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体温測定の統計学

３８℃に近い器官も

｢体温｣は人間が生きていることの状態を示す徴候(しるし)、いわゆる｢バイタル・サイン｣の一つである。

体温とは体内の温度を示すが、まず恒温動物といえども全身が一様の温度を保つのではない。

たとえば脳、肝臓、腎臓および消化器官は常に働いているため代謝が高く、熱産生(熱が作り出されること)が多いわりには放熱手段がなく、38度に近い高温を示す。

また筋肉、皮膚などは熱産生量も少なく、運動で代謝が促進しても熱放散が容易なために比較的低温を示す。

体温調節の視点からアショフ(Aschoff)は心(core)と核(shell)に分けて考え、心を身体の深部で最高の温度を保つ部分とし、核はこれを包み、内部から皮膚而に向けて環境条件の中で変動する部分とした。

身体の内部の高温層を約2 cmの厚さの低温層で包んでいることになる。

体熱の産生は、摂取した食物の３大栄養素が代謝され、臓器組織のエネルギー産生に伴い熱を発する。

発生したエネルギーの2/3〜3/4は熱に変換されて体温の維持にあてられる。

熱産生に関与する因子は基礎代謝、筋肉運動、甲状腺ホルモンの作用、アドレナリンの作用、体温そのものの作用がある。

体温を測る

生体内部の熱産生の結果はすべて血液に循環を通して全身に送られるので、大動脈出口の血温を基本的な体温と考えられる。

実際には直腸温、口腔温、腋窩温(わきの下)、鼓膜温が測定される。

正常体温の幅には日中の直腸温では36.2〜37.6度くらいあり、度数分布のピークが36.9度というデュボア(du Bois)の25年にわたる報告がある。

また日本における健康男女を対象に30分間腋窩検温を測定している田坂らは35.2〜37.9での範囲で平均36.89±0.342を報告し、男女人種による差はあまりないとされる。

小児期の体温は成人より高いとされるが、最近は低下傾向にあり、1936〜1980年までにおいて1966年までの平均腋窩温は36.9〜37.5度、1980年では36.3〜36.7度との報告もある。

体温の測定部位による差異は、

　　　　直腸温＞鼓膜温≧口腔温＞腋窩温

である。

直腸温は口腔温より0.4〜0.6度高く、腋窩温より0.8〜0.9度高い。

口腔温は腋窩温より臥床時では0.2〜0.3度、椅坐時では0.3〜0.5度高いとされる。

測定値への影響

体温の測定値に影響を及ぼす要因には、�@体温そのものによる要因、�A体温計による要因、�B測定に関わる要因がある。

体温そのものには、日周リズム、性ホルモン、年齢、体温調節中枢の機能障害、各疾患による発熱、などがあり、対象の個人差や測定時の身体の状態に関連している。

また、体温計による要因はその種類と誤差の範囲、使用方法に関連し、その測定具としての体温計の特徴を理解している必要がある。

しかし、どんな精密な計器でも測定の仕方が曖昧であれば正確な数値は得られない。

腋窩温の測定では腋窩の最深部前方に感温部が当たるように、対軸に対して45度の角度で測定する。

腋窩を閉じて10分以上が目安とされる(20分以上たたないと平衡温に達しないという報告もある)。

電子体温計は予測の測定値なので、汗があると水銀計より低い数値になるともいわれる。

口腔温は５分間測定するとばらつきが少ないとされ、腋窩10分値との間の高い相関関係から舌下５分値が用いられている。

鼓膜温の測定においては、成人はＳ状に外耳道が屈曲するので耳介を後方に軽く引き上げ、鼓膜から出る赤外線をプローブの赤外線センサーが感知できるように向けるとされる。

しかしプローブの表面温が測定値に影響を及ぼすともわれているので外耳道に密着させるような測定手技もあり、鼓膜温計の器機の構造によって手技を確認する必要がある。

進んだ研究

体温の連続測定には熱電対やサーミスタを用いた温度計や赤外線によるサーモグラフィなどがある。

体温の連続測定によって行助観察などによる負荷刺激との対応を含めて変動因子となる刺激について検討が可能となる。

労働衛生管理の上で問題となるいわゆる｢VDT作業｣(ビデオ・ディスプレー・ターミナル作業)に従事する作業者のフリッカー値(刺激に対する反応かつ疲労を測る検査値)と鼻部表面温に高い相関関係が認められ、作業開始後５分後に鼻部の皮膚温が２℃低下した報告は、このような例である。

体温測定はバイタル・サインの一つとして容易に測定できるが、新しい測定器機の開発とともに、その原理と使用方法の習熟は不可欠である。