現象学的研究における標本抽出法|【統計学・統計解析講義応用】
現象学的研究における標本抽出法
現象学者は,概して10名以下の参加者によるかなり小さな標本を頼りにする傾向にある.
現象学的研究のための標本を選ぶ際に,1つの指針となる原則がある.
それは,すべての参加者は研究する現象を経験しており,その生きられた経験がどのようなものかを明確に表現できなくてはならない,ということである.
現象学者は基準標本抽出法をもちい,その基準とは,研究する現象を経験していること,といえよう.
現象学的研究者は,標的となる経験をした参加者を探す一方で,個人の経験の多様性をも探索しようとする.
したがって,ポーターが述べたように,現象学的研究者たちがとくに求めるのは,ある共通体験をもちつつ,人口学的に,またはその他の違いをもつ人々であろう.
現象学的研究における標本の例
オルン,フィツシュマン,マンガ,パグノッティは,「医療保険をもたない労働者である」という生きられた経験(lived experience)を研究した.
有意抽出によって,健康保険をもたない12名の労働者を標本とした,参加者の性別,職業,所得はさまざまであった.
グラウンデッド・セオリー研究における標本抽出法
概して,クラウンデッド・セオリー研究は,理論的サンプリングによる約20〜30名の標本で行う.
クラウンデッド・セオリー研究の最終目標は,理論の展開にもっとも役立つ情報提供者を選ぶことである.
標本抽出,データ収集,データ分析,そして理論構築が同時に行われ,研究参加者は逐次,偶然に選ばれる(つまり,現れてくる概念化に左右される).
標本抽出は,以下のように展開する一般概念から始める.
最初のいくつかの事例を,標本抽出法によって,有意に勧誘することもあろう.
研究する現象の範囲と複雑さについての洞察を得るため,研究の初期に,最人多様性抽出のような方略を使うこともあろう.
標本は,進め方に応じる.概念化が生じてくると,標本抽出プロセスを焦点化できる.
標本抽出は,飽和に到達するまで続く.
最終的な標本抽出では,理論を検証し,粘錬し,強化するために,劭認事例と非確認事例を探すことが多い.
クラウンデッド・セオリー研究における標本抽出の例
パターソンとゾーンは,1型糖尿病を長期間患っている人々が,予想外の血糖値レベルに関する決定をどう下すのかを研究した.
最初の参加者を選ぶときには,セルフケアの意思決定に影響するものとわかっている属性(例:同居)に関して,その多様性を確認した.
次に,理論の展開に関連する概念に基づいて,参加者を募集した.全部で22名の糖尿病患者が,研究に参加した.
量的研究の例
ホラントとカルースは,電話調査を行って,破傷風に罹患する危険がある作業に携わる農場の女性のリスクファクターを調べ,破傷風の予防接種に関する状況を研究した.
研究者は,最初に有意抽出法をもちいて,南東ルイジアナにあるで10郡を選んだ.
郡は,農業と地理的多様性を反映するように選んだ.
研究者は,これら10郡の4804名の農場主という標本忰(ルイジアナ州立大学農業センターおよび農場サービス局に保管されたリスト)に接触した.
次に,各部で,農場上の無作為標本を抽出した.
標本となった農場主の世帯に,適性基準を満たす女性が住んでいるかどうかを調べた.
適性基準を満たす女性とは,18歳以上で農場経営に参加している家族成員であった.
世帯に,こうした女性が2名以上いる場合は,農業にもっともかかわっている女性に研究参加をすすめた.
適性基準を満たす標本メンバーがいると判断された657名の女性と面接し,適性であるとわかった農場での回答数は57.6%であった.
偏りを評価する分析をしたかどうかは報告に書かれていなかった.
しかし,こうした偏りは,そのような分析の欠如を意味しているわけではない.
結果,女性の58%だけが,この10年間で破傷風の追加免疫を受けていたことがわかった.
高齢の女性が予防接種を二度受ける率は,中年女性よりもはるかに低かった.
質的研究の例
リルストンとハッチソンは,クラウンデッド・セオリー研究を行い,潜在的にストレスの多い妊婦の親の体験と感情を検証した.
親は,妊娠で胎児に先人異常があったために中絶を決断した.
最初の標本は北東フロリダの都市コミュニティで得た.
産科医と生殖内分泌医をとおして,親を募集した.
その地域で得られた親はわずか1名だったので,研究者らは,インターネットの支援ネットワークをとおして追加参加名を求め,その結果,18名の親が加わった.
標本抽出は8か月間続いた.
全標本は,企国から募った13名の女性と9名のパートナーからなり,2名の地域医療従事者も加わった.
20名の面接ののち,研究者は,データの飽和に達したと感じた.
研究者が開発しているクラウンデッド・セオリーの妥当性を査定するために,2名の追加女性と2名の医療従事者(ナースと医師)に電話面接もしくは個人面接をした.
研究に参加した親たちは,妊娠中絶を選ばざるをえないような,妊娠にともなうさまざまな診断に直面したのだった.
それらは,ダウン症,二分脊椎,トリソミー18,両側性腎無形成,プラグ一ウィリ症候群,常染色体劣性多嚢胞性腎などの多様な診断であった.
それらの標本は,こうした状況に直面しているすべての親を代表していないと,研究者は判断した.
この標本の親は,社会経済的状況が平均以上で,24歳以上,高学歴であった.
こうした偏りは,インターネットは,より裕福でよりよい教育を受けた家族のほうが利用する,という事実と一致している.
データ分析からわかったのは,これらの親が対処せざるをえない基本的な問題は,精神的苦悩が再燃することであった.
親たちは,こうした精神的苦悩に対処するために,情緒的な鎧をつくり,過去と現在の妊娠の双方を他者に表明せず,赤ちゃんへのアタッチメントを遅らせ,しだいに医療従事者に愛着を抱くようになった.
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