FDA監査とCoast IRB事件が示すIRB独立性の危機【ChatGPT統計解析】
施設外IRBに対するFDAの監査は定期的に行われており、Coast IRB社の事件はその代表例です。2009年、GAOが偽のプロトコールを提示し、2社は拒否したが、Coast IRB社は承認しました。この事件により、FDAはCoast IRB社に新規審査の差し止めと研究中止を命じ、同社は最終的に事業を閉鎖しました。事件後、企業はIRBの活動をより厳しく監督するようになり、審査プロセスの質が向上しましたが、IRBの独立性が損なわれるリスクもあります。施設外IRBの利用は、利益相反の回避や審査効率の向上を目的とし、特に多施設共同試験でそのメリットが大きいです。しかし、営利型IRBが依頼者に影響される懸念もあり、今後もその倫理的役割が問われるでしょう。
▼▼▼▼▼▼▼▼
チャンネル登録はこちら
施設外IRBの調査
施設外IRBに対しては. FDAの監査が定期的に実施され,監査を受けた委貝会の中には何年にもわたり警告を受けたところがある.
2009年3〜6月にかけて明らかになったCoast IRB社による事件は,最も有名なものであろう.
一見無関係と思われた過去の詐欺行為から浮かび上がってきた問題を調査するため,下院エネルギー商業委員会(House Energy and Commerce Committee)は,米国連邦議会行政監査局(Government Accountability Office, GAO)に営利型施設外IRBの調査を秘密裏に行うよう命じた.
GAOの犯罪監査・特別調査部門(Forensic Audits and Special Investigations Department)は,インターネットからデータを寄せ集めて,偽(にせ)のプロトコールを作り,このプロトコールと関連文書を3施設外IRBに提示した.
この案件には,その根拠となる科学的・前臨床的資料がなく. FDAから収集した医療用機器の情報を元に捏造し,研究者の1名は期間切れの医師免許を偽造したものであった.
2社はこのプロトコールを即座に拒否したが, Coast IRB社はこれを承認した.
この後3月下旬には委員会公聴会が開かれ,公聴会ではCoast IRB社のみでなくFDAやOHRPも批判の対象となった.
公聴会から2週間後に. FDAはCoast IRB社による新規審査の差し止めを命じるとともに,同社が監督しているすべての研究に関し.被験者登録の中止を求めた.
Coast IRB社は,4月末までに他社に試験の移管を開始し,6月末までに事業を閉鎖した.
Coast IRB社は商業的成功を収めていたが,他社ではその審査期間が無責任なほど短いと考えていた.
同社の顧客には最大手の製薬企業が多く含まれており.多くの企業では審査のクオリティなど眼中になく,速さと費用のみに関心があるという現実が,同社の商業的成功から明らかとなった.
Coast IRB社が事業を解散し,研究の中断,移管や再審査が行われたため.研究活動に大幅な遅れが生じた.
Coast IRB社を利用した企業では,依頼した試験の再評価に対して費用を支払う必要が生じ,被験者保護よりも効率性を優先したという非難にさらされることとなったが.このような非難は企業イメージダウンにつながる可能性がある.
以上のことから,施設外IRBと企業側との関係は,Coast IRB事件の後,根本から大きく変化することとなった.
IRBが正しく機能しないことによる代償の大きさが明らかになったことにより,企業側ではIRBの活動に対する監督権限を強化することとなった.
実施中の試験に対して定期的な査察を行ったり,契約を結ぶ前に資格要件について査察を実施する他,サービスの質や審査能力などを規定し,他の取引業者と同様にIRBを扱うような契約関係を結ぶケースが増えている.
施設外IRBと顧客との関係には,このような変化が起こりつつあるが,その結果には,良い而とそうでない面とがある.
このような変化によって,審査プロセスの質と一貰性が高まるが,その一方でIRBと依頼者との関係が密になり,他の商業的な取引業者と同様の関係になってゆく恐れがある.
その結果,IRBの独立性が損なわれ.依頼者の利益に荷担するようになる恐れが生じる.
責任ある科学的判断の結果,依頼者の利益が生じるのであれば問題ないが.効率性を重要視するあまり被験者保護が疎かになるのであれば,表面的には規則の文言と齟齬がないとしても,IRBの倫理的役割が損なわれることになる.
施設外IRBを活用する理由
施設外IRBに対して審査を依頼することが必要となる具体的な理由がいくつかある.
施設外IRBがどのような形態で報酬を受けるかは別にして,施設外IRBは審査の「請負を業」としていることから,大学のIRB委員と比較して,施設外IRBの委員は多くの件数のプロトコールを目にしている.
自分の研究施設から網羅的に委員を集める代わりに,適切な科学的判断ができるメンバーと,コミュニティから選ばれたメンバーの最少人数に抑えることができる.
委員会規模が小さいことは不利と思われるかもしれないが,委員会メンバーの多くはコミュニティ代表者であり,各委員は試験審査の経験が豊富であり,プロトコールや同意説明文書のどこを見るべきか,健康被害を受けやすい被験者グループはどのような人々か,同意説明文書が被験者に理解できるかなどについて判断できる「審査の専門家」である.
大学のIRBとは異なり,施設外IRBの委員は時給制で報酬を受けることがほとんどである.
研究を実施する研究機関に所属しないで,多くの場合,正式に施設外IRBにも所属していない.
この文脈における「所属(affiliation)」の意味には若干問題がある.
すなわち,施設外IRBは,委員に対して費用を支払うが,委貝は被雇用者とはみなされていない.
一般論として,このような報酬は.時間に対する対価として支払われるが, IRBとの間で雇用関係が成立しないように金額が低く設定されている.
これは.営利型IRBのメンバーが下す結論とビジネス経営とを区別するための手だてである.
すなわち,委員会メンバーが倫理審査活動から得る収入に依存しない状況にすることにより,委員会メンバーがIRBと依頼者との今後の関係性を考慮して不承認という判断を下しにくい状況になることを最低限にしなければならない.
ほとんどの施設外IRBでは,有料サービスモデルを採用しているが,このモデルにより,大学研究機関よりも豊かな手当を委員に対して支払うことができる.
大学の被験者保護委員会は支出のみが発生する部門であり,年問予算が妥当であることを立証する必要があるからである.
有料サービスモデルでは,業務最に応じて収益が生じるので,業務量と資金とのミスマッチを防ぐことができる.
逆説的に聞こえるかもしれないが,施設外IRBを利用するもう1つの理由は,利益相反を防ぐことにある.
営利型IRBは監督対象である依頼主から報酬を受け取っているので,その審査には,手心が加えられているに違いないという批判に常にさらされてきた.
このような利益相反は明瞭であって,適正に管理されなければならない.
これに対して,大学のIRBは,その研究施設と深く関わっており,依頼者の評判とは無関係である.
しかし,大学のIRB委貝には.知らないうちに利益相反行為が行われる可能性がある.
例えば,自分たちの研究施設や部署が先端的研究を行っていることにより評判が高くなることを望む場合や,委貝会メンバーが現在審査対象となっている研究者の同僚であって,次の委員会において自分の研究が審査されるような場合が考えられる.
研究機関では.近年研究費を獲得する目的で企業から研究を受託する機会が増えている.
研究機関や施設の研究費の命運が施設内IRBの審査にかかっているならば,この場合の利益相反は,施設外IRBの場合と同じことになる.
施設外IRBの費用は,多施設共同臨床試験の場合には極めて安価となり.施設外IRBの利用は,上記のような施設内IRBでは問題が生じる恐れのある研究に関して利益相反を防ぐ有益な方法となる(施設外IRBが効果的に利益相反を防止することができることを前提とする).
このようなメリットは,施設外IRBが効果的に機能しうるかどうかという点にかかっている.
すなわち,委貝会メンバーに対して適切な報酬を提供しつつ,大学IRBが対応しづらい研究内容にも対応し,大学IRBよりも優れた専門知識を提供できるかどうかが問われている.
特に個別の研究に対応できるという点は施設外IRBの利点である.
しかし,施設外IRBを利用する最も大きな理由は,個々の審査に関する具体的な側面以上に研究環境に由来する.
既に述べたように,IRBモデルは,単一施設で行う臨床試験を念頭に作られたものであるが,医薬品や医療用機器を対象とした試験では,もはやこのようなモデルは古くなってしまっている.
多施設で行う研究の場合に,単一のIRBが審査を行うことによるメリットは明らかである.
研究施設の研究能力やコミュニティの実情を知る必要があるため,研究を行う施設がある地域のIRBによる審査が必要であると長い間考えられてきたが,当該地域にないIRBであっても,コミュニティの実情を踏まえて倫理的な判断を下すことができることが次第に明らかになってきた.
実際, AAHRPPと規制当局は,多くの場合,既承認のブロトコールに新たに試験施設を追加するに際して, IRBが迅速に判断できることを認めている.
このような追加に際しては,新しいPIと新しい被験者集団を含めて追加することが,試験の小規模な変更であってリスク増加を伴わないと考えられる場合にのみ,迅速な決定を行うことが可能である.
そのような場合,同じプロトコールを何度も重複して検討したり,個々の試験施設用の同意説明文轡を維持するために求められる努力や費用は不要である.
また,複数のIRB審査を行うことにより, IRBが被験者を保護する機能が低下する可能性を指摘する声もある.
多施設共同試験に際して,単一のIRB審査を行うメリットは,当該IRBが営利型IRBであるか否かには無関係である.
「臨床・トランスレーショナルサイエンス資金(Clinical and Translational Science Award,CTSA)」などの研究費の提供を正式に受けている研究機関では,各研究メンバーが所属する施設におけるIRBの権限を相互承認する方法を模索中である.
米国国立がん研究所(National Cancer Institute ,復員軍人援護局(Veterans Administration . VA)や米国国立小児保健・人間発達研究所(National Institute of Child and Human Developmen, NICHD)では,セントラルIRBモデルの実践または検討を行っている.
もし試験施設の地域間格差や地域住民の反応に関する知識の有無が,中央治験審査委員会による審査の障壁とならない場合には,審査を学内のIRBで行うか施設外IRBで行うかは,経済的判断と理念の問題であって,能力や倫理の問題ではなくなる.
施設外IRBに対するFDAの監査は定期的に行われており、これによってIRBの活動が適切に行われているかが監視されています。しかし、施設外IRBの中には、監査を受けた後も長期間にわたり警告を受け続けるところがあり、そうした場合、問題が深刻であることがしばしば指摘されています。その中でも特に有名な事件として2009年に発生したCoast IRB社の事件があります。この事件は、過去の詐欺行為に関連して問題が発覚したもので、下院エネルギー商業委員会が米国連邦議会行政監査局(GAO)に対して営利型施設外IRBの調査を秘密裏に行うよう命じたことから始まりました。GAOの犯罪監査・特別調査部門は、インターネット上からデータを集めて偽のプロトコールを作成し、そのプロトコールを3つの施設外IRBに提示しました。これらのプロトコールには科学的な根拠や前臨床的な資料が全くなく、FDAから収集した医療用機器の情報を元に捏造されたものでした。また、研究者の1名は期限切れの医師免許を偽造しており、明らかに信頼性に欠ける内容でした。しかしながら、3つの施設外IRBのうち2つはこのプロトコールを即座に拒否したものの、Coast IRB社はこれを承認してしまいました。この結果、問題が公となり、3月下旬には委員会の公聴会が開かれました。この公聴会ではCoast IRB社だけでなく、FDAやOHRP(Office for Human Research Protections)も批判の対象となり、IRBの監督体制全体に対する疑問が提起されました。公聴会の2週間後、FDAはCoast IRB社に対して新規審査の差し止めを命じるとともに、同社が監督しているすべての研究に関して被験者の新規登録を中止するよう要求しました。Coast IRB社は4月末までに他社に試験を移管し始め、最終的に6月末までに事業を閉鎖しました。Coast IRB社はかつて商業的に成功を収めていたものの、その成功の背景には、他社に比べて審査期間が非常に短く、無責任ともいえる運営があったことが問題視されました。同社の顧客には大手の製薬企業が多く含まれており、これらの企業は審査の質よりも速さと費用の面を重視していた現実が浮き彫りになりました。Coast IRB社の事業が解散し、研究活動が中断されたことにより、多くの研究は大幅に遅延し、試験の移管や再審査が行われたため、企業側には追加のコストが発生しました。また、効率性を優先した結果、被験者の保護が疎かにされていたとの批判が起こり、これが企業のイメージに悪影響を与える可能性も指摘されました。この事件をきっかけに、施設外IRBと企業の関係は根本から大きく変わることになりました。企業はIRBの活動に対する監督を強化し、実施中の試験に対して定期的な査察を行ったり、契約を結ぶ前に資格要件について査察を実施するケースが増えました。また、サービスの質や審査能力に関する明確な基準を設け、他の取引業者と同様にIRBを扱う契約関係を結ぶ企業が増えたことも顕著な変化です。このような変化により、IRBと顧客の関係はより密接になりつつあり、その結果、審査プロセスの質と一貫性が向上する一方で、IRBの独立性が損なわれるリスクも生じています。特に、IRBが依頼者の利益に過度に影響される可能性が懸念されています。もし、責任ある科学的判断の結果として依頼者に利益がもたらされるのであれば問題はありませんが、効率性を重視するあまり、被験者の保護が疎かにされるような状況が生まれる場合、IRBの倫理的役割が損なわれる危険性があります。施設外IRBの活用にはいくつかの理由があり、特に多施設共同臨床試験においてそのメリットが強調されます。施設外IRBは、審査の「請負業」としての役割を果たしており、大学のIRB委員と比べて多くのプロトコールを審査する経験を持っています。さらに、施設外IRBの委員は科学的判断を適切に行えるメンバーで構成され、委員会規模が小さいことで審査の効率が高まることがあります。大学のIRBと異なり、施設外IRBの委員は時給制で報酬を受け取っており、正式に所属しているわけではありません。このような雇用関係の曖昧さは、ビジネス経営と審査業務を分けるための措置であり、委員が依頼者との関係性を考慮して不承認を躊躇することを防ぐ目的があります。一方で、施設外IRBは有料サービスモデルを採用していることが多く、大学のIRB委員に比べて手厚い報酬を支払うことができます。大学の被験者保護委員会は予算を制限される一方、施設外IRBは業務量に応じて収益を上げられるため、資金不足の問題を抱えにくいという利点があります。また、施設外IRBを利用するもう一つの理由として、利益相反の防止が挙げられます。営利型IRBは依頼者からの報酬を受け取るため、その審査にバイアスがかかるのではないかという懸念がありますが、これは適切に管理されるべきものです。対して、大学のIRBでは、知らず知らずのうちに利益相反が発生するリスクがあります。例えば、研究施設や部署の評判向上を望む場合や、委員が審査対象の研究者と同僚であり、次の委員会で自分の研究が審査される場合などが考えられます。このような状況では、施設外IRBが利益相反を回避するための有効な手段となりますが、それは施設外IRBが効果的に機能している場合に限ります。施設外IRBの委員は、大学IRBが対応しづらい研究にも対応できる専門知識を持っており、特に多施設共同試験においては、単一のIRBが審査を行うことで審査の重複を避け、時間やコストを削減することができます。施設外IRBを利用する最大の理由は、単一施設で行われる臨床試験モデルが古くなり、多施設での試験に適した新たなモデルが必要だからです。多施設共同試験では、単一のIRBによる審査のメリットが顕著であり、特に複数のIRBが同一のプロトコールを何度も審査する必要がない点が重要です。このような変化は、研究の効率化と被験者保護の両方に寄与していますが、一方で、IRBと依頼者の関係がより商業的なものになるリスクも存在します。結論として、Coast IRB事件をきっかけに、施設外IRBと企業の関係は根本的に変わり、IRBの監督が強化される一方で、独立性の維持と倫理的な判断が引き続き重要な課題となっています。
関連記事