標準偏差と標準誤差の使い分け|【統計学・統計解析講義応用】
論文における標準偏差と標準誤差の使い分け
論文で標準偏差と標準誤差の使われている割合を比較すると、毒性関係の論文では標準偏差、薬理関係の論文では標準誤差が多く使われる傾向があります。
薬理実験では基本的には薬物の平均的な効果を推定することが重要な目的になります。
もちろん平均的には反応が動かずに、少数の個体の反応にのみ影響を与えるような、薬効も考えられなくはないですが、このような薬剤は存在しても使いにくいはずです。
理想的な薬剤は、どの個体でも同じように変化する、すなわち平均的にシフトするのが望ましいといえます。
降圧薬を例にとれば、薬物を投与することによって、血圧が平均的にどれくらいの値になるかが薬理実験における興味の対象です。
しかしデータはばらつきを伴うため、平均値がどの程度信用がおけるかを示す必要があり、この目的のために使われるのが標準誤差です。
これに対し毒性試験ではどうでしょうか。もちろん平均的な効果の大きさの推定にも興味はおかれますが、生データのバラツキの大きさ自体にも重要な関心があるはずです。
例え平均値は変化していなくても、ある用量でバラツキが大ききなっていれば、それは毒性の発言を示唆しているのかもしれません。
このように、相対的には、毒性試験では平均値の推定精度そのものよりも、生データのバラツキに強い関心が注がれます。
したがって、平均値の推定精度に興味がある薬理系の実験では標準誤差、生データのバラツキに興味がある毒性系の実験では標準偏差が好まれる傾向があります。
標準偏差と標準誤差を使い分ける場合、生データのバラツキを表現したいのか、平均値の推定精度を表したいのかを先ず考える必要があります。
前者であれば標準偏差、後者であれば標準誤差を用いる必要があります。
特に複数群の平均値間の有意差検定の結果を、一緒に表記する場合には、平均値の信頼制度を示すために、SEを表記する必要があります。
また、標準誤差は標準偏差より必ず小さくなるので、見栄えは標準誤差の方がよくなり、これが標準誤差が好んで使われる理由の一つになっていますが、見栄えではなく目的によって、使い分けることが大切です。
サンプルサイズとの関係
標準偏差は生データのバラツキを表しますので、サンプルサイズ(N)を変えても本質的に値は変わりません。
これに対し、標準誤差はNを大きくすればいくらでも推定精度は高くなりますから小さくなります。
標準誤差はNに依存した尺度ですので、使用する場合にはNがいくつであるか明記する必要があります。
分布に対する仮定
標準偏差と標準誤差では分布の仮定に対する条件が異なります。
標準偏差が生データのバラツキを表す尺度として適切であるのは、分布が正規分布に近いときに限定されます。
外れ値を含んでいるような場合には、標準偏差ではなく%点を示す必要があります。
これに対しサンプルサイズNがある程度大きくなれば、中心極限定理によって平均値の分布は正規分布になりますので、標準誤差はNが大きくなれば、分布形によらず平均値の推定精度を表す適切な指標になります。
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