質的研究における活動【統計解析講義応用】

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質的研究における活動|【統計学・統計解析講義応用】

質的研究における活動【統計解析講義応用】


目次  質的研究における活動【統計解析講義応用】

 

 

質的研究における活動

 

これまで見てきたように,量的研究は,作業の進行の仕方がきわめて直線的である.

 

つまり研究者は,研究を最大限に完全にするために,各ステップの進行について計画を立て,それらのステップを可能なかぎり忠実に追っていく.

 

これとは対照的に,質的研究では,作業の進行は直線よりは循環型に近い.

 

つまり質的研究者は,絶えずデータを検証し解釈するとともに,すでに発見されていることに基づいて,どのように進めていくかについての決定を下している.

 

質的研究者は,データの収集と分析について柔軟なアプローチをとるため,活動の流れを厳密に定めることはできない.

 

研究によって流れが異なり,研究者自身も,研究がどのように進行していくのか,前もって正確にはわからない.

 

いくつかの主な活動について学習し,それらの活動が,いつどのように遂行されるかを示すことによって,質的研究をいかに行うかについて全体的な輪郭をつかむことが重要である.

 

質的研究の概念化と計画

 

量的研究者と同様に,質的研究者は通常,研究対象となる広範なトピック領域から着手する.

 

しかし,質的研究者は通常,まだ十分理解されず,あまり知られていないトピックの側面に注目する.

 

そのため,彼らはフィールド調査に入る前に仮説を立てたり,高度に洗練された研究設問を提起することはない.

 

一般的なトピック領域は,自己省察や同僚(またはクライエント)との話しあいに基づいて,範囲が限定されたり明確になることもある.

 

しかし,研究者は,きわめて広い研究設問を掲げ,いったん研究に着手してから,問題の焦点がはっきりとして明確に浮かび上がるようにさせている(量的研究が幅広く行われたものの,質的な関心がはらわれてなかったトピックに,質的研究者が注目することもある).

 

 

文献レビューの実施

 

研究の最初に文献レビューを行うことに関して,質的研究者のあいだでは,見解が異なっている.

 

一方を代表する考えは,研究者は,データを収集する前に,いっさい文献を調べるべきではないというものである.

 

彼らが懸念するのは,研究者が研究中の現象を概念化する際に,先行研究や臨床的な記述が影響を及ぼすかもしれないということである.

 

この見解に従えば,現象は,先行して得られた情報よりも,参加者の視点に基づいて解明されるべきである.

 

こうした見解をもつ研究者は,研究のはじめではなく終わった時点で,文献レビューを行うことが多い.

 

他方を代表する考えは,研究者は少なくともある種の手引き(トピックを研究する際に生じたある種の偏りをみきわめる手引きなど)を得るために,少なくとも文献レビューを先行するべきであるというものである.

 

依然,研究前の完全な文献レビューが必要だと信じている研究者もいる.

 

どの場合においても,質的研究者は掲げる問いの種類上,意味ある先行研究の数が比較的少ないことに気づく.

 

研究の場の選択と入場許可

 

計画を通じて,質的研究者は,研究中のトピックにふさわしい場を選ばなければならない.

 

たとえば,トピックが,都市に住む貧困層がもつヘルスケアの信条であれば,低所得層が高率を占める市内の近隣区域を特定するだろう.

 

こうした決定をする際に,研究者は,研究を行うのに最適で,多くの情報が存在している環境を特定するために,予備的なフィールドワーク(およびいくつかの臨床フィールドワーク)を行う必要がある.

 

質的研究者にとって理想的な場とは,

 

@入ることが可能である,

 

A研究設問にかかわる人々,相互行動,状況が多岐にわたる,

 

B研究者が研究参加者に対して適切な役割をとり,維持できる場である.フィールドに入る前に,場(およびそのなかでデータを収集する環境)が適切かを評価することが重要である.

 

研究に選んだ場に入る手段を,研究者がすでにもっている場合がある.

 

しかし,また一方で,選んだ場や環境への入場許可を得る(gain entree)必要が生じることもある.

 

ある場が研究の必要によく合うとしても,研究者がそこに「入れ」なければ,研究は進められない.

 

入場許可を得るには,たいてい,その世界への入場を許可する権限をもつゲートキーパー(gatekeeper ; 監視役)と交渉することになる.

 

入場許可を得るには,対人関係能力に優れ,その場の習慣や言語に通じている必要がある.

 

さらに,入場許可を得やすい方略がある.

 

たとえば,ゲートキーパーや当該の場所に直接に利益がもたらされる場合や,大きな人類愛的目標が達成される場合には,ゲートキーパーは協力に応じやすいだろう.

 

研究者もゲートキーパーの信用を得る必要がある.

 

研究者は,相手に対して感じがよく,説得力があり,研究の要件(例:フィールドワークに必要な期間がどのくらいか,など)を正直に伝える.

 

ゲートキーパーの信用を得るのにもっとも重要なのは,研究者が,その場の人々の状態に対して抱いている関心が,本物であると相手に表明することである.

 

質的研究では,入場許可を得る過程は,候補となる情報提供者をはじめ,その場のゲートキーパーや人々との関係や親密さを築いていく過程そのものであることが多い.

 

 

質的研究における研究デザイン

 

すでにみてきたように,量的研究者は,研究デザインが仕上がるまで,いっさいデータ収集には着手しない.

 

これに対して,質的研究では,研究デザインは創発的デザイン(emergent design)をとることが多く,デザインの輪郭が,データ収集の過程で明らかになってくる.

 

研究者が取り組んでいる質的研究の伝統のタイプによって,研究デザインの特徴も決まる.

 

しかし,質的研究では,フィールドにいるあいだの変更を許さないような,厳格に構造化されたデザインをもっものはほとんどない.

 

前述したように,質的研究では外生変数をコントロールしない.

 

現象の全文脈が,現象を体験している人々の生活において,現象がどのような役割を果たしているかを理解するための重要な因子であると考えられる.

 

質的研究者は,常に,フィールドでの研究がどう進んでいくかを前もって正確に知っているわけではないが,研究者はフィールドワークにどれくらいの時間をかけられるかを,ある程度,意識するとともに,テープレコーダーやビデオ機器といった,必要になるかもしれない備品を用意しテストしておく必要がある.

 

計画段階で必要な活動には,ほかに,データ収集を助ける面接者を雇い訓練する,情報提供者の言語が研究者と違う場合は通訳を用意する,適切なコンサルタント,筆記原稿に書き起こす人,その他のサポートスタッフを雇うことなどがある.

 

倫理的問題への取り組み

 

質的研究者は,量的研究者と同じく,倫理的な問題に取り組む計画を立てなくてはならない.

 

通常,研究者と研究参加者とのあいだに,より親密な関係が築かれるので,事実,質的研究では倫理的問題にとくに関心がはらわれる.

 

質的研究の施行

 

質的研究においては,標本抽出(サンプリング),データ収集,データ分析,解釈といった作業を,通常,繰り返し行う.質的研究者は,研究中の現象を直接に体験している2〜3人の人々と話したり,観察したりすることから始める.

 

話しあいと観察は構造化がゆるく,それゆえに最大限に信念や感情,行動が表現される.

 

分析と解釈を絶え間なく並行して行い,それによって,次にどのような人々を抽出するか,どのような質問を尋ねるか,またどのような観察を行うかを導く.

 

データ分析の実際のプロセスには,ナラティブの情報のなかで関連するものどうしを一貫したスキーマに分類する作業がある.

 

質的データの分析は,集中的で時間を要する作業である.

 

分析と解釈が進むにつれて,研究者は,現象についての豊かな記述や理論を構築する際にもちいる,テーマ(theme)とカテゴリーを特定しはじめる.

 

概念化が進み,精錬されるに従って,収集するデータと選択する参加者の種類がいっそう定まり,研究の意図にかなったものとなる.概念の展開と実証は,標本抽出のプロセスを方向づける.すなわち,概念化や理論が展開するに従って,研究者は,自分の理論的理解を確証し,理解を深めてくれるような参加者だけでなく,研究者の理解に疑問を呈し,さらなる理論的展開へと導いてくれるような参加者をも求めるようになる.

 

量的研究者は,研究に何人の対象を含めるかをあらかじめ決めておくが,質的研究者の標本抽出についての決定は,データ自体によって導かれる.

 

多くの質的研究者は,データ飽和(data saturation)の原理をもちいる.

 

それは,データにおけるテーマとカテゴリーが同じように繰り返し現れて過剰となったときに生じるもので,このとき,さらなるデータ収集によって新たな情報が加えられることはない.

 

量的研究においては,研究者は妥当かつ正確であることがすでに証明されている用具で測定することによって,質の高いデータを収集しようとする.

 

これに対して質的研究者は,フィールドにいるあいだに,データの信憑性(trustworthiness)を証明する方策を講じなければならない.

 

これらの努力の主な特徴は,研究者の認識よりはむしろ,参加者の体験や視点を正確に反映する結果を確証することである.

 

たとえば,1つの確証のための活動は,参加者までさかのぽって,仮の解釈を参加者と共有することである.

 

それによって参加者は,研究者によるテーマ分析が自分たちの体験と一致しているかどうかを評価できる.

 

もう1つの方略は,トライアンギュレーションをもちいて,対象とする現象を徹底的に描写することである.

 

質的研究者がときに取り組むことになる問題は,フィールドを離れるための適切な方略を立てることである.

 

質的研究者は,研究参加者やコミュニティ全体と強い関係を築いている場合がある.

 

したがって,研究者がフィールドから離れることが,参加者を拒んだり見捨てたようにとらえられる可能性があることを,こまやかに意識する必要がある.感謝の気持ちをもってフィールドをあとにすることと,気持ちを整理する方法が重要である.

 

質的研究結果の普及

 

質的看護研究者たちはまた,学会や雑誌論文によって,ほかの人々と研究結果を共有しようと努める.

 

質的研究の結果は,深さと豊かさゆえに,量的研究の結果よりも,1冊の本に相当する原稿量に容易に達する.

 

いつ文献レビューを行うべきかについての立場にかかわらず,質的研究者は,通常,研究のコンテクストを提供する1つの手段として,報告のなかに先行研究の要約を含める.

 

量的報告では,生データ(raw data),つまり,収集されたかたちのままのデータである数値を提示することはほとんどない.

 

これに対し,質的報告は,通常,参加者が述べたとおりの豊かな言葉に満ちている.

 

引用は,研究者の解釈と理論形成を明確にする助けとしたり,説明するための証拠となるようなかたちでもちいる.

 

質的報告での生データの例

 

スキャネルーデッシユ〔Scannell-Desch, 2000〕は,24人のベトナム戦争従軍女性ナースの苦痛と個人的な対処方法を研究した.

 

彼女たちが体験した情緒的苦痛の1つは,患者の若さと負傷の重篤さに直面しなくてはならない,ということだった.

 

研究者は,以下のように従軍ナースの言葉を引用して,これを示している.

 

「私は患者の脚を切断しなくてはなりませんでした.私にとってこれが初めてのことでした.彼の脚は.皮一枚でぶら下がっていました.私はここでは新米で,医師が「そいつを切り離すんだ」と私を怒鳴りました.医師が脚を切断するのであって,ナースはそういうことはしません.彼はまた,「君がやるんだ」と私にわめきました.」

 

量的研究者と同じように,質的看護研究者は,看護実践や今後の研究で,自分たちの研究結果が利用されることを願っている.

 

質的研究の結果は,量的研究者によって検証されるような仮説を立てる根拠であり,研究と臨床の目的に適う測定用具を開発する基盤となることが多い.

 

質的研究は,ナースがある問題または状況を認識したり,考えうる解決法を概念化する助けになる.

 

 

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