メガトライアルの統計学【統計解析講義基礎】

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メガトライアルの統計学|【統計学・統計解析講義基礎】

メガトライアルの統計学【統計解析講義基礎】


目次  メガトライアルの統計学【統計解析講義基礎】

 

 

メガトライアル(mega-trial)

 

より良い治療法というのは、基本的には臨床試験を行わずには生まれてこないといわれている。

 

臨床試験」とは、いうまでもなく、新規的な治療法を患者に適用して、その効果を検証するために実験的に行われる臨床研究の種類である。

 

トライアル」というのは、英語では裁判のことを指すこともあるし、予行演習などを指すこともあるが、医療の世界でトライアルというと、この臨床試験のことを指すことが多い。

 

ついでになるが、臨床試験を専門にする統計家のことを、欧米ではClinical Frialist (臨床試験専門家)と呼ぶことがある。

 

「メガ」とは1000人

 

臨床試験であるトライアルの前に、「メガ」という言葉が付いている。

 

メガというのは大きいという意味なので、大きな臨床試験のことである。

 

すなわち、多数の患者を対象としたような臨床試験のことである。

 

コンピュータをやっている人は、このメガという言葉に親しみを覚えるだろう。

 

私のパソコンのメモリーは512MB (メガバイト)などと言う。

 

そのときのメガとはキロの千倍という単位であった。

 

これに準拠して、千例以上の患者を対象にしたときにメガトライアル(大規模臨床試験)とよぶのが通常のようである。

 

この「メガトライアル」が流行し始めたのは、米国のNIH(日本では厚生労働省に当たる)が生活習慣病に対して臨床試験を行うようになった1970年代からであろう。

 

その前からがんの臨床試験はたくさんあった。

 

そこではせいぜい数百例であり、その規模で有意義な結果が十分出てきた。

 

しかし、生活習慣病になると数百例では思うような結果が得られないことがわかった。

 

それはなぜかというと、生活習慣病では死亡例ががん患者と違ってきわめて少ない

 

死亡例がきわめて少ないと、いうまでもなく研究の検出力(感度)が低くなる

 

やさしくいうと、いくら400例 (1群200例ずつ)の比較試験を行っても死亡例が全体で4例しか起こらないとすると、4例が一方の群にすべて起こったとしても、統計学的には有意な差として検出できない。

 

死亡例がもっと多く生じる土俵で勝負しないと結論が出ないのである。

 

それではどうしたらよいかと考えると、症例数を増やすしかない

 

400例の代わりに4,000例を対象とすると、死亡例は全体として40例起こると予想される。

 

こうなれば、40例すべてが一方の群に生じるようなことではなく、30例が一方の群に生じるくらいの偏り(もう一方は10例死亡)が生じたら、統計学的に有意な差が検出できる。

 

このように、稀な事象を扱うような臨床試験を行うようになると、問題に決着を付けるためには大規模臨床試験、すなわちメガトライアルをするしかない。

 

どうして多数例必要となるか、数値を用いて説明してみよう(表参照)。

 

メガトライアルの統計学【統計解析講義基礎】

 

どちらも20%死亡減少効果があると仮定する。

 

通常では10%死亡例が起こるのが、相対的に20%減少させるということは、その治療により8%にまで死亡例を減少させることになる。

 

ほんとうに差があるとき、これが有意な結果として正しく検出できる可能性を80%とすると(これを「検出力」という)、1群3,213例必要と算出される。

 

一方、通常では1%しか死亡例が起こらない状況を考えてみよう。

 

そうすると、20%減少だから0.8%となる。

 

ここで同様に検出力80%とすると、1群35,001例必要と算出される。

 

このように、死亡率が10分の1の状況下では症例数が約10倍も必要になることがわかる。

 

検出力が50% (つまりその通りになれば有意となる状況)としても、前者では1,574例、後者では17,131例と約10倍異なる。

 

 

救う人を1人増やすのに(NNT)

 

しかし、このメガトライアルの結果を解釈する段階では、ある程度の注意も必要である。

 

症例数が多くなると、当然ながら統計学的には有意となりやすい。

 

しかし、その結果の大きさに注意する必要がある

 

2,000例中死亡例が30例(つまり死亡率1.5%)の状況と、2,000例中死亡例が10例(死亡率が0.5%)という状況を対比する。

 

後者のほうが前者よりも相対的に33%死亡率を減少するといえる(0.5÷1.5 = 0.33から)。

 

しかし、絶対差でみると1%の死亡率を減少する結果(1.5-0.5から)にしかすぎない。

 

すなわち、100人治療して、その中の1人を余計に救うという程度の治療効果である。

 

この100人のことを臨床疫学ではNNT (Number Needed to Treat)と読んでいる。

 

いうまでもなく、このNNTが小さい治療ほど効果的な治療法ということになる。

 

このようにして、メガトライアルの結果は有意性という考え方(具体的にはP値)だけで判断するのでなく、治療効果をNNTなどで判断することが肝要なのである(NTT指標)。

 

逆に、副作用を回避する方の指標として、NNH (Number Needed to Harm)がある。

 

こちらはNNHが小さいほど危険な治療を意味する

 

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