外部審査と人権擁護|【統計学・統計解析講義応用】
外部審査と人権擁護
研究者は,リスク/利益比を査定したり,参加者の権利を守る手順を進めているとき,客観的ではいられなくなることもある.
知識分野に対する責任や,できるかぎり厳密に研究を行いたいという要望から,偏りが生じることもあるであろう.
評価が偏る危険性があるため,通常は,研究の倫理面について,外部の審査を受けるべきである.
研究を実施する病院,大学,その他の施設の大部分は,正式な委員会やプロトコルを確立し,研究の実施前に,研究計画案を審査している.
これらの委員会を,「研究対象者委員会「human subjects committee)」,「倫理諮問委員会(ethical advisory board)」,または「研究倫理委員会(research advisory panel)」ということもある.
施設が,米国政府から助成を受けて研究費を支援する場合,委員会を施設内審査委員会(institutional review board:IRB)というのがもっとも多いと思われる.
施設内部で,または施設の支援を受けて研究する場合(対象者の募集の補助など),倫理的問題に関して,その施設がどのような書式や手順,審査スケジュールを要件としているのかを,早い段階で把握しなくてはならない.
連邦政府の助成研究(研究奨励金を含む)は,研究参加者の処遇について評価するための厳しいガイドラインの遵守が条件となる.
そうした研究に着手する前に,研究者は,研究計画をIRBに提出し,正式なIRBの訓練過程を経なければならない.
IRBの義務は,計画案が,倫理的研究に対する連邦政府の要件に合うことを保障することである.
IRBは,計画案を承認したり,修正を求めたり,または計画を不可とすることができる.
IRBの決定を左右する主な要件は,以下のように要約できる(連邦規則, 1991年,§46.111).
・参加者へのリスクを,最小限に抑える.
・参加者へのリスクは,予想される利益があれば,それとの関連において妥当であり,また,結果として当然期待できる知識の重要性との関連において,妥当である.
・参加者の選択は,公正である.
・要求に応じ,インフォームド・コンセントを求められる.
・インフォームド・コンセントは,適切に文書で証明される.
・適切な規定を設け,研究を監視して参加者の安全を保証する.
・適切な規定を設け,参加者のプライバシーとデータの守秘義務を保護する.
・傷つきやすい立場の対象者がかかわる場合,適切な補助的保護手段を盛り込み,彼らの権利と福利を守る.
IRBによる承認の例
ジョーンズ,ボンド,ガードナー,ヘルナンデス〔Jones, Bond, Gardner, & Hernandez, 2002〕は,ヒスパニックの移民女性の家族計画のパターンを,米国文化への変容との関連で研究した.
研究者らは,大学と医療センターの双方のIRBに研究の承認を求め,獲得した,
研究プロジェクトの多くは, IRBによる完全審査(全委員審査)を必要とする.
完全審査のために, IRBは会合を召集し,会合にはIRB委員の大部分が出席する.
IRBは,5名以上の委員で構成し,そのうち少なくとも1名は研究者ではないこと(例:聖職者または弁護士が適切であろう)が必要である.
また,1名は施設に密接な関係がなく,かつ施設に密接な関係がある人の家族ではないことが求められる.
偏りが生じないように,IRBは男性のみ,女性のみ,または単一の職業人のみで構成してはならない.
対象者に最小限のリスクしか及ぼさないある種の研究では, IRBは,能率的(略式)審査手順をもちいることができ,会合を召集する必要がない.
能率的審査(expedited review ; 略式審査)は, IRBの委員1名(通例は, IRBの議長,または議長に指名された委員)が審査を行う.
最小限のリスクであると考えられる場合,能率的IRB審査の基準を満たす研究活動の例には,以下のようなものがある.
@110ポンド以上の体重の,健康で妊娠していない成人から,8週間のあいだに550 mL以下の血液サンプルを採る,
A個人またはグループの特性もしくは行動の研究,また「調査,面接,フォーカス・グループ,プログラム評価,人的要因評価,もしくは品質保証方法論をもちいる研究」(連邦規則で引用されている連邦官報, 1991年,§46.110).
連邦規則は,ある種の研究をIRBの審査から完全に免除することも認めている.
それに該当するのが,参加者に明らかなリスクがない研究である.
Office of Human Research Protections (人間研究保護局)のウェブサイトには,その政策方針の箇所で,研究について,連邦規則の免除の可否を明らかにするようデザインされた判断図式が示されている.
すべての研究が,連邦政府ガイドラインを条件とするわけではなく,したがって,すべての研究が,公式委員会の審査を受けるわけではない.
それでもなお,研究者は,研究計画が倫理的に妥当であることを確実しなければならないし,研究が進行する前に,研究の倫理面について外部の助言を求めることが望ましい.
助言者には,大学の教員,聖職者,研究への参加を求められるグループの代表,またはそのグループの擁護者などがあげられるだろう.
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