研究をとりまく問題|【統計学・統計解析講義応用】
研究をとりまく問題
困ったときにはためらわず,研究文献で報告されている研究を反復しよう.
反復は有意義な学習体験であり,先行研究の結果が裏づけられた場合も,またそれに疑問を呈した場合も,重要な価値がある.
社会問題
トピックは,ヘルスケア業界に関連した,より世界的規模での現代における社会的,政治的な論点によって示唆されることがある.
たとえばフェミニスト運動は,ヘルスケアにおいても研究においても,セクシャルハラスメント,ドメスティックバイオレンス,男女平等のようなトピックについての疑問をもたらした.公民権運動は,少数派(マイノリティ)の健康問題やヘルスケアの入手方法,そして文化的配慮を要する介入についての研究を導いた.
このように,研究のためのアイデアは,社会的関心や論議をよんでいる社会問題をよく知ることから生まれるだろう.
理論
研究問題の4番目の主な源泉は,看護や関連学問領域で開発されてきた理論と概念枠組みである.
看護実践で役立つ理論となるには,病棟,診療所,教室,その他の看護環境にその理論が適用できるかどうかを検証する研究を行わなければならない.
研究者が既存の理論をもとに研究を行うことを決めたなら,その理論から演繹を行うべきである.
本来,研究者は,「この理論が正しいなら,ある状況で,ある条件下で,どんな種類の行動を見つけることができるか」,また,「どのような証拠によってこの理論が支持されるか」を問わなければならない.
この過程から,系統的な調査研究の対象になるような特定の問題が得られるだろう.
外的資源からのアイデア
外的資源が,研究のアイデアの刺激となることもある.ときには,研究トピックがじかに示唆される.
たとえば,教師は学生にトピックのリストを与え,そこから研究すべきトピックを選択させたり,実際に特定のトピックを割り当てもする.
政府機関のように,助成研究を後援する組織は,研究申請として推奨されるトピックが何かを明らかにすることが多い.
研究のアイデアはまた,インターネットのさまざまなウェブサイト上にも記されている。
研究のアイデアは,看護専門職によって確立された優先順位に対する答えを意味することがある.
看護研究の優先順位は,多くの特定の看護実践の積み重ねにより確立されてきたものである.
優先順位のリストは,さらなる研究トピックを探すための有効な出発点となることが多い.
研究のアイデアは,ブレーンストーミングの結果として生まれることが多い.
仲間や助言者,身近な相談相手としての指導者(メンター),さらに技能を備えた研究者と,可能性のある研究トピックについて討論することによって,アイデアが,明快で研ぎすまされた,豊かでより十分に発展したものとなることが多い.
専門的な学会は,しばしばこのような討論のための優れた機会を提供する.
研究問題の作成と精錬
研究問題を,理論や外的資源から得た明らかな示唆に基づいてつくることがないかぎり,研究トピックをつくる実際的な手順を説明するのはむずかしい.
そのプロセスはもともと円滑で順序だったものではないので,おそらく研究問題を陳述する過程は,誤った出発や,インスピレーションや失望が入り交じったものになろう.
以下にいくつかの示唆を述べるが,これらは,この最初のステップを容易にする技術があることを意味するのではなく,むしろ安易な成功が得られなくても忍耐するよう研究初心者を励ますものである.
トピックを選ぶ
研究問題の作成は,想像力や工夫に左右される創造的な過程である.
研究のアイデアが浮かんでくる初期段階では,アイデアを性急に批判的に考えないほうが賢明である.
心に浮かぶままに,関心あるおおまかな領域を気楽に杳きとめておくのがよい.
浮かんだアイデアを書きとめる用語は,抽象的でも具体的でも,また,幅広くても特定のものであっても,専門用語でも口語でも,この時点ではほとんど問題にならない.
大事なことは,アイデアを紙に書きとめることである.
心に浮かぶトピックの例としては,ナースと患者とのコミュニケーション,がん患者の疼痛,手術後の見当識障害などがある.
このはじめのステップに続いて,アイデアを,そのトピックについての関心や知識,トピックを研究プロジェクトに変えていく実行可能性という観点で仕分ける.
もっとも実りのあるアイデアを選んだあとも,残りのアイデアのリストを捨ててはならない.再び立ち戻る必要が生じるかもしれない.
トピックを絞る
関心あるトピックを1つ見つけたら,研究可能な問題につながるような問いを発する必要があろう.
以下に,探究の焦点を定める助けとなる問いを,例としていくつかあげよう.
・さしあたり何から始めるか.
・どんなプロセスがあるのか.
・どんな意味があるのか.
・なぜ行うのか.
・いつ行うのか.
・どうやって行うのか.
・解決のために何ができるのか.
・範囲はどのくらいか.
・その強さはどのくらいか.
・どんな影響があるのか.
・何か原因か.
・どんな特性がそれと関係しているか.
・どんな違いがあるか.
・その結果はどうなるか.
・どのような関係があるか.
・どんな因子が関与しているのか.
・それ以前にはどんな状態が普及しているのか.
・どのような効果があるか.
やはり,性急にアイデアを批判するのは建設的ではない.
あるアイデアをもっと慎重に考えたり,または助言者や同僚と探求する前に,そのアイデアをつまらないとか創造的でないなどと飛躍して結論を出すべきではない.
研究初心者は,自らの方法論上の能力レベルを超えた,あまりにも範囲の広い問題や複雑で手に負えない問題をとりあげがちである.
おおまかなトピックを研究可能な問題に変えるには,一連の逐次接近法など,数多くの平坦ではないステップを踏む.
それぞれのステップを踏んでいくことによって,問題の範囲を狭めるという目標や,概念を明確化し定義するという目標に向かって進んでいける.
おおまかなトピックから特定の研究可能な問題へと研究者が進んでいくにつれて,複数の潜在的な問題が現れてくる.
例をあげてみよう.
あなたが内科病棟で働いていたとして,何人かの患者たちが,ある特定のナースたちが受けもちになったときには鎮痛薬を待たされることに対して不満を訴えるが,別のナースに対しては不満を訴えないという事実に当惑したとしよう.
このおおまかな問題領域は,鎮痛薬を管理するナースが異なり,患者からの不満に違いがあるということである.
そこであなたは,次のような問いを発するだろう.
「この食い違いをどう説明できるのだろう」,「どうすればこの状況を改善できるのだろう」.
このような問いは,あまりに範囲が広くあいまいなので,実際の研究設問にはならない.
そこで,「2つのグループのナースはどのように違うのだろうか」,「各グループのナースの特性はどのようなものだろうか」,または「不満を訴える患者たちに共通の特性は何であろうか」というような別の問いを発することになるだろう.
この時点で,患者とナースの民族的背景が関連因子であることがわかるかもしれない.
あなたは看護ケアとの関連で民族性を研究した文献を検討してもよいし,自分が観察したことをほかの人と討議することもできよう.
こうした努力の結果,次のようないくつかの研究可能な問いが得られるだろう.
・異なった民族的背景をもつ患者が不満を訴える本質は何か.
・鎮痛薬を待っている患者の体験とはどのようなものか.
・異なった民族的背景をもつ患者の不満は,どのように表現され,ナースはどのようにそれに気づくのか.
・ナースの民族的背景と鎮痛薬を与える頻度には関係があるか.
・患者の民族的背景と,鎮痛薬を待っているときの不満の頻度と不満の大きさとには,関係があるか.
・患者が不満を訴える回数は,ナースと民族的背景が同じである場合と比較して,異なる場合のほうが増えるのか.
・ナースの与薬行動は,ナースと患者の民族的背景が同じであるか否かによって左右されるか.
これらの問いはいずれも同じおおまかな問題から出てきているが,それぞれ違った研究となろう.
たとえば,質的アプローチが示唆されるものもあるし,量的アプローチが示唆されるものもあろう.
量的研究者は,民族の違いに関する文献からの興味ある事実をもとに,ナースの与薬行動について知りたがるかもしれない.
民族も,ナースの与薬行動も,簡単で信頼できる方法で測定できるような変数である.
患者の不満の違いに気づいた質的研究者は,不満の核心(essence),患者のフラストレーションの体験,問題が解消するプロセス,ナースと患者間の与薬に関する相互作用のすべての特性(nature),を理解することにさらに関心をもつだろう.
これらは,量的に測定することがむずかしい研究問題の領域である.
研究者は,いくつかの因子をもとに研究すべき最終的な問題を選ぶ.
それには,彼らの本来の関心があり,好みのパラダイムと矛盾しないという要素も含まれる.
さらに,仮の研究問題は,通常,実行可能性や価値によって変更が加えられる.
それは,アイデアが適切かどうかを批判的に評価するということである.
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