調査とエスノグラフィーの研究例|【統計学・統計解析講義応用】
調査とエスノグラフィーの研究例
ポーリット,ロンドン,マルティネスは, Urban Change (都市変容)として知られる研究プロジェクトの学際的研究チームの一員であった.
プロジェクトは,都市の貧困母子家庭を研究するためにデザインされた.
こうした家族は,生活保護に影響する新しい政策に直面していた.
ポーリットらは,調査のデータと,研究の構成要素であるエスノグラフィーのデータを分析し,これらの家族の健康とヘルスケアを検証した.
研究では,クリーヴランド,ロサンゼルス,マイアミ,フィラデルフィアの4大都市(米国の福祉対象件数の約14%が住む)に住む貧困女性からデータを収集した.
各都市の極貧地域に住む, 1995年5月の生活保護受給者のなかから,約4000人の調査回答者の標本を無作為に選んだ.
女性たちを,まず1998〜1999年のあいだに面接し, 2001年に2回目の面接をした.
縦断的エスノグラフィーによる面接と観察のデータは,それぞれの場所から選んだ地域に住む約160家族(1つの場所につき40家族)から収集した.
エスノグラフィーの回答者は,1人として調査標本には含まれていなかった.
ポーリットらは,健康に関連する物理的窮状(例:危険な家,ホームレスであること),身体的健康,精神的健康,家庭内暴力,薬物乱用,ヘルスケア,健康保険など,こうした女性の生活における数々の健康問題を検証した.
多くの女性が,複数の健康問題を抱えていた.調査の問いの1つとして,女性に,自分の健康を「優れている」「とてもよい」「よい」「ふつう」「悪い」と評価するよう求めた.
女性の約26%が,自分の健康を「ふつう」または「悪い」と答えたが,同年齢の女性の全国平均は8%であった.
しかし,エスノグラフィーのデータによって,実際には,調査結果が示したよりもかなり広範囲に,健康問題が存在することがわかった.
エスノグラフィーの回答者で「よい」健康状態であると答えた人でも,徹底的な面接をしてみると,実際はきわめて悪い健康状態である場合がいくつかあった.
以下は,自分の健康は「かなりよい」と言った女性のエスノグラフィーの面接からの引用である.
面接ののち,面接者は,女性が負った怪我について詳しく調べた.
回答者:あたしは3番目の棚の上に立っていたんだ.足場を失って,かかとを棚に打ちつけた.神経節の辰胞腫揚が軟組織で大きくなっていた.
あの人たち(メディケイドの担当者)が手術を許可する前に,もう,腱や神経の中で大きくなりはじめていたんだ,で,今は神経がやられてしまってるんだよ.
面接者:以前,背中も痛めた,と言ってましたね.よくなったのですか.
回答者:いや,よくなっちゃいない.けれど,あたしはこのままやっていくのさ.痛いからって,へこみやしない,喘息だって,あたしを止められやしない.
面接者:喘息もあるのですか.
回答者:そうさ.けれど考えないようにしてるんだ.…性質の悪い気管支炎が治ったところさ.5月には乳房手術だって受けた.がんじゃなくてよかった.
健康状態が「よい」と言った別の女性も,子宮頸がんの疑いで検査を受けに医師のところに行っていたと,のちに認めた.
しかし,彼女は,検査結果を確かめに行っていなかった.
「とても健康」と言った別の女性も,のちに,足にがんがあることを認めた.
このように,エスノグラフィーのデータから,健康状態について直接に質問しても問題を隠してしまうことがあり,健康問題に焦点をあてる必要がなくても,徹底的な話しあいをするだけで問題が明らかになるとわかる.
こうした分析結果から,2回目めの調査について,いくつもの見直しをした.
また,エスノグラフィーの後半には,調査から得たいくつかの健康測定尺度を組み込んだ.
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