現代の科学者に課せられた要求|【統計学・統計解析講義応用】
現代の科学者に課せられた要求
現代の科学者に課せられた要求は過大だ。
ほとんどの科学者は,急速に進歩する自分の専門分野を完璧に把握することはもちろん,プログラミング(バージョン管理・ユニットテスト・良きソフトウェアエンジニアリング実践を含む),統計グラフの作成,学術論文の執筆,研究グループの管理,学生の指導,データの管理と集積,授業,研究費の応募,他の科学者の業績に対する査読,そして統計技能が得意であることが期待されている。
普通の人は,こうした技能のうち1つを完璧に把握するために職業生活のすべてをささげる。
だが,科学者は,競争に負けないために,こうした技能のすべてが得意であることが求められる。
これは馬鹿げた話だ。米国では大学院の博士課程を5年から7年続けることができるが,それでも,試行錯誤を行う以外に,こうした技能のすべてを教える時間はない.
実験計画と統計分析の課程を1年か2年追加で受けさせることは現実的でないと思われる。
統計学者を除けば,誰にそんなことをする時間があるというのか。
この問題に対する解決策の1つとして,外注がある。
地域の統計学科が提供しているかもしれない統計に関するコンサルティングサービスを利用し,数時間の無料コンサルティングの枠を超えて統計について必要なことがあるのならば,統計学者を共同研究者として引きこもう(多くの統計学者は「オタクのねらいうち」に引っかかりやすい。興味深い問題を示せば,それを解かずにはいられなくなるだろう)。
論文に共著者として名前を連ねることと引き替えに,統計学者は2学期かけて行われる統計の入門授業では得られないような価値ある専門的知識で貢献してくれるだろう。
それでもなおデータ分析を自分で行おうとするのならば,統計のしっかりとした基礎が必要になるだろう。
たとえ統計コンサルタントが言っていることを理解するだけであっても,統計の基礎は必要だ。
応用統計学のしっかりとした授業は,基本的な仮説検定,回帰,検定力の計算,モデル選択,Rのような統計用プログラミング言語を対象範囲とすべきだ。
あるいは,少なくとも,授業でこうした概念が存在することに触れるべきだ。
検定力についての完全な数学的説明はこのようなカリキュラムにはそぐわないかもしれないが,学生は検定力というものの存在を認識すべきだし,必要があるときに検定力の計算を依頼することを知っておくべきだ。
残念なことに,私の見たかぎりでは,どの応用統計学のシラバス(授業実施要綱)においても,こうした話題のすべてを扱うことはできていない。
多くの教科書はこうした話題をほんの簡単にしか触れていない。
誤った自信に注意しよう。
じきに,他人と違って自分の研究では統計に関するへまをやらかさないという自己満足におちいるかもしれない。
だが,この本ではデータ分析に関する数学について綿密な紹介をしたわけではない。
この本で紹介したような単純な概念的な誤りのほかにも,統計でへまをやらかす方法はたくさんある。
通常とは違う実験を計画したり,大規模な試験を実施したり。複雑なデータを分析したりするのなら,始める前に統計学者に相談しよう。
有能な統計学者ならば。擬似反復のような問題を緩和する実験計画を提案することができるし,研究上の課題に応えるための正しいデータ(そして正しい量のデータ)の収集を助けることができる。
多くの人が犯してしまっているように,データを手に持ちながら統計コンサルタントのオフィスにおもむいて「で,これが統計的に有意だということがどう分かるんだい?」と聞くような罪を犯してはならない。
統計学者は研究における協力者であるべきで,マイクロソフトのExcelの代用品であってはならない。
チョコレートやビールを統計学者のところに持っていくなり,あるいは次の論文の共著者にするなりすれば,引き換えに良い助言を得ることができるだろう。
もちろん,自分のデータを分析すること以上にやることはある。
科学者は他の科学者が書いた論文を読むのに大量の時間を費やす。
そして,他の科学者が統計をどれだけしっかり把握しているかは,まったく分からない。
関連記事