非実験研究|【統計学・統計解析講義応用】
非実験研究
実験デザインや凖実験デザインでは取り組むことができない,多くの研究問題がある.
たとえば,寡婦暮しが健康状態に与える影響の研究に関心があるとしよう.
独立変数は,寡婦と非寡婦である.明らかに,われわれは寡婦状態を操作できない.
人々が配偶者を失ったのは,無作為でもなく,研究コントロールに従ったのでもない.
このように,われわれは,自然に生起することとして2つのグループ(寡婦と非寡婦)をとりあげ,健康状態という点から両者を比較しなければならないだろう.
非実験研究を行う理由
看護研究を含む,人間を対象とする研究の多くは,非実験的(nonexperimental)である.
非実験デザインをもちいる理由の1つは,膨大な数の人間の特性は,本質的に実験操作に従属しない(例:血液型,パーソナリティ,健康信念,医学的診断).これらの特性が,他の現象に与える影響は,実験的に研究できない.
第2に,他領域と同様に,看護研究には,技術的には操作できようが,倫理的には操作すべきでない多くの変数がある.
独立変数を操作することが対象に身体的ないし精神的な害をもたらすような場合,その変数を実験的にコントロールすべきではない.
たとえば,出生前ケアが乳児死亡率に与える影響を研究していたとしたら,一方の妊婦群にはそのようなケアを提供し,他方の妊婦群には故意にケアを提供しないということは,倫理的ではなかっただろう.
われわれは,出生前ケアを受けていない自然派生的な妊婦群を探しあてる必要があっただろう.
これらの女性たちの出産結果を,適切なケアを受けた女性たちの結果と比べることができただろう.
しかし,問題は,これらの女性たちの2群では,年齢,教育,栄養,健康など,多くの特性が異なっているだろう.
これらの特性のどれもが,出生前ケアを受けたかどうかに関係なく,単独で,または組み合わされて,乳児死亡率に影響していたかもしれない.
まさにこの点が,実験デザインが因果関係を説明するのにとても強力である理由である.
第3に,真の実験を行うには,単に実際的でないという研究状況が多い.
それらの制約として,不十分な時間,管理者による認可の欠如,患者やスタッフへの接触が極端に不便,十分な資金の欠如などが含まれるだろう.
第4に,実験デザインが適当でない研究設問がいくつかある.これは,現象の特性,頻度,強度,または性質全体を記録しようとする記述研究に関して,とくに真実である.
質的研究は非実験的である.操作を行わないのはもちろんのこと,望ましくない.大切なのは,人間の日常の体験である.
最後に,通常,非実験研究は,実験研究を計画する前に必要とされる.
実験介入は,非実験研究が,問題の範囲を記録し,関連する変数問の重要な関係を記述したものを基礎に開発される.
遡及的4日間研究
非実験研究は,大きく2つに分けられる.その最初のものは,遡及的研究といわれてきた.
事象のあとから,遡及的に(from after the fact)」という意味である.
これは,独立変数の変動が生じたあとで,研究が実施されていることを意味している.
遡及的研究は,介入なしで,自然に生じる現象間の関係を理解しようとするものである.
遡及的研究を,相関研究(correlational research)ということのほうが多い.
基本的には,相関(correlation)とは,2変数間の相互関係,または関連であり,ある変数の変動に関係している他の変数での変動の傾向性のことである.
たとえば,人間の大人では,身長と体重は相関している.
というのは,大きな人は小さな人より重い傾向にあるからである.
相関研究は,いくつかの構造的特性が,実験研究,凖実験研究,および前実験研究と共通していることが多い.
相関研究が,不等価コントロール群事後テストのみデザイン(前実験デザイン)とかなりよく似ていることがわかる.
前実験デザインが相関研究と異なるのは,介入の導入,Xがあるという点のみである.
相関研究の目的は,実験研究と同じく,変数間の関係を理解することである.
しかし,独立変数に対するコントロールがないため,相関研究における因果関係の推論にはリスクがある.
実験では,調査研究者は,独立変数Xにおける意図的な変化により,結果として従属変数yの変化を引き起こすという予測を立てる.
たとえば,新薬を投与すれば,それによって患者の回復がもたらされると予測したとしよう.
実験者は,Xを直接にコントロールする.
つまり,ある対象には実験処理を施し,ある対象には実験処理を施さず,2群は無作為化によって,独立変数を除く他のすべての点で均等化できよう.
一方,相関研究では,調査研究者は,すでに起きてしまっている独立変数をコントロールできない.
独立変数,つまり推理された原因となる因子の検証を,事象の生起後に行う.
結果として,因果関係についての結論を導き出す試みは,問題が多い.
たとえば,喫煙本数と肺がんのあいだに相関があると仮定しよう.
経験的なデータは,喫煙者は非喫煙者より肺がんにかかりやすい,という予測をほぼ確証するだろう.
われわれが行いたい推論は,喫煙ががんの原因であるということである.
しかし,この種の推論は虚偽の論法であって,事後に,ゆえにこれによって起きたというものである.
その誤りは,単に時間的にそれが他方より前に生起したという理由で,ある事柄が他方の原因であると仮定した点にある.
なぜ因果関係の結論が保証されないかを説明するために,都市部には圧倒的多数の喫煙者がいて,一方,田舎の人々の大多数は非喫煙者であると仮定しよう(くれぐれも,例としてである).
さらに,肺がんは,都市部での劣悪な環境条件が,実際には原因であると仮定しよう.
そうすると,喫煙と肺がんという2変数間に強い関係性が示されたにもかかわらず,喫煙が肺がんの原因であると結論するのは不正確になるだろう.
喫煙と汚染された環境に住むという「本当」の原因とのあいだにも,強い関係があるからである.
もちろん,現実に喫煙と肺がんの研究は,とても多くのさまざまな集団に,とても多くのさまざまな場所で,これまで繰り返し行われ,両者の因果の推論は証明された.
この架空の例は,「相掲は,因果関係を証明しない」という,有名な研究の格言を説明する.
変数間に単に関係が存在し,それが強い関係であっても,一方の変数が他方の変数の原因であるという結論を保証するには十分ではない.
相関研究は,実験研究よりも,因果関係を明らかにすることにおいては本質的に弱いが,さまざまなデザインによって,さまざまな段階での支持的なエビデンスが与えられる.
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