消費者物価指数の統計学|【社会経済統計学・統計解析】
消費者物価指数の統計学
総務省統計局が毎月公表している消費者物価指数(Consumer Price Index, CPI)は代表的な価格指数の一つです。
全国の世帯が購入する財、サービスの価格を総合して物価の変動を時系列的に把握しています。
2000年基準指数で採用されている品目は、家計の消費支出の中で重要度が高く(原則として支出総額の1万分の1以上)、価格変動の面で代表性があることに加えて継続的に調査が可能とされる594品目に、持家の帰属家賃4品目を加えた598品目です。
帰属家賃とは、持家の所有者が自分自身に家賃を支払うという仮想的な収入と支出の評価を行うことであり、これを含めた指数と含めない指数の両方が作成されています。
CPIでは一部をヘドニック指数としているほかは基本的にラスパイレス式が採用され、ウェイトには「家計調査」で得られる全世帯の1ヶ月あたり品目別消費支出金額を用いています。
なお、消費支出とはみなされない所得税や社会保障料は除外され、投資とみなされる土地・住宅などの財産収入も対象とされません。
指数の基準時点は5年ごとに変更されます。
そのため、新製品が指数に採用されるまでに時間がかかることがあります。
たとえばパソコンは2000年基準で初めて独立したもので、それまでは「ワープロ」に含まれていました。
2000年基準の指数からは、十分な理由がある場合には基準時点の変更を待たずに採用品目の見直しを実施することになり、パソコン用プリンタとインターネット接続料は2003年から追加されました。
価格のデータは小売物価統計調査によって得られています。
これは全国の167市町村で毎月実施され、実際に販売されている平常の小売価格を調査しているものであり、とくに生鮮食品などについては月に3回の調査が行われます。
価格は各市町村の代表的な店舗で調査されますが、銘柄指定とよばれる工夫がなされていて、即席めんではカップヌードル、小麦粉では日清フラワーなどと指定されています。
月ごとに品質の違う製品を調べるのでは価格変動を正確に評価できないため、一定の銘柄を指定して調査することが重要です。
指定した銘柄が全国的に得られない場合でも、各市町村ごとに出回りの多い銘柄を定めて継続的に調査します。
こうして時系列的な変化を安定して把握することができますが、それでもなお、外食や理容・美容などのサービスのように銘柄を定めることが困難で、時系列的にも完全に品質を管理することが難しい品目もあります。
CPIは生活と密接に結びついていますので、消費者の実感との格差が話題になることがあります。
1970年代の石油危機の頃には、政府の公表するCPIは実感より低すぎる」という指摘がありました。
消費者の実感は生活水準の向上分を含んだ支出金額によって形成されており、消費者は価格水準の変化と生活水準の変化を明確に分離せずに物価変動を認識する傾向があります。
価格指数の意味からは、より高級な財・サービスを購入するようになった世帯の生計費が上昇しても、それはCPIには反映すべきではありません。
実際には、1970年から1975年にかけてCPIは130.4に上昇したのに対して、パーシェ指数は126.0とやや小さいものの、その差は年率1ポイント以下であり、当時のCPIはほぼ現実の物価変動を把握していたといえます。
逆に最近の景気後退期では、ラスパイレス式によるCPIは過大という指摘があります。
これは理論的には正しいですが、誤解も少なくありません。
たとえば消費者が安価な背広服を購入するようになり被服費が下落したことだけを見て物価水準が低下したという主張は、不況による生活水準の下落と価格水準の変化を混同したものであり、石油危機の時代と同じように価格以外の要因で実感の形成が行われていることを示しています。
コンピューターをヘドニック指数で評価する
2000年基準CPIで採用されているパソコンの価格指数は、家電量販店のPOSデータから数百機種の価格と数量を収集し、回帰分析(ヘドニック法)で計算されています。
その基本的な考え方は図に示すとおりであり、連続する2ヶ月のデータを用いて、記憶容量などPC(パーソナルコンピューター)の性能を決定する特性xによって実勢価格を説明できるような回帰式が求められます。
この図の平行する回帰直線の差が物価上昇(下落)に対応します。
図のようにPCの価格下落は急激ですが、その相当部分は実売価格の下落ではなく、性能の向上によります。
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