臨床試験データベースの特徴|【医療統計学・統計解析】
臨床試験データベースの特徴
臨床試験データは,一症例分であっても非常に複雑な構造を持っており,複数の症例データが蓄積される一つの臨床試験においては膨大なデータ量となる.
現在のコンピュータ技術を考えた場合には,このような臨床試験データをコンピュータに保存しようとすれば,何らかのデータベースを利用して効率的な管理を行うことが妥当である.
実際,大規模なデータを保管するためのデータベースを利用したコンピュータシステムは多い.
しかしながら,臨床試験データベースには次に述べるようないくつかの特徴があり,データペースを利用する際には工夫が必要である.
(1)臨床試験データ構造の多様性
臨床試験データの構造にはいくつかの種類が存在する.
そして,それらをまとめて集計・解析することにより,初めて一つの臨床試験データペースとしての意味を持つ.
(2)臨床試験の多重性
薬効評価に必要となる臨床試験は一つではない.
組織というレベルで考えれば,ある一定期間に複数の臨床試験を実施するのが一般的である.
このため,データベースとしては全臨床試験をカバーできることが前提であるが,実際にはサブシステムのように臨床試験ごとに完結したデータベースを構築する必要がある.
(3)臨床試験ごとに仕様が異なる
臨床試験ごとのサブシステムにおいては,臨床試験を実施する疾患領域により観察すべき項目が異なる.
このため,症例報告書も様々な種類のものが存在する.
たとえば,抗生剤ならば菌に関する観察項目が含まれ,抗癌剤ならば腫瘍部位に関する観察項目が含まれるというように変化する.
実際には,同一の薬剤に関するものであっても,臨床試験のフェーズや目的によって観察項目などが変わることがある.
その結果,各臨床試験のデータベースにおいては仕様,すなわち必要となるテーブルやフィールドが異なることになる.
(4)メンテナンスが頻繁に必要
臨床試験ごとに完結したデータベースが必要となるということは,入力画面の生成やコード定義などもその都度,行う必要があるということである.
さらに臨床試験においては,全ての発生する臨床データを事前に予測しておくことが困難なことが多い.
このため,コードなどについては追加や変更が発生することは避けられず,場合によってはフィールドの追加・変更というようなことも必要となる.
このように一度作成されたデータベースであってもメンテナンスが頻繁に必要となる.
また,一般的には,一つの臨床試験は長くても数年以内で完了する.
そして,一つの臨床試験でしかそのデータベースは利用しない.
多くの薬剤やプロトコルを管理しようとすればするほど,手間が増える割には,その使用期間は短い.
すなわち,臨床試験データ管理システムとして本当に必要なことは,単に臨床試験データがコンピュータ上でデータベース化されていればよいということではなく,臨床試験ごとのデータベースを適切に管理し,統合できるコンピュータシステムになっている必要があるということである.
通常のデータベースアプリケーションでは,分野が異なるデータについてサブシステムという構成を持つことはあっても同一分野内においてはデータ構造を一定化させるのが普通であり,データの構造が一つの臨床試験ごとに変化するという状況に対応するためには特別なアイデアが必要となる。
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