臨床試験登録制度の役割と重要性|【統計学・統計解析講義応用】
臨床試験登録制度の役割と重要性
臨床試験では,ボランティアの被験者を対象として,実験を行うことにより科学的データを得ている.
臨床試験の主な目的は,医学的根拠の基盤を発展させることと,臨床的意思決定に関する情報を与えるための一般化した知識を得ることにある.
個々の研究とその結果にアクセスできることは,この目的の達成には必要であり,同時に倫理的,法的,科学的な面からも重要である.
最近注目を集めた事例からも明らかであるが,現在進行中または終了した臨床試験を系統的に情報公開しなければ,具体的な医学的介入の安全性や有効性に関する理解が歪められる結果につながる。
一般に公表される臨床試験登録制度や結果のデータペースには種々の目的があり,利用する人々も多岐にわたるが,主要な目的は,臨床試験やその結果を試験の各段階に応じて十分に開示することによって,不十分な開示によるバイアスを減らすところにある.
また,透明性に関する最近の傾向や問題を検討し,公衆衛生や科学の進展に役立てる方法を探る.
このため,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health. NIH)の国立医学図書館(National Library of Medicine, NLM)が運営する世界最大の臨床試験登録データベースであるClinicalTrials.gov(http://clinicaltrials.gov/)を事例として取り上げる.
背景
臨床試験の登録(clinical trial registration)とは,試験開始から試験終了までの期間に,被験者を対象にした介入試験の重要な要約についてウェブ経由で公開することをいう.
登録されたデータには,募集状況,適格基準や連絡先など試験に関する情報が含まれる.
結果報告(results reporting)とは,構造化されたウェブ経由でアクセス可能なデータベースを用いて試験結果(study result)の概要を公表することを指す.
この試験登録と結果報告という2種類のプロセスは,臨床試験の段階を通して継続する.
臨床試験登録と結果報告が必要とされる根拠
臨床試験の登録が必要であることは,異なるグループにより様々な根拠が提案されており,さらにその根拠の範囲は.新たな問題に対処するために次第に拡大してきた.
Simes (1986)は,総合的な前向き臨床試験の登録制度の必要性を主張した最初の研究者として知られている.
Simesの主張は,肯定的な結果は否定的な結果よりも公表されやすい(出版バイアス)ことから,「これまでの手法だけに頼る文献レビューでは,新規治療法に関して,過度に楽観的な結論をもたらしている」ということであった.
すべての臨床試験に関する要約を掲載した登録制度へのアクセスが可能であれば,現在進行中または終了した関連のある試験をすべて特定し.そのなかでどの程度の試験結果が公表されているかを知ることができる.
また.臨床試験を登録し結果を公表するシステムがあることによって,臨床試験の倫理原則が遵守されることになると主張する研究者もいる.
1例を挙げるなら,ヒトの健康に影響が及ぶ恐れのある医学研究は,その結果として一般化された知見が得られることを前提として行われる.
しかし,試験とその結果が一般に公表されない場合は,生物医学知識ベースの発展は望めないことになる.
臨床試験の登録と結果を公開するシステムは,倫理的要求を普及させることにつながる。
実際,ヘルシンキ宣言(2008)のヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(Ethical Principles for Medical Research Involving Human Subjects)では,全前向き臨床試験の事前登録制度に加えて,「肯定的な結果とともに否定的な結果や結論に至らなかった結果」についても公表するよう定められている.
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