医療検査における基準率の誤り|【統計学・統計解析講義応用】
医療検査における基準率の誤り
乳ガンのスクリーニングにマンモグラフィーを用いることについての論争が続いている。
偽陽性の結果が不必要な生検・手術・化学療法をもたらしてしまうので,この脅威がガンの早期発見の利益を上回ると主張する人がいる。
医師団体や米国予防医学作業部会(United States Preventive Services Task Force)のような規制機関は,近年,50歳未満の女性に対して定期的なマンモグラフィーを推奨するのをやめた。
これは統計に関する問題だ。
この問題に答えるための最初の一歩は,「マンモグラフィーで乳ガンの兆候を見つけたとき,それが本当に乳ガンである確率がどれだけか」という比較的分かりやすい質問をすることだ。
この確率があまりにも低ければ,陽性の結果のほとんどが正しくないことになり,大量の時間と労力が無益なことに費やされることになる。
マンモグラフィーを受ける女性のうち, 0.8%が乳ガンにかかっているとしよう。
こうした乳ガンの女性のうち,90%がマンモグラフィーで正確に検出できるものとする(90%というのはこの検査の検定力に相当する。
ただし,そこにガンがあると分からなければ,どれだけのガンが見逃されているかを知るのが難しいという点で,これは推定量に過ぎない)。
しかし,まったく乳ガンにかかっていない女性の約7%がマンモグラフィーで陽性と判断されてしまう(これはp<0.07という有意水準を設定していることに相当する)。
このとき,マンモグラフィーで陽性の結果が出た場合,乳ガンにかかっている確率はどれぐらいだろうか?
検査対象者が男性である可能性を無視すれば,この答えは9%になる。
これはどう算出されたのだろうか。
ランダムに選ばれた1000人の女性がマンモグラフィーを受けることにしたとしよう。
平均的に言えば,スクリーニングを受ける女性の0.8%が乳ガンにかかっているのだから。
この研究では約8人の女性が乳ガンにかかっているはずだ。
マンモグラフィーは乳ガン患者の90%を正確に検出するので,8人のうち約7人のガンが見つかることになる。
ただし,乳ガンにかかっていない女性が992人いて,そのうち7%がマンモグラフィーでの判断で偽陽性となる。
つまり,70人の女性が誤ってガンだと告知されることになるのだ。
合計すると77人の女性がマンモグラフィーで陽性となるが,そのうち実際に乳ガンにかかっているのは7人しかいない。
マンモグラフィーで陽性だった女性のうち,9%しか乳ガンにかかっていないのだ。
医者であってもこのことについて誤解している。
医者に聞けば,そのうち3分の2が, p<0.05という結果は95%の確率でその結果が正しいということを意味しているという誤った結論を下すことだろう。
しかし,今までの例から分かるように,マンモグラフィーで陽性になることがガンであることを表す可能性は,実際に乳ガンにかかっている女性の比率に左右される。
そして,とても幸運なことに,どんなときでもほんのわずかな割合の女性しか乳ガンにかかっていないのだ。
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