質的アウトカム分析|【統計学・統計解析講義応用】
質的アウトカム分析
質的研究者は,健康にかかわる現象や,健康,病気,けが,介護といった人々の経験を理解するために,大きく貢献した.
しかし,質的研究者は,質的研究から導出した介入の開発,実施,評価には,あまり着目してこなかった.
モース,ペンロッド,ヒュプシー〔Morse, Pen rod,& Hupcey, 2000〕が考えるには,質的研究者は,理論を開発し,具体的な臨床的介入を特定して評価するという移行にあたって,手順となる指針を欠いていた.
彼らは,質的研究における理論と実践の隙間に対応するため,質的アウトカム分析(qualitative outcome analysis: QOA ; 質的成果分析)という手順を開発した.
概して,質的研究者は,特定の文脈に照らして,現象を包括的に理解しようとする.
介入がプロジェクトの焦点ではないため,経験しているあいだに介入として提供された看護の方略について,記録しなかったり,研究者の概念図式に組み入れないこともあろう.
しかし,その後に続くQOAプロジェクトで,介入に関する追加データを収集できる.
QOAは,臨床上の問題を検証した,すでに完了した質的研究を基盤につくる.
モースらは,研究者がQOAプロジェクトを計画し実施する際に従う,一連のステップについて概要を説明した.
つまり,介入の実施が可能かどうか,臨床環境を査定すること,そして適切な研究チームを組織すること,という2つの予備ステップが重要である.
これらのステップを完了し,管理組織内評価委員会の承認を得たのち,次のような手順をとる.
ステップ1:介入方略のプログラムの概要を説明する:オリジナルの理論をもちいて,臨床上の問題のダイナミクスを概念化し,適切な介入を特定する.
ステップ2:収集すべきデータの種類を特定する:介入を解釈し評価する助けとなるであろうすべての種類のデータを検討しなくてはならないが,観察がとくに重要となろう.
ステップ3:データ収集プロトコルを作成する:記録方略としてデータの記録書式を開発し,データ収集を行う人々の洞察力を鍛える.
ステップ4:データを分析する:過程とアウトカムの双方について,データを質的に分析する.
ステップ5:研究結果を広める:QOAプロジェクトの結果は,看護実践にとって重要な場合は,刊行する必要がある.
QOAプロジェクトの例
モースとドバーネック〔Morse & Doberneck, 1995〕は,最初の質的プロジェクトで,4群の患者(乳がん,心臓移植,脊髄損傷,職場復帰後の母乳育児)において,7段階の「希望」のプロセスを確認した.
次に,患者が希望のどの段階にいるのかをナースが特定する助けとなる,Hope Assessment Guide (希望アセスメントガイド)を開発した〔Morse, Hutchinson, & Penrod, 1998; Penrod &Morse, 1997〕.
臨床環境でHope Assessment Guideをもちいるという実行可能性を評価するために, QOAプロジェクトをデザインした.
2次分析
オリジナルの量的研究で,既存の収集データを分析することがある.これを「2次分析(secondary analysis)」という.
概して質的研究者は量的研究者と同様,本来,分析するデータよりもはるかに多くのデータを収集する.
質的データの2次分析は,豊かなデータセットを有効に活用する機会となる.
しかし,質的データの2次分析には欠点もある.
第1の欠点は,適切なデータペースの特定がむずかしいことである.
大きな量的データセット(とくに政府助成調査によるもの)が利用できることは広く知らされている.
しかし,質的データセットを所蔵している所は少ない(例:ラドクリフ・カレッジのマーレイ研究センターは,とくにメンタルヘルスの分野の資料を豊富に備えている).
適切なデータセットを特定するには,通常,多くの調査が必要である.
おそらく,もっとも典型的な方法は,報告書を頼りに,関心があると思われる質的データを書いた研究者や研究者チームに連絡をとることである(しかし,質的研究者は,自分でさらに分析をしようとしていることがあるので,全員がデータを提供してくれるとはかぎらない).
もう1つの論点は,量的研究によるデータは,容易にコンピュータファイルに保存でき,データセット内のものを記録する標準プロトコルがあることである.
質的データは,さらに量が多く,コンピュータファイルに保存し,記録し,コード化する方法は,ほとんど確立されていない.
しかし,多数の利用者が多様な目的をもって豊かな質的データセットを容易に使えることに価値がある,と研究者が認めるにつれ,こうした状況は変わりはじめている〔Manderson, Kelaher, & Woclz-Stirling, 2001〕.
ゾーン〔Thome, 1994〕は,5種類の質的な2次分析を明らかにした.
1.分析の拡大:オリジナルの研究者は,理論の基礎がかたまるにつれ,新しい課題に答えたり,またはさらに高度な分析での問いを投げかけるために,自分のデータをもちいる.
2.後ろ向き解釈:オリジナルの研究では十分に査定していなかった新しい課題を検証するために,オリジナルのデータベースをもちいる.
3.机上の帰納法:この種の2次分析は,既存のデータセットに帰納的方法をもちいるような理論の開発に使う.
4.標本の拡充:さまざまなデータペースを比較することで,より広範な理論を開発する.
5.クロス確認(cross-validation):新しい結果を確定し,オリジナルの標本ではできなかったパターンを特定しようとする際に,既存のデータセットを使う.
ゾーンは,オリジナルの研究者がもっていた偏りの影響が広がる可能性や,オリジナルのデータセットを利用することに関する倫理的課題など,質的研究の2次分析に濳む危険性に注意を促している.
もう1つの難点は,オリジナルの研究でのデータセットの質の評価とかかわっている.
ヒンズ,ヴォーゲル,クラークーステファン〔Hinds, Vogel,& Clarke-Steffen, 1997〕は,まさにこうした目的のためのアセスメント用具を開発した.
このアセスメント用具は,2次的な研究設問の適合性,データセットの完全性,そして主要なチームの訓練について判定する基準をあつかうものである.
質的データの2次分析の例
プッチャー,ホークアップ,バックウォルター〔Butcher. Holkup, & Buckwalter, 2001〕は,アルツハイマー病患者家族のケアリングの体験を描いた、103の面接の逐語記録を2次分析した.
これらの面接は,コミュニティを基盤とする心理教育的看護介入を検証する,4年間にわたる,さらに大規模な縦断的研究から得たものである.
ブッチャーらは,現象学的方法をもちいて,看護介入が行われる前に実施されたこれらの面接について,2次的分析を行った,
関連記事