータエントリー(RDE:Remote Date Entry)を定義する上で最も基本的な概念としては、「データの発生源に近い場所でデータが入力されること」ということになります。
しかしながら、より広い範囲に適用することができるように、分散化した環境でデータが作成されること、という方が適切です。
リモートデータエントリーはEDC(Electronic Data Capturing)と呼ばれることもあります。最近では広い概念であるEDCの方が用いられることが多くなっています。
リモートデータエントリーを行わない場合には、施設において臨床試験データが症例報告書などの紙ベースで準備され、セントラルで一括してデータ入力が行われるという方式になり、古くからこの方法は実施されてきました。
しかしながら、データの発生源にできるだけ近いところでデータ入力を行う方が効率的なデータ処理が行えるという考えからリモートデータエントリーも試みられてきました。
そして、リモートデータエントリーを行った場合には、施設では次のようなメリットが考えられます。
@データ転記などの作業の軽減
A問合せの減少による時間の削減
Bペーパーレス実現による保管場所の削減
C原資料の一元化の可能性
そして、セントラルでも次のメリットが考えられます。
@データの質の向上
A問合せの減少による時間の削減
Bタイムリーな情報の収集
Cセントラルでの入力時間と資源の削減
Dペーパーレス実現による保管場所の削減
このように施設とセントラルの両方のとっていくつものメリットが期待されるため、ネットワークや周辺の技術が発展し、技術的なハードルは低くなってきました。
これに伴いリモートデータエントリーへの試みはこれまで以上に増えています。
リモートデータエントリーの形態としては、施設などのリモートサイトを優先する場合と、臨床試験を依頼する側であるセントラルサイトを優先させる場合があります。
このリモートサイト優先という形態とは、臨床試験データの作成はまず施設で行われ、ファイル転送、電子メール、フロッピーディスクの送付など何らかの方法でセントラルに臨床試験データが集約されるということです。
一方、セントラル優先という形態とは、施設でコンピュータを操作したとしても臨床試験データの作成は最初からセントラルで行われるということです。
そして、セントラル優先の場合には随時最新のデータを参照することができる、システム管理が容易、双方向の情報交換が可能などの長所がありますが、常にオンライン環境になければならないという短所もあります。
また、リモートサイト優先の場合には、施設外とのネットワークのインフラがなくても使用できる、施設内での情報集形態に柔軟に対応できる、などの長所がありますが、情報がタイムリーでない、システム管理に手間がかかるなどの短所もあります。
これらを考慮してリモートサイトとセントラルのいずれかを優先させたシステムを用意するかを判断しなければなりません。
また、今後の展開としては、データは各施設に存在するがセントラルやほかのリモートサイトから随時、一元化して参照することができるという分散型データベース(Distributed Database)や、データの形態などは多様でよく、どこに存在していたとしてもセントラルやリモートサイトから随時、一元化して参照することができるというデータウェアハウス(Data Ware House)のような概念を取り込むことも可能でしょう。
リモートデータエントリーの歴史
欧米では1980年代に既に症例報告書をFAXで送信しOCRで読み込む、またはコンピュータを施設に配布してデータ入力を依頼して作成されたデータを転送するというような試みがなされてきました。
そして、1990年代にはコンピュータを施設に配布して直接にセントラルサーバへのデータ入力や、インターネット技術を利用して直接にセントラルサーバーへのデータ入力なども行われてきています。
2000年以降はPDA(携帯利用端末)を用いて現場でのデータ収集や、IVRS(Integrated Voice Response System)の利用も行われるようになっています。
PDAは、患者日誌、コンビニエンスストアなどで見かけるPOS(Point of Sales)システムの臨床現場への応用的な導入時の端末として活用されており、IVRSは電話を利用した音声応答システムとして、症例の割り付け、治験薬の配布、患者日誌などに広く活用されています。
海外でのデータマネジメントに関するDIA(Drug Information Association)のワークショップなどでは、リモートデータエントリーに関するプログラムが非常に多く展示されています。
現在の主流はインターネットを利用したWeb-based Clinical Trialです。
これはWebページを立ち上げ、この上にデータ入力画面を用意しておくものであり、データ入力画面は多くのアンケートサイトや銀行のインターネット取引などで用いられているものと同じようなイメージのものです。
データ入力画面と同時に、プロトコル参照画面やIRBなどの許可状況に応じてデータ入力の可否をコントロールすることもできます。
あるいは、症例の収集状況というような臨床試験の進捗に関 する情報が表示されたり、緊急有害事象報告もWebページと電子メールなどを利用して伝えるというようなことが行われたりしています。
このようなWeb-based Clinical Trialにおいてはインターネットに繋がっている環境さえあれば、世界中の距離という物理的な制約条件を意識する必要はなくなることに加え、Webブラウザ以外に特別なソフトウェアを必要としません。
このため、テクノロジーとしてはリモートデータエントリーにおける問題点のかなりの部分を解決することができる方法であるといえます。
そして、特に研究的な臨床試験やPhase Wを中心にWeb-based Clinical Trialは既に数多く実施されています。
これには、Web-based Clinical Trialではモニターに頼ることなく双方向の情報交換が行うことができるという側面も関与していると思われます。
なお、製薬企業が関与する臨床試験では製薬企業がWebページを立ち上げるのではなく、CROなどを介在させて使用されることが多いようです。
日本では残念ながら活用事例は少ないですが、1996年にControlled Clinical Trial誌に掲載された木内貴弘らの「A World Wide Web-based user interface for a data management system for use in multi-institutional clinical trials: Development and experimental operation of an automated patient registration and random allocation system.」という論文が最初の試みです。
この論文はインターネットを利用した臨床試験データ管理システムに関する世界で最初の論文です。
その後、いくつかの製薬企業などで試みが行われておりますが、施設との間でのリモートエントリーについての本格的な取り組み事例は未だ少ない状況です。
ただし、Phase Tなどの融通が利く施設を利用した場合に、臨床試験データの転送を行う場面は結構、利用されていると思われます。
いずれにせよ、ようやく最近になってInForm, PostMaNet, ClinPraNetなどの市販アプリケーションも登場し、本格的かつ大規模な展開が始まったところであると言えるでしょう。
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