不十分な精度|【統計学・統計解析講義応用】
不十分な精度
量的研究者は,ふつう,できるだけ高い精度(precision)を達成するように研究をデザインしようとする.
その精度は,外生変数をコントロールする正確な測定用具によって,また検出力の高い統計学的方法によって達成される.
具体例を見ることが精度の理解にはもっとも容易であろう.
ナーシング・ホームに入った高齢者と入らなかった高齢者を比較して,ホームに入ることによる抑うつへの影響を研究したとしよう.
抑うつは,さまざまな理由で,1人ひとりの高齢者によって異なっている.
この研究では,ナーシング・ホームの入所による抑うつにおける変動の一部を,できるだけ正確に分離することに関心があるとしよう.
外生因子による変動を減らすような研究コントロールの手段を,研究デザインに組み込み,それによって精度を高めることができる.
量的研究において,以下の比率は,研究者が査定したいと望んでいることをあらわしている.
この比率はかなり簡略化したものであるが,多くの統計学的検定の本質をとらえている.
分子(式の上半分)の変動を,分母(式の下半分)の変動に対してできるだけ大きくすることによって,ナーシング・ホームの入所と抑うつレベルとの関係を明確に評価しようとしている.
外生変数(例:年齢,予後)による抑うつの変動が小さいほど,ナーシング・ホームに入った高齢者と入らなかった高齢者の抑うつにおける差を容易に検出できる.
外生変数に起因する変動を減らすようなデザインは,研究の精度を高める.その理由をこれまでの例で示すために,上記の比率に数値1を代人してみよう:
ナーシング・ホーム入所による抑うつの変動、その他の因子による抑うつの変動、他の因子の例:年齢,痛み,医学的予後,ソーシャル・サポートなどをもちいない場合は,処理を管理する(または中止する)スタッフが,不注意に不適切な合図を送ったり,処理条件をあいまいにするかもしれないので,訓練とモニタリングはとくに重要である.
もちろん,臨床環境では,研究者に,コントロール群に処理を施すべきだという,研究デザインを脅かすような圧力がかかるかもしれない.
標準化に関する問題の例
ウィンターバーンとブレイザー〔Winterburn & Fraser,2000〕は,北イングランドのある大学付属病院で,産後入院日数による母乳育児の割合への影響を調べた.妊娠第3期の女性たちを,産後短期入院(6〜48時間)と産後長期入院(48時間より長期)に無作為に割り付けた.
長期入院群であっても入院を好まない女性がいるという事実によって,研究デザインを譲歩して変更したので,入院日数における2群の差は比較的に小さくなった.
たとえば,実験群の人々が,処理に完全には参加しないことを選んだ場合(例:処理の活動に行くのをやめる)や,コントロール群の人々が処理を望んで,利用できるようになった場合は,対象は,計画されたものとは異なる条件にさらされるかもしれない.
研究者は,とくに実験群の人々には参加を促すような手段を講じ,処理条件の一貫性を高めるように研究をデザインしたほうがよい.
たとえば,実験デザインをもちいる場合,無作為割り付けのタイミングが,研究への参加に影響することもあろう.
処理条件の説明をする前に,対象を無作為に割り付けた場合,対象は,その条件がどのようなことを引き起こすのかを知った途端に参加を取りやめるかもしれない.
一方,説明後の無作為割り付けでは,割り付けられた人々が減ることは,もっと少ないかもしれない.
介入への不参加は,ほとんど無作為ではない.
したがって研究者は,どの対象がどのくらいの量の処理を受けたかを記録したほうがよい.
それによって,結果を分析または解釈する際に,受けた「量(dose)」の個人差を考慮に入れることができよう.
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